#9
連れて行かれたのは、壁一面が大窓になってる特徴的な応接間だった。
部屋にはマレードさん以外誰もいないけど、扉の外にはたくさんの警備隊がいる。
ラルドさんも入ることは許されず、こちらが心配になるほど狼狽していた。
リザベルさんは大事な出張中で、連絡がとれずにいる。それも理由のひとつだ。
次から次へと問題を起こして本当に申し訳ない。
やっぱり、俺の存在自体災厄だ。ため息を飲み込み、目の前の男性に向き直る。
「疲れただろう。そこにお座り」
「あ……失礼します」
席につき、改めて一礼する。一旦でも助けてもらったのは事実だ。
そして祓いの力を持つ一族……初めて聞いたけど、何故か懐かしい感じがする。見た目が優しそうなおじいさんだから、という理由じゃない気がするけど。
「落ちた伝票を拾っただけなのに……」
「はは、それも立派な縁さ。現にこうして結びつかせてくれただろう?」
彼はひとしきり笑った後、ゆっくり腰かけた。
「そこら中の国を回ったんだよ。……そして、ようやく見つけた」
「……?」
何のことだ?
不思議に思っていると、彼はさっきのお守りをテーブルに置いた。
「かすかに呪力が残ってるが、もう誰が持っても何も起きないはず。君がこのお守りにかかった呪いを祓ったんだ」
「でも……俺はそんなことできません」
自分がかけた呪いの解き方は教わっていたけど、他人がかけた呪いの解き方なんて。
「無自覚みたいだが、君にはその力がある」
「どうして?」
マレードさんは前に屈み、祈るように両手を握る。
なにかを躊躇っているように見えた。
俺も……ひとつの憶測に辿り着いているのに、それを口にするのが怖くて、何も言えずにいる。
自分が何者なのか。それを知ることは、これまでの自分を否定することのような気がしてしまって。
「ユノ。君は本当は……」
マレードさんが徐に話し始めた瞬間。
俺達の間にある大窓が割れ、凄まじい黒煙が入ってきた。
「何……わっ!」
逃げる間もなく腕を掴まれ、誰かに引き寄せられる。マレードさんのことが心配だったが、どうすることもできなかった。
目隠しと手錠をかけられ、抱きかかえられる。あっという間に城外へ運び出されてしまった。
車に乗せられたのは分かるし、連れ去った相手も分かる。幸い口は自由だったので、勇気を出して問いかけた。
「どこに行くつもりですか」
「……貴方の家ですよ。我々は旦那様に頼まれ、貴方を助けに来たのです」
やはり、父の仕業か。
ため息がもれそうだった。座席の両隣とも誰かが座っているから、目が見えても逃げることは難しそうだ。
それに笑ってしまう。助けに来たなら、手錠をかける必要がどこにあるのか。
こちらの心中を察したのか、傍にいる男性は静かに告げた。
「……貴方の為ですよ。少しでも反抗したら殺せと言われてますから」
「……」
疑われてるのは間違いなさそうだ。
一族からしても、俺がリザベルさんを連れ去ったのか、それとも連れ去られたのか。推し量れずにいるんだろう。
本当に帰ってきてほしいなんて思ってない。心配してるのは、俺が一族の秘密を外に漏らさないか、ということだけ。
今はもう、クリスタッドにもアリヴァー家にも居場所がない。




