#7
俺は周りを不幸にする。
身内ですらそうだったんだから……血の繋がらない、赤の他人を幸せににすることなんてできない。
そう思って俯くと、両の頬を掌で挟まれ、顔を上げさせられた。
「あの……?」
「そんなこと心配しなくていい。君を笑わせるのは私の役目なんだから」
……っ!
分からない。本当に……何故、そこまで言ってくれるのか。
得体の知れない一族で生まれ育った俺にここまで関わろうとして……それどころか救いの手を伸ばしてくる。
「俺の何が良いんですか……こんな役立たずで、性格悪くて、何も持ってない奴。優しくする必要なんてないでしょ」
「ひねくれてるとは思うけど、それはこれまでの環境のせいだ。私は君の素直じゃないところも可愛いと思ってしまうし……傷だらけの心を治したいと思う」
彼は腰を上げ、俺を抱き起こした。
「君と笑って暮らしたい。責任ある立場に就いた以上贅沢な願いなのかもしれないけど……私が死ぬまで愛したいと思うのは、ユノ。君だけだ」
熱烈なプロポーズ。
それを聞き入れるには問題があり過ぎて……それに驚き過ぎて、言葉を失った。
何にせよ、誰かに求められたのは初めてのことだ。いつだって誰の視界にも入っていなかった。
そんな自分を、真っ直ぐ見つめてくれる人……。
「俺は……分かりません」
彼に抱かれながら、それでも逃げるように瞼を伏せた。
彼の好意に甘えてはいけない。……素直に喜んではいけないと思ったから。
「そこまで言ってくれる理由も、“愛情”が何なのかも分からない。そもそも呪われた一族だから……幸せになっていいのかも分からない」
分からない尽くしで申し訳ないけど、これが本音だ。
「普通を享受していいとは思えない。でも」
震える声を紡ぎ、瞼を開ける。目頭が熱くてやけに視界が潤んでいた。
「許されるなら……俺も、貴方と一緒にいたい。……です」
ゆっくり顔を上げ、目を合わせる。
リザベルさんは頷き、とても嬉しそうに俺にキスをした。
「ありがとう。……もう絶対に手放さない。覚悟してね、ユノ」
「覚悟って、ちょっと言い方怖いですよ」
「あはは! ごめんごめん。……それにいつもはこんな横暴じゃないんだ。強引なのも構いまくるのも、全部君が初」
彼は恥ずかしそうに微笑んだ。その顔を見たとき、……彼も彼なりに困惑してるのかな、と感じた。
「私は君に心奪われた。だから私も、君を攫おうと思う」
「もう……」
聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
どうしたものかと頭を搔いてると、固定電話が鳴り響いた。
「ちょっと待っててね」
リザベルは翻り、電話を取った。
ふぅ。やけに熱いな。
謎の熱に浮かされ、手のひらで顔に風を送る。
少し待っていると、彼は笑顔で戻ってきた。
「ユノ。……今から人が来るけど、敵じゃないから驚かないでね」
「お客様ですか?」
「いや。……私がここにいることが早くもバレてしまった」
それって……。
口を開こうとした瞬間、ノックの音が聞こえた。リザベルさんが「はい」と言うやいなや、ドアが勢いよく開かれる。
部屋に入ってきたのは、茶髪の青年だった。若いが、リザベルさんよりは歳上に見える。
彼は安堵した様子だったが、すぐさま鋭い目つきに変わった。
「リザベル様! ご無事で何より……ですが、それなら早くお教えください! どれだけ捜し回ったと思ってるんですか!」
「すまないラルド。私も昨日ここに辿り着いたばかりで」
「支配人に聞きました。もう一週間以上この部屋に滞在してるそうですね」
「おっと……口止めしておいたのに、困るなぁ」
リザベルさんが眉を下げて言うと、ラルドと呼ばれた青年はさらに声を荒げた。
「困るな、はこちらの台詞ですよ! 陛下も大層心配されておりました。さぁ、早く帰りましょう!」
ラルドはずかずかと部屋の中央まで歩き、リザベルの腕を掴んだ。
ユノは話に入るつもりはなかったが、ここで初めて彼と目が合ってしまった。
「おや? リザベル様、こちらの方は?」
「あぁ。私の妻になるユノだ」
「は!?」
ラルドは青ざめ、後ろにふらついた。
「あ、初めまして……」
何か、世の中の人はリアクションが大きいんだなぁ……。
古城にいた時は大声を上げる者は少なかったので、温度差に新鮮味を感じる。ユノはどうでもいいことを考えながら、硬直するラルドを見返した。
それはそうと、リザベルさんはまた必要な説明をすっ飛ばしている。案の定、ラルドさんは頭が痛そうに俯いた。
「は、はは……リザベル様、だいぶお疲れですね。今までで一番趣味の悪い御冗談を仰って……」
「趣味の悪い? それは聞き捨てならないな。彼を侮辱するような発言は許さない」
「いえ、そちらの方を侮辱する気はありません。どちらかと言えばリザベル様、貴方に……」
彼は咳払いし、それから片手を翳した。
「ええと、……本気ですか? 本当に、こちらの方と婚約するつもりで?」
「あぁ。本当はもう少しお忍びを楽しもうと思ったんだけど、仕方ない。城に戻ったらすぐに彼と式を挙げる。ラルド、協力してくれ」
「わっ、私はともかく。長が男性を許すでしょうか……」




