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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
学びの間

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24/35

#4




ひとりの夜は悪いことばかり考える。


この広い世界で独りきり。自分以外に話せる者はいなくて、明かりもない。

ただただ深淵を見つめている。

昔は少し先に父の背中も見えた気がするけど、今は誰もいない。


初めて呪術に挑戦した日は、初めて呪術に失敗した日。

そして、一族から見放された日でもある。

あの時の痛みがずっと心臓を刺してるんだ。失敗が怖い。呆れられるのが怖い。

そのプレッシャーで尚さら上手くいかない……俺は、いつしか自分を呪った。


本当は他人に呪いをかけないといけないのに。


( いや。……違う )


やっぱりこれで良かったんだ。誰かを不幸になんてしたくない。

父や皆の期待に応えられなくても……もう気負わなくていい。

これからは“俺”を見てくれる人と共に生きるんだ。


「……ユノ」


温かい。


さっきまでは震えるほど寒かったのに。……それに、明るい。


照らされている。

ゆっくり瞼を開けると、目の前には心配そうに俺を見下ろすリザベルさんがいた。


「良かった、起きた……大丈夫? どうして床で寝てるんだい?」

「……」


どうやら寝落ちして、椅子から転げ落ちていたみたいだ。それでも起きなかったってやばいな……。

寝ぼけ眼のまま起き上がる。じっと見つめると、リザベルさんの頬はもう赤くなかった。

熱が下がったんだろう。ホッとして、脱力してしまった。


「ユノ? 私、昨日の記憶が少し朧げなんだけど……」

「体調を崩されてたんですよ。お医者さんが言うには、過労のようです」


立ち上がってタオルを取り替える。体温計を差し出すと、彼はまばたきを繰り返した。

「本当に? 辛かった記憶もないな……」

あれほど苦しそうに息していたのに、驚きだ。でもそれはそれで良いか、と思った。

辛い記憶なんて必要ない。彼の傍に腰を下ろし、窓を見る。

夜明け前の空は薄青に染まり、優しい色合いをしていた。


「リザベルさんになにかあったら、皆さんが悲しみますよ。お仕事は大事ですけど、お体も大事にしてください」


あくまでウェスタンド家の人達のことを考えて、静かに告げる。波紋のない心で振り向くと、彼はわずかに目を見開いた。

俺の目元に触れ、怪訝そうに首を傾げる。


「ユノ。……泣いてた?」

「はいっ?」


そんなわけない。驚いて言い返そうとしたが、頬が少しぬれてることに気付き、言葉を失った。


本当だ。……泣いてる。


頬に触れた指先は、ぬれて光っていた。慌てて袖でぬぐおうとしたが、腕を掴まれてしまう。

「強く擦ったら腫れちゃうよ」

「……大丈夫です」

「私が大丈夫じゃない。……君の体と、心が傷つくのは」

優しく抱き寄せられる。

違う、と言いたかった。昨夜は確かに不安だったけど、彼が目覚めてホッとしたんだ。

嬉しかった。


「……」


嬉しくて泣いたのか?

初めての感情に戸惑い、目を泳がす。リザベルさんになにかツッコまれそうな気がしたけど、存外彼は黙っていた。

俺が本当に混乱している時は、何も言わずに背中を撫でてくれる。

「こっちの台詞ですよ。貴方になにかあったら……」

気付けば、強がることも忘れていた。


「ウェスタンド家の人達だけじゃない。俺も、悲しいです」


膝に雫が落ちる。

それを見ながら、彼の吐息を感じていた。

温かくて、眩しい。夜でも陽だまりのような場所。

ずっとここにいたい。失いたくない。


そう強く願ったとき、俺は彼が好きなんだと気付いた。







「リザベル様! 体調が戻られたようで良かった……!」

「心配かけてすまない、ラルド」


翌日。

一日大事をとって静養したリザベルは、仕事の為に城の大広間へ向かった。いつものようにラルドはそつなくスケジュールを読み上げ、それから不思議そうに尋ねる。

「ところで、ユノ様は? 今日は一緒ではないんですか」

「あぁ、部屋で休ませてる。つきっきりで私の看病をしていたから疲れたようなんだ」

「そうでしたか。確かに、リザベル様が倒れたときのユノ様はとても辛そうでした。本当に、貴方のことを信頼されてる」

飲み物を用意し、ラルドはリザベルに手渡した。

どこか懐かしそうに零し、目を細める。

「正直に申し上げますと、初めて会った時のユノ様は機械的な印象がありました。人形のような美しさのせいか、冷たい空気を纏われていて」

リザベルはラルドを横目に、ゆっくり紅茶を飲む。

彼の気持ちも分かるので、静かに続きを待った。


「でも健気に貴方を看病する姿を見て、安心したんです。そしてそこまで想われてる貴方が羨ましいとすら感じた」

「改めて説明されると照れくさいな」


リザベルは脚を組み、瞼を伏せる。

「ユノがそこまで心配してくれてたなんて、不謹慎だけど嬉しいよ」

「不謹慎ですね。なのでご無理はなさらず。体調管理は社会人の基本中の基本ですよ」

「はい」

隙あらば説教してくる秘書に謝罪し、今日行う祝術を頭の中でシミュレーションする。最中、リザベルはふとあることを思い出した。

「そういえば。眠ってるとき、妙な力を感じたんだ。意識があるけど、夢を見てるみたいで……現実との境界線がなくなってるような」

「はい?」

説明がめちゃくちゃなせいで、ラルドは怪訝そうに返した。しかしリザベル自身理解してない為、難儀する。


「意識はある。でも倒れたことは分かってなくて、自分が眠ってるとも思ってない。……ただ、すぐ傍で優しく揺さぶってくる存在がいた」


その感覚は初めてではない。二度目だ。

一番初めに感じたのは、アリヴァー家の屋敷。昏睡の呪いをかけられ、深い闇に落ちていたとき。


光と熱。呼び掛ける音。

それらに反応し、次第に明瞭な意識へと変わった。


リザベルは思量し、ひとつの推測に至った。

眠りの呪いから呼び戻してくれたのは、やはり。


「……ユノ。彼には、アリヴァー家も知らない力があるのかもしれないな」




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