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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
誓いの儀

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32/35

#2



壁に手をつたい、何とか一階まで上がることができた。しかしここから裏口までが遠い。足を引き摺りながら、二人で暗い先へと進む。


「そういえば、今クリスタッドで呪物が流れてるんです。それはなにかご存知ですか?」

「えぇ、あれはウェスタンド家……リザベル様を炙り出す為です。彼らが出てくれば、ユノ様も姿を現すだろう、と」


話を聞いていると、アリヴァー家もまだ混乱してるようだった。

レイスからすれば自慢の呪いが解けるわけないと思ってそうだし。リザベルさんが元気に仕事してると知ったら悔しくて卒倒しそうだ。

いや。見つけてもらった、かな。

何だかこそばゆくて、軽く頬を掻く。


「でも、今度こそ逃げてください」


彼女の言葉に頷く。やっぱり、この家を死に場所にはしたくない。

大変な事実を知ったというのに、自分は意外と落ち着いている。

むしろずっと絡まっていた鎖が解けた。

アリヴァー家はこれからも俺を狙ってくるだろうけど、以前とは違う。

居場所がなくて逃げ出したと思っていたけど、最初からここに居場所なんてなかったんだ。


今は俺を必要としてくれる人がいる。堂々と歩いていい。

好きなことをしろって、あの人にも散々言われたから。


「おい、何してる!?」

「!」


しかし、開けた通路に出た時に見つかってしまった。一族の者ではなく見張りだろう。

話し合いにならないから尚さらまずい。

「ユノ様……」

「だ、大丈夫です。ヴァレットさんは先に行ってください」

彼女だけでも先に逃がしたい。ヴァレットさんに促し、自分は入口より前の通路に立った。

「当主の息子……? 牢から逃げ出したのか?」

「何事だ? あっ!」

男が声を上げたことで一斉に人が出てきた。その中にはレイスもいた。

「ユノ!? くそ、一体誰が鍵を……」

「誰だっていいだろ。それより、お前も含めて皆、もっと早くに逃げるべきだったな」

自分を捕まえる為にこの城に居座っていたなら尚さら。さすがに能天気過ぎた。


「お前達は国を敵に回したんだ。リザベルさんに手を出した時から処罰されるさだめだったんだよ」

「この……役立たずのくせに!」


……っ。


レイスは激昂し、ポケットからナイフを取り出した。

銀色の光が振り上げられたのを見て、思わず目を瞑る。

それなりの痛みを覚悟したが、やけに静かだったた。

恐る恐る瞼を開けると、


「ふぅ。間一髪だね」

「リザベルさん!」


目の前に見えたのは、懐かしい背中。

レイスの腕を押さえるリザベルさんが立っていた。

幻覚じゃない。本当に……。

驚いて立ち尽くし、微笑む彼を見返すことしかできなかった。


「くそ……貴様、やはり生きていたんだな。でもどうやって俺の呪いを解いて……」

「あぁ、レイス君だったね。君にかけられた呪いはユノが解いてくれたんだ。シルヴィア家のひとりで、私の妻でもある彼が」

「何だと……!?」


レイスはリザベルさんの言葉を聞き、目を見開いた。

妻はだいぶ飛躍してるけど……リザベルさんも、俺がシルヴィア家の人間ということを誰かから聞いたようだ。


彼はレイスを押さえ込み、ナイフを取り上げた。喧嘩は強くないみたいなことを言っていたけど、レイスよりはずっと上手のようだ。


「もう観念しなさい。この城は包囲されてるから逃げられないよ」

「え……っ」


リザベルさんが目配せをしたと同時に、出口の方が騒がしくなった。見ると武装した兵が一斉に入ってきて、一族の者達を拘束した。

制圧まてがあっという間で呆けてしまった。それと、多分安心して気が抜けたのもある。

壁に手をついて凭れると、レイスを兵に引き渡したリザベルさんに抱き寄せられた。


「ユノ! 大丈夫!?」

「は、はい……」


彼の腕に抱かれ、小さく頷く。

あぁ。そんなに久しぶりでもないのに、彼の香りが懐かしく感じる。


「こんなボロボロになって……! もっと早くに助けられなくて、本当にすまない」

「大丈夫ですよ。むしろ迷惑ばかりかけてすみません」


謝ると彼はかぶりを振り、俺を強く抱き締めた。

「君になにかあったらどうしようとずっと考えていた。生きた心地がしなかったよ」

「あはは」

思わず笑うと、笑い事じゃないと怒られた。

もちろん俺だって、本当は泣きそうだ。

安心して、それに嬉しくて。でも周りに人がたくさんいるからグッと堪えた。


こんな時でも素直に泣けない俺は、やっぱり相当拗らせてる。リザベルさんは落ち着いてる俺のことが不思議そうだったから、尚さら超然と振る舞った。

また、王子様が助けに来てくれる絵本のことを思い出してるし。

我ながら呑気だな、と可笑しくなった。


「……そうだ。リザベルさん、女性が先に城から出てきませんでしたか?」

「え? あぁ」

「そのひとは俺の面倒を見てくれていた大事なひとなんです。呪術業には一切関わってません。だからどうか罰さないでください。お願いします……っ」


両手を握って訴えると、彼は優しく微笑んだ。

「分かった。……今は保護してるよ。聞き取りは必要だけど、すぐに解放してもらえるように私から頼もう」

「リザベルさん……ありがとうございます……!」


彼にお礼を言い、ようやく深く息をつけた。


アリヴァー家の人達が拘束される中、俺はリザベルさんに支えられて車に乗った。

「彼らの処分は後々決まる。今までの悪事はもちろん、君を誘拐したこともね」

「……」

国を巻き込むとても大きな事件だから、俺にはどうなるか分からない。

けど、今はリザベルさんの隣にいられるだけで充分だと思った。


「リザベルさん。助けに来てくれて、本当にありがとうございます」


彼の肩に頭を乗せ、掠れた声で呟く。倦怠感もあり、少し虚ろな視界を眺めていた。

本当はもっと遡って、小さなことにも御礼を言いたいけど……今はこんなことしか言えない。

「もう駄目かなって覚悟もしました。でもやっぱり、ほんとは会いたかったから。来てくれて嬉しかったです」

リザベルさんは小さく微笑み、俺の頭を撫でた。

「どこだろうと見つけ出すし、助けに行く」

窓の外の景色が、ゆっくりと流れていく。

黒一色だった世界はどんどん薄青に染まり、自分達が今いる場所を優しく教えてくれていた。


俺がいるべき場所は未だに分からないけど。

いたい場所は、これまでもこれからも決まってる。


胸の痛みを癒やす唯一の方法。息を殺さずに生きる為の、唯一の場所。


叶うなら、どうか“ここ”にいさせてほしい。

瞼を伏せ、すぐ傍にある熱を確かめる。


「ユノ。君は私の世界なんだ」


優しく手を握られる。

頬に冷たいなにかが流れたけど、何でもないふりをした。




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