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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
学びの間

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30/35

#10



そしてこれから口封じが待っている。古城に連れ戻されてから確信した。

カビ臭い地下牢に入れられ、天井から吊るされた錠に繋がれる。

これをつけられたのは初めてだ。拷問用だろうけど、子どもの頃は背が低くて届かなかったから。

というか、あの時はどうして牢に入れられたんだっけ。好奇心に負けて、外へ出ようとしたからだったか?


思い出せない。何も……。


現実逃避しようとしてるのか、どうでもいいことばかり考えてる。自分でもしようもないと思ったが、顔に冷水を浴びせられ、それらの思考は断ち切られた。


「よぉ。久しぶりだな、ユノ」

「レイス……」


現れたのはレイスだった。彼は大股でこちらまで来ると、俺の髪を掴んで上向かせた。

「生きてたんだな、お前。なのに家に帰らず、のうのうと王城で暮らしてたなんて……これは完全な裏切りだよな」

リザベルさんが反対してくれたおかげで政府はアリヴァー家に追加の措置は下してないはずだ。でも彼らにとっては音沙汰がないのも恐ろしかったのだろう。

レイスが見せる怒りも、裏を返せば恐怖から来てる。自分達が処罰されるかもしれないという不安に支配されてるはずだ。


「答えろ。お前がリザベルを連れて外へ逃げたのか?」

「あぁ。火事が起きたとき、何故かリザベルさんが目を覚まして……俺も一緒に城を出た」


声を落とし、視線も下げた。もう隠す気もない。

ここで全てを終わりにしても構わない。リザベルさんに言ったら怒られそうだけど。

嘘をつきたくない。だって、間違ったことをしたわけじゃないはずだから。

「俺は一族のお荷物だし、むしろここにいない方が皆嬉しいだろ?」

「この……」

わざと口端を上げて言うも、顔をはたかれた。レイスは怒りで震える拳を振り上げる。


「ああそうだよ。一族はもちろん、当主もお前が死のうと何とも思わない。ただリザベルに取り入ったなら人質の価値ぐらいは生まれるかと思って、わざわざ危険を冒して連れ戻してやったんだ」


レイスは側近から木棒を受け取り、俺の右脚に振り下ろす。

「ぐあ……っ!」

「火事のときを思い出したんだよ。お前が作った薬を飲ませようとした時、瓶が割れただろ。あれも実はお前がやったんじゃないかってさ」

痛みで意識が逸れそうになる。歯を食いしばり、何とか彼の話に集中した。

「お前、他にもなにか隠してるんじゃないか? あの火事を起こしたのも、実はお前なんじゃ」

……え?

「違う。俺にはいつも監視がついてたんだから、そんなの無理に決まってるだろ」

「ふん。なら真の役立たずで間違いないのか」

レイスは忌々しいと言いたそうに舌打ちし、木棒を床に投げつけた。


「俺は当主からお前の処分を決める権利を与えられてるんだ。お前は一族の害にしかならない。この牢の中で、俺達を裏切ったことを死ぬまで悔やめ」


政府が攻め込んでくる前に、明日には全員ここから引き上げるつもりらしい。

ずっと遠くの国に逃げて、また森の奥にでも潜伏するつもりだろうか。

結局そうやって日陰で生きるしかない。彼らも充分惨めで、哀れだと思った。

って、今一番惨めなのは俺か。


レイス達が出て行き、地下は静まり返る。殴られた部分は痛んだが、少しだけホッとした。

以前の自分ならもっと取り乱したはず。けど今落ち着いていられるのは、ひとりじゃないと分かったから。


例え死ぬ時はひとりでも、俺は一族以外に大切な人達ができた。


昔とは違う。心はボロボロに崩れ落ちていたけど、大切な記憶だけは唯一形を残していた。

リザベルさんも言っていた。恥ずかしいことなんかじゃないって。

城から出たことがないこと、家族から見捨てられたこと……そんなの大した問題じゃない。少し足を伸ばせば、全然違う世界が自分を待ってるんだから。


手錠で傷ついた手首を見つめ、口端を引き結ぶ。

短い間だったけど、俺は幸せだった。


でもやっぱり願ってしまう。


「リザベルさん……」


最期にもう一度だけ……会いたいな。




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