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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
学びの間

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28/35

#8




「いたた……」

「大丈夫、ユノ? ごめんね、いつも羽目を外し過ぎちゃう」

「だ、大丈夫です」


なんせ俺も、最後はノリノリだったし。

夜が明け、ユノはベッドで寝込んでいた。昨夜はっちゃけ過ぎたこともあり、最近引き受けていた家事は休ませてもらうことになった。

全部終わったら痛みで後悔するんだけど、……心は満たされている。


またしたいな。

枕に顔を埋めながらリザベルさんの方を見ると、彼は優しげに微笑み、頭を撫でてきた。


「なにか欲しいものはない?」

「何も。……貴方がいれば」


何も考えずに言うと、彼は珍しく顔を赤くした。

「はぁ。ほんっ…………とうに、可愛くて耐えられない。なんなら今すぐ抱きたい」

「今日は勘弁してください」

蒼白になりながら答えると、彼は咳払いした。襟を直し、ベッドの端に腰を下ろす。


「来月には式を挙げようね。もう準備は進めてるから」

「え。本気ですか」


何も知らなかったけど、水面下では進んでたのか。

改めて驚いていると、彼は誇らしそうに一枚の紙を差し出した。

「これが我が国の婚姻届」

「ほ〜……」

難しそうな書類かと思いきや、案外わかりやすかった。これにサインすれば、晴れて夫婦になれるんだ。


「手筈が全て整ったらサインしてもらう。よろしくね」

「……」


もちろん、もうそのつもりだけど。拒否権なんて微塵も感じさせないな。

可笑しくて笑ってると、彼は俺が脱ぎ捨てた服を手にとった。

「これ洗濯しておくね。そうそう……」

リザベルさんは思い出したように、服の間からなにかを取り出した。

「床に落ちていたんだけど。これは?」

「それは……」

すっかり忘れていた。雑貨屋で貰ったお守りだ。

でも隠しておいた方がいいよな。

「ひ……拾いました。綺麗だったので、つい」

「そう……まぁ悪いものではないだろうけど」

彼はお守りをテーブルに置き、静かに告げた。


「他人が隠していた念が、後で出てくる可能性もある。君はよく分かってるだろうけど……気をつけるんだよ」


ゆっくり頷く。

確かに呪いを上手く隠してることもあるし、……何に関しても迂闊だったな。


後日。俺はまたお守りを懐に仕舞い、城を出た。


「ラルドさん。ごめんなさい、今日も付き合ってもらっちゃって」

「いえいえ。私も気分転換になりますし、むしろ有り難いです」


散歩として、今日も外へラルドさんと出掛ける。

リザベルさんは心配していたけど、城にこもりきりも良くないかと納得してくれた。

俺はまたあの雑貨屋さんへ行って、このお守りを返そうと思っていた。だが。


「何か、今日は少し雰囲気が暗いですね……」


ラルドさんは怪訝そうに呟く。俺は数回しか歩いてないけど、確かに活気がなく、大通りなのに人が全然歩いていなかった。

「戴冠式前で、いつもならもっと賑わうはずなのですが」

「そうなんですか……」

ふと、道端で座り込んでる青年を見つけた。具合が悪いのかと思ったが、なにかを抱き締め、ぶつぶつ呟いている。


「あの、大丈夫ですか?」


声を掛けて覗く。すると、彼が持っているものがあの雑貨屋で買ったお守りと同じことに気が付いた。

「明日……来る……良い人……」

「え?」

何を言ってるのか分からなかった。詳しく聞こうとしたものの、ラルドさんに腕を引かれる。

「ユノ様、こちらへ。大方違法薬物の中毒者でしょう」

「あ……でも、あの人が持ってるお守り、俺も持ってて」

ポケットからお守りを取り出す。翳してラルドさんに見せていると、近くにいた女性がふらふらとやってきた。


「それ……ねぇ、それ売ってもらえませんか?」

「えっ」


突然のことに戸惑うと、彼女だけでなくこちらに気付いた人皆が寄ってきた。

「おい、俺にくれ!」「待って、私にちょうだい!」

「いや、あの……」

どうしたらいいのか分からず後ずさる。その時、さっきのお守りを抱いていた男性が地面に倒れた。


手から滑り落ちたお守りは黒煙を発し、男性を飲み込んでいく。

あまりに非現実的な光景に、その場にいた全員が動けなくなった。


「本物だ。……本物の呪物だ。アレがあれば、憎い奴に使える」


誰かが呟いた。その瞬間、固まっていた全員が俺の方に駆け寄ってきた。

「それをくれ!」「それはどこで買ったの!?」

あまりの剣幕に押されそうになったけど、咄嗟にラルドさんが間に入り、俺の手を引いてくれた。

「事態がよく分かりませんが、急いで城に戻りましょう」

「は、はい」

逃げるように城へ戻る。大広間へ出ると、そこには大勢の人が待ち構えていた。

どうやら街の異変を既に聞いていたらしい。謎のお守りが市民の間で流行しており、それによって突然死するの者が現れたと。ひとりやふたりじゃないようだ。


「間違いない。アリヴァー家の仕業だ」

「えぇ。リザベル様を襲えなかった腹いせに、呪物を流してるんだわ」

「リザベル様は反対したが、やはり軍を率いて全員拘束すべきだったんだ」


ウェスタンド家の人達は討論していたが、不意に俺の方へ向いた。

「……ユノと言ったな。貴方が持ってるそれは……」

「あっ」

青い顔をした男性に指をさされ、ハッとする。

まさに今、件のお守りを手に持っている状態だった。広間内はざわつき、逃げようとする者まで現れた。


「お待ちください。ユノ様、それはどこで手に入れたのですか?」

「え。ええと、ですね……」


ラルドさんがフォローに入ってくれ、俺も慌てて頷く。正直に答えないと大変なことになると思い、街の雑貨屋で貰ったことを話した。ところが。


「本当に? ……よく考えたら貴方は、アリヴァー家にいたんですよね。実はリザベル様に取り入り、街に潜入することが目的だったのでは?」

「確かに。記憶喪失なんて、あまりに都合が良い」


今度は他の貴族達も同調してきた。かなりまずい流れだと思ったものの、否定しても証拠がない。


「アリヴァー家の者は皆同じ耳飾りをしてると聞きます。貴方がつけているそのピアスもそうなのでは?」


「いえ、これは」

「これは私がユノ様にお贈りしたピアスです」


ピアスのことを触れられ、髪を持ち上げる。

そこにはワインレッドのピアス……ではなく、翡翠のピアスがあった。

プレゼントしてもらった翡翠のピアスがもったいなくてつけられなかったけど、今日はラルドさんと出掛けるから付け替えていたんだ。

ラルドさんが弁解してくれて感謝したけど、彼らの疑心は膨れ上がる一方。

俺が持ってたお守りの呪力が無効化してることで、今度は俺が呪術に心得があると思われてしまった。

少しでも疑わしいとなれば無視はできない。ましてやここは王族の城だし、彼らになにかあれば国家の大問題だ。


「この呪物を持っていて平然としてられるのはおかしい。申し訳ないが、審議にかけさせてもらおう」


ひとりが指を鳴らすと、警備隊が続々と広間に入ってきた。捕らえられて、牢に入れられるのかもしれない。


大変だ。

何が大変って、……リザベルさんに迷惑をかけてしまうことが。

「……っ」

俺はどうなっても構わないけど、彼に危害が加わることだけが耐えられない。拳を握り締め、力なく項垂れる。

その時、人混みの奥から鈍い靴音が鳴った。


「お話中失礼。そちらの青年は私の知り合いでね。前に親切にしてもらったんだ」

「マレード様」


固まっていた人達が一斉に道を開ける。現れたのは、以前街のカフェで話した初老の男性だった。

「アリヴァー家の手の者という可能性は捨てきれないが、だからといって証明もできんだろう。手荒な真似はやめないか」

「で、ですが……」

「アリヴァー家は呪いをかけてばかりで祓う力には欠けている。彼が呪力を無効化したなら、むしろ凄いことだ」

この人は一体何なんだろう。とても偉い人みたいだけど。

傍にいるラルドさんに目配せすると、彼は小声で「マレード・シルヴィア様です」と告げた。


「祓いに特化した、今は極少数の一族の長です。王子の戴冠式が近いので、遠い北国から来賓者としてお越しいただているんですよ」


そうなのか。

しかしおいそれと口を開ける空気じゃないので、静かにその場に留まる。

マレードさんは持ってた杖をつき、俺の方を向いた。


「私が責任を持つから、少しだけ彼と話させてもらえないかい?」




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