#2
リザベルさんは俺の隣にやってきて、綺麗な口を孤に描いた。
「頼られるのは嬉しいけど、プレッシャーもすごくてね。でも今陛下の期待に添える力を持つのは私だけだから、仕方ないことだった」
良い暮らしをさせてもらってるぶん仕事しないと、と彼は笑う。
「……でも、本当に嫌な時は休んでも良いんじゃないですか。でないと潰れちゃいますよ」
前で手を組み、俯く。
差し出がましいかと思ったけど、額に口付けを落とされるだけだった。
「君の言う通りだ。これからは適度に逃げよう」
「はは」
互いに顔を見合わせて笑ったら、緊張はほどけていた。
彼の胸に額をつけ、瞼を伏せる。
「やっぱり、“ここ”が一番落ち着きます」
「…………」
背中に手が回る。強く抱き締められてホッとしたが、すぐソファの上に押し倒された。
「ち、ちょっと。ここは仕事部屋でしょう?」
「そう。でも、これ以上我慢できない」
「……っ!」
欲求不満にも程があるだろ。
そうツッコむ間もなく唇を塞がれる。
離れると、そこには不敵に微笑む青年。彼に見つめられると、簡単に理性を手放してしまう。
俺も相当やばい。そして単純だ。
息を荒げ、ソファの上で力なくうなだれると、愛おしそうにキスされた。
「ふぅ。少し満たされた」
「いや……俺は魂抜けた気分です」
「じゃ、注いであげようか」
「結構ですっ」
「あはは」
彼は楽しそうに笑っているけど、こちらとしては大真面目だ。想い合ってるとはいえ、所構わず欲望に任せるわせにはいかない。
呆れてると、彼は立ち上がって俺を抱き起こした。
「まぁいいじゃない。それよりそろそろ私の部屋に行こうか」
「……」
場所を変えれば良いと思ってそうだな……。
またまた上手く流され、誘導される。
でも心底怒る気になれないから、自分にため息をついた。
リザベルさんの部屋は天井が高く、城の中だというのにフロアが上下にまたがっていた。どこを切り取っても絵になり、豪邸と言うに相応しい内装だ。
大貴族と変わらない生活をしてそうだけど、彼はここを出ていきたいと言う。
「ここだと、いざという時誰かが押し入ってくるだろう? 城から離れた場所に家を建てて、君と一緒に暮らしたいんだ」
「はぁ……でもここなら警備もしっかりしてるし、貴方には合ってると思います」
「駄目駄目、息が詰まる」
リザベルさんは部屋着に着替え、俺の髪を撫でた。
「ま、それは一旦置いといて。無事に連れて帰れて安心したよ」
全然分からなかったけど、彼なりに緊張していたようだ。ウェスタンド家の人達は俺を疑うこともなく、受け入れてくれた。それは不幸中の幸いで、改めて感謝する。
「ユノはしたいことはある?」
「したいこと?」
「君はもう自由なんだ。やりたいことを思いっきりしていい。その為に必要なものは、私が全て揃える」
彼は目を細め、俺の目元にキスをした。
やりたいこと……たくさんあるけど、あり過ぎて思いつかない。
「ありがとうございます。でも今は……ここにいさせてもらえるだけで充分です」
手を握り締め、彼に微笑みかける。
「リザベルさんはやりたいことはあるんですか?」
「あぁ、もちろん」
「何ですか?」
「君と二人きりで暮らすこと」
真顔で言われて、フリーズした。
というか、こっちが赤面してしまう。本当に困った人だと思った。
彼のプロポーズを受け入れていいとは思えず、答えを保留している。
それは不誠実だし、卑怯かもしれない。けどすべては彼の為でもある。
立場と責任のある彼の人生を、俺なんかが壊してはいけない。それ故の拒絶であることを、彼にも分かってほしいけど。
「う〜ん……」
朝。一夜明け、ユノは窮屈さに呻いた。
昨夜はリザベルに抱き締められ、無理やり同じベッドで寝かせられた。ベッドは大きかったが、彼がひっついてくるから意味がない。蹴り落とすか自分が床で寝てしまおうか迷いながら寝落ちしたようだ。
「リザベルさん、朝ですよ。おはようございます」
「ん……」
優しく肩を揺すぶる。リザベルは眠そうにしていて、起きる気配がない。
そうすると彼の寝顔を堪能し放題で。
( これはこれでいいかも…… )
アリヴァー家にいた時と同じ、彼を好き放題にできる。
唇や頬を触ったりして遊んでいたが、やがて目を覚ましたリザベルに抱き込まれてしまった。
「ちょっと放ったらかすとすぐ悪戯するんだから。このお姫様は」
「……そもそも無防備にしてる方が悪いと思います」
「言ったね?」
横向きに倒れたまま睨み合うと、不意に首筋を吸われた。
「あぅっ」
「隙だらけのお姫様にはお仕置きが必要かな」
あっという間に馬乗りにされ、彼を見上げる。何度彼の目に晒されたか分からないが、やはり恥ずかしくて顔を背けた。
「じゃ、撤回しますので……」
「今さら駄目」
まさか、起き抜けからお仕置きが始まるとは思わなかった。
自由の身になったけど、これって実質彼の愛人と一緒では……?
ひたすら疑問だったが、彼の寵愛は外が賑やかになるまで終わらなかった。




