#3
環境が大きく変化しても、月日同じ速度で進む。
アリヴァー家の現当主……俺の父だったひとは無期限の投獄が決定した。他にも重刑を言い渡された人は数名いたけど、ほとんどは国外追放という形になった。
あくまでクリスタッドに入国できないだけだから、逃げた先でまた悪事を働かないか心配だったけど、リザベルさんはそれは大丈夫だろうと零した。
「彼らのことは世界中で共有してるし、位置情報が分かる端末を首に埋め込まれてる。顔に特殊な烙印もされてるし、変な気は起こさないと思うよ」
「そうか。すごいですね……」
これまでの罪を洗い出すのは難しいとはいえ、それなら少し安心だ。
ユノは腕に巻かれた包帯と顔の湿布を剥がし、リザベルに頷いた。鏡に映った姿を見て静かに息をつく。
まだうっすらと痕は残っているが、痛みは完全になくなった。
休養してから二週間が経とうとしている。街で横行していた呪物も回収が進み、再びいつもの平和な日々に戻ろうとしていた。
それは呪力を祓う一族のおかげでもある。
「やあユノ。具合はどうだい?」
「マレードさん。もうすっかり元通りです」
ドアをノックし、現れたのはシルヴィア家の当主。にこやかに杖をつく男性、マレードさんだ。
呪物の件も彼が疑いを晴らしてくれていた。ヴァレットさんが話してくれた通り、精密検査の末俺はシルヴィア家の血を引く人間だとわかった。
ヴァレットさんも今は護衛がついて、安全な保護施設で休養させてもらっている。本当に、彼らには感謝しかない。
「それは良かった。献身的な保護者もいるし、安心だ」
マレードさんは破顔し、俺の隣にいるリザベルさんを見た。
保護者……間違ってはいないけど、リザベルさんはどう思ってるんだろう。
心配になっていると、意外にも彼は誇らしげに瞼を伏せた。
「ええ。私も全力で彼を守る所存です。……それにユノはこう見えて強い子ですから」
「ははは。それは何よりだ」
マレードさんも何度か頷き、それから俺の頬を撫でた。
「リザベル殿含めクリスタッド国には本当に世話になりました。私の大切な孫を救ってくれたこと、心から感謝申し上げます」
「いえいえ。……え。孫?」
リザベルさんは一瞬硬直し、しかしすぐに咳払いした。
「……失礼。ではユノはシルヴィア家の」
「あぁ。息子の後を継いでほしいと思ってるよ」
驚くリザベルさんとは反対に、俺は薄々そんな気がしていた。
マレードさんが俺を見る目は、行方不明の子どもを見つけた、だけに留まらないものを感じたから。
俺にも本当に血の繋がった人達がいる。それはとても不思議で、奇跡のように思えた。
「ユノ。君のご両親は今は最北の小国にいるが、私と同じで君のことを捜し回っていたんだ」
マレードさんは俺の前に屈み、優しく微笑んだ。
「生きてると信じて捜していたが……見つけ出すのに時間がかかってしまった。本当にすまない」
「とんでもない。それに俺は」
今はもう、寂しくない。
聞き覚えのある声がして振り向き、静かに笑った。
「既に助けてもらったんです。ちょっと強引だけど、すごく優しい王子様に」
マレードさんにぶつからないよう後ずさる。案の定後ろから強い力で抱き締められ、転びそうになった。
何だかとても懐かしい。俺の未来の旦那様。
「俺とずっと一緒にいてくれるって、約束してくれました。……そうでしょ? リザベルさん」
「あぁ。この名にかけて誓おう」
リザベルさんは深く頷き、俺の手を握った。
その様子を見ていたマレードさんは少し考えた様子で、口元に手を当てた。
「そうか……。ではリザベル殿。ユノのことですが」
「は、はい」
マレードさんに声を掛けられ、リザベルさんは顔を上げる。俺も隣にいたせいか緊張していた。
「本当はユノを連れ帰り、両親と親族に会わせてやりたい。ですが貴方含め、ユノも心の整理が必要でしょう。なのでもう少しだけ、こちらに住まわせてやっていただけませんか?」
「それはもちろん……でも、よろしいのですか?」
リザベルさんが尋ねると、マレードさんは頷いた。
「マレード様……ありがとうございます!」
良かった。
嬉しそうに御礼を言う彼を見て、俺も遅ればせながら喜びが込み上がってきた。
本当の父と母に早く会いたい。けど、俺を救い出してくれた彼とも離れたくなかったから。
叶うなら皆一緒にいたいけど、望みは胸の中だけに仕舞っておこう。
「さて……そしたら私は戴冠式前に急いで戻ろう。その時はユノの両親も連れてまいります」
「マレードさん……ありがとうございます!」
改めて彼に御礼を言うと、そっと頬を撫でられた。
「素敵なパートナーが見つかって良かったよ、ユノ」
マレードさんは、ただ傍にいるだけで心が和らぐ。その理由はちゃんとあったんだ。
「それではリザベル殿。孫を末永くよろしくお願いします」
「はい。……って」
何だか含みのある一言が付け足されてるな……。リザベルさんと顔を見合わせてる間に、彼はお供を連れて行ってしまった。
悲しんだり喜んだり、少しの間に色々あり過ぎて脱力してしまう。
ソファの背に手を置くと、リザベルさんが抱き寄せてくれた。
「ユノ、大丈夫?」
「は、はい。マレードさん、俺達のこと勘づいてそうでしたね」
「本当にね。さすがだ」
彼は笑っていたが、急に俺を抱き締めた。
「ユノ……私はこの国で一番強い独占欲の持ち主だと自負している」
「それはあまり自負しなくてもいいんじゃ……」
「いいや、君限定。ということを大々的に伝えていくつもりだ。……どこに行っても会いに行くよ。君が本当の故郷に帰っても」




