#4
リザベルはなにか吹っ切れたように、激しい口付けを求めてきた。
息を奪われ、頭がぼうっとする。浴室の熱気もあると思うけど、足の力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。
しかしそのまま床に押し倒され、唇を塞がれた。
「んっ……ん、むぅ……っ!」
その間もずっとお湯が床を叩きつけている。
せめて止めたらいいのに……もう彼はシャワーも見えてないみたいだ。
苦しい。上から覆い被さる青年にどうすることもできず、ひたすら喘いだ。彼の背中に爪を立ててしまったが、もう気にする余裕もない。
ただただ、名前のない時間が過ぎていく。
ようやく解放されたものの、唇が痛んだ。
背中も痛い。床に仰向けになったまま、必死に前を隠す。しかしその手を掴まれ、指先を吸われた。
「本当に可愛い……食べてしまいたい」
「……っ」
冗談抜きで食われそう。
でも、何故ここまで自分に執着するのか。それだけが解せない。
「あ、貴方……いつもこんなことしてるんですか? 男相手にすぐ盛って……」
「おっと。誤解しないでくれ。私が欲しいのは君だけだよ」
リザベルさんは俺の両手首を上げさせて、ひとまとめに押さえた。
「性別は関係ない。他人に対して興味がなかった……そんな私を、君が狂わせたんだ」
「狂わせたって……何の話ですかっ」
いや、何の言いがかりだ。
彼の性癖を歪めた覚えはない。強気で睨めつけたものの、彼は俺を抱き起こし、苦しそうにため息をついた。
「いつ思い出しても脳が焼かれる」
浴室を出ると、バスタオルを頭から被せられた。彼は俺のぬれた髪や体を拭いて、ドライヤーをつける。そして懐かしそうに目を細めた。
「君が寝ている私の胸に飛び込んで、泣いていた夜は。……儚い夢のようだった」
「……ん?」
頭が真っ白になった。
今何て言った? 寝ている彼に飛び込……?
彼が目覚めてから、そんなことをした記憶はない。あるのは、城での出来事。
孤独に押し負け、昏睡状態だった彼に抱き着いた……あの一夜だけだ。
いやいや、それでもおかしい。彼は呪いをかけられて意識はなかったはず。あの夜を知ってるはずがないんだ。
────まさか。
このとき、嫌な推測が頭をよぎった。そんなわけない……そんなことがあってはいけない、と思いながら。規格外の彼ならそれもあり得る、という、恐ろしい現実。
固まって動けないユノの唇をなぞり、リザベルは目を細めた。
「黙っていてごめんね、ユノ。実は呪いをかけられてる間、私は意識があったんだ」
「ふぇっ」
驚きのあまり、変な声が出てしまった。
それだけはやめてくれ。と思っていたことを叩きつけられた。そのショックからさらに放心し、ただ彼を見返す。
「正確には、君の部屋のベッドに寝かされてる時から……少しずつ君の声だけが聞こえて、段々目も見えるようになった。初めは事態を理解するのに苦労したよ。私の面倒を任された君はアリヴァー家の中でどんな立ち位置なのか。どんな人物なのか、把握することが」
リザベルはふぅと息をつくと、ドライヤーを止めた。けど今は止めないでほしかった。静寂がひたすらきつい。
「君の側近の声を頼りに、君がアリヴァー家の次期当主ということが分かったんだ。後はどう呪いを解こうか考えていたけど、……存外君に世話されるのは心地良かった」
優しく髪を梳かし、日毎に服を変え、甲斐甲斐しく世話をする。動かない自分に話しかけ、健気に笑う姿にいつしか惹かれていた。
リザベルはユノの額に音の鳴るキスをし、無防備な脚の間に手を這わせた。
「正直、この子は何なんだろう……って不思議だったけど。君が一族から酷い扱いを受けてることも知って、納得した」
それからは可哀想で、一刻も早く助け出したいと思った。だが意識はあっても身体は動かない。呪いを完全に解く方法が分からず苦悩していたとき、あの夜が訪れた。
服を脱いで自分の上にまたがり、泣きながら腰を打ちつける青年。不憫で、綺麗で、気が狂いそうなほどいじらしい。
「触って。って言われたときは、本当におかしくなりそうだったよ」
強引に押し倒して、その細い腰を奥まで突いてやりたいと思った。もう嫌だと泣き叫ぶ彼を、何十回も頭の中で抱いた。
「あ、あれは……その……違くて……」
「ユノ」
顔を逸らそうとするユノの顎を掴み、リザベルは囁いた。
「私は嬉しいよ。こうして、君に触れられることが」
「……っ!!」
熱い眼差しを受け、ユノの全身は火照った。
( やばい…… )
最低だ。彼にずっと意識があったこと。そして、彼で自慰してしまったこと。
……それを全部知られてしまったこと。
耐えられなくて、今すぐ逃げ出したい。身を捩って起き上がろうとするも、壁に押しつけられてしまった。
「私を愛でてくれる君の視線が、本当に愛おしかった。だから呪いが解けたら、私が君を愛し尽くそうと思ったんだえられて本当に嬉しいよ」
……どうしよう。あんな、あんな恥ずかしいところを見られてたなんて。
死にたいなんてもんじゃない。自分が死んでも彼の記憶として一生残るなら、彼を道連れにして死にたいぐらいだった。
でもそれは身勝手にも程がある。彼に性器を擦りつけたんだから自業自得だし、これは罰なんだ。だから受け入れないといけないけど。
罰してほしいと言うには、彼の“お仕置き”は甘過ぎた。




