長倉優香Side③
ぼくの中で正寛くんのことを信じていいのかという疑問が湧き出てきた。お姉ちゃんはかなり疑っている。
最近は学校内でも正寛くんと一緒に行動しないぐらいに。今までそんなことなかったから、正寛くんはかなり困惑している様子だった。
正寛くんからは「急にどうしたんだい?」と言われたりもしたけど、ぼくたちはその答えを濁す。ここで本当は「あの時助けてくれたのは正寛くんなんだよね?」と質問すればいい。
それで答えが『そうだよ』と返ってくれば少しは安心できるかもしれない。
でもその答えに少し躊躇ったり、無言だとぼくの中で正寛くんという男の子への信頼が絶対に崩れちゃう。
だからぼくにはできなかった。
それから数日してぼくは正寛くんみたいな人に会った。
あのぼくたちのことを何とも思っていなくて、ちょっと冷たいオーラをまとっている感じが最初に出会った時の彼に近い。
サングラスやマスクだけじゃなくて、雰囲気も本当に似ていた。今の正寛くんからじゃ感じることのない雰囲気。
その後のぼくはおかしかった。
その似ている人の袖を掴んでしまった。
自分でもなんで袖を掴んだのかもわからない。正寛くんに似ていると思ったからなのか。
そして今の自分が思っていることをたくさん話した。理由は説明できないけど、彼には自然と話せてしまう。こんな個人的なことをお姉ちゃん以外に話したりすることは今までなかった。
正寛くんと似ているようでちょっと違う彼の隣にいると心が穏やかな気持ちになれて、自分の気持ちが出てしまう。
袖を掴んでいるって言ってもぼくの力なんてたかが知れている。それなのに彼はぼくの話が終わるまでずっと隣にいてくれた。
あれは嬉しかった。
ぼくは弱いから、あそこで彼もどこかに行っちゃったら今度は大声で泣いたかも。
それを彼が分かっていたのかわからない。ただ気まぐれでぼくの話を聞いてくれたのかもしれない。
それは分からないけど、ぼくは彼が隣にいてくれて本当に嬉しかった。
かなり長く付き合わせちゃった。
たぶん、スーパーに買い物に来ただけなのに。
それでも、彼は「気にしなくていい。キミの気がこれで収まったのなら」と言ってくれた。彼のまとっている雰囲気からして「無駄話に勝手に付き合わせるな!」って怒鳴られてもおかしくないと思っていた。
だからまさか、あんな風に言ってくれるとは。
彼が去っていく姿を見ながら、ぼくはこれからのことについて考える。
今、ぼくやお姉ちゃんがどっちにも踏み込んでいない。
このまま気にせず、正寛くんと過ごそうとするわけでもなく、正寛くんを問い詰めるわけでもない。ただ距離を取っているだけ。
いつかは絶対に正寛くんに向き合わなくちゃならない。もし、本当にぼくたちのことを助けたのが正寛くんだったらちゃんと言って欲しい。
嘘を付いているとしたら言って欲しい。
なんで嘘を付いたのか。
ぼくたちは助けられたから正寛くんに対して興味を抱き、話していく中で人間性に触れて好意を抱くようになっていった。
あくまで助けられたのは出会いに過ぎない。
でも、その出会いがなければ、ぼくたちが会うことはなかった。
だからその出会いは大切にしたい。
もし、正寛くんじゃなくて他の人に助けられたのなら、その人に感謝する気持ちをぼくは正寛くんに向けていた。
そして何より、ぼくが許せないのはぼく自身。
最悪の可能性が本当だったら、ぼくは正寛くんのことを助けれてた恩人だと決めつけて、その人に対して恋を抱き、夢中になった。
ぼくはぼく自身が本当に情けないと思う。
「これから…ぼくはどうすればいいの…」




