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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
憩いの城

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12/35

#2




「……っ」

視線に犯される、なんて生きている間に味わうとは思わなかった。

彼は俺をどうしたいんだろう。わりと真剣に身の危険を感じるんだけど。


王様は安全だけど、俺がやばいんじゃないのか、これ……。


彼の執拗な手を振り払って顔をそらす。しかし今度は顎の下に手を入れられた。

「君が家出したのと同じように、私も少しだけ家出してみたいんだ。何年も真面目に働いてきた末にようやく手に入れた休暇だから、許してほしい」

「しばらく休ませてほしいと言えばいいんじゃ……?」

「そういうわけにはいかない。次期当主としての務めがあるからね」

少し休むことも許されないのか。

……立場があれば尚さら、面と向かって言えないことが増える。彼が背負う責任の重さは俺には理解できない。だからそこに口を挟むのは違うと思った。

どんな人にも、逃げる権利はあると思うから。


「お好きにしたらいいんじゃないですか」


結果的に、かなり冷たい台詞になってしまった。

普通に、自分の思うままに生きればいい……みたいに言いたかったのに、駄目駄目だ。

けど彼は気を悪くするでもなく、俺の腰に手を添えた。

「うん。生まれて初めて、好き勝手に生きちゃおうかな」

「……」

何か、それはそれで怖い。

黙り込んだ自分の背中に手を回し、せっかく止めた紐を解く。


「欲しいものは我慢せず手に入れて。ドロドロにとけるまで可愛がる」


また前からはだけ、彼から丸見えになってしまった。


「うん。自由っていいね、ユノ」

「い……いやいや……」


貴方は自由かもしれませんけど。

俺は逆に、また囚われの身になったのでは────?


満面の笑みを浮かべる目の前の青年に、恐怖しかない。

そうしてまた、朝まで色濃い時間を過ごすのだった。





(意図せぬ)ホテル缶詰生活が始まった。

生活において、特段困ったことはなかった。お風呂もあるし洗濯は任せられるし、食事も三食部屋に届けてもらえる。


ある意味古城にいた時と変わらない。違うのは、呪術の特訓をしなくていいこと。そして、身内から弄られずに済むこと。

とは言え、傍にリザベルがいることはかなりのプレッシャーだ。


「ユノ、森で怪我した部分はだいぶ治ったね」


ソファに座っていると、リザベルは床に膝をつき、俺のズボンの裾を捲り上げた。まるで彼を跪かせているようで、非常に気まずい。

「捻挫以外は全部掠り傷ですよ。……貴方こそ、怪我はなかったんですか?」

城で面倒を見ていたときの外傷は確認済みだ。けど城を出てからのことは分からない。彼のことだから、深い傷を負っていても自分には言わない可能性がある。

しかしリザベルはゆっくり首を横に振り、隣に座った。


「無傷だよ。心配してくれてありがとう」

「……っ」


心配……なんだろうか、これは。

よく分からない感情に支配されてると、リザベルは脚を組み直した。

「ユノは優しいね」

「えぇ?」

優しいなんて初めて言われた。およそ自分とは縁のない言葉だと思っていたが、彼は俺の肩に手を添え、抱き寄せた。


「分からない? アリヴァー家のやり方に疑問を覚える時点で情に厚いと思うよ」

「どうなんでしょ……俺はただ、何も悪くない人に呪いをかけるのが嫌なだけで」


そう。リザベルさんの件も同じだ。

頼まれたから、目障りだから。そんな理由で人の命を奪うなんて、正気じゃない。

でも父や従兄弟からすれば、俺の考えの方が理解できないんだろうな。

「でも俺は失敗ばかりで、当主の息子なのに出来損ないでした。あそこに残っても、誰かを呪い殺したりはできなかったかもしれませんね」

苦笑すると、リザベルさんはわずかに目を細め、俺の頭を撫でた。


「……でもそのおかげで私は君に救われ、こうして共に過ごしてる。だから本当に感謝してるよ」


……!


あまりに真っ直ぐな瞳で見つめられ、息を飲んだ。


確かに……役立たずだったから彼の世話を任され、結果的に一緒に逃亡できた。

逃げた後もこうして匿ってくれて、リザベルさんが優しいこともよく分かった。

運が良かった、で終わらせることもできるけど……それ以上に、全てが彼のおかげなんだ。


「ありがとうございます。俺も……リザベルさんに感謝してます」


セクハラしてくるから真面目な雰囲気になれなかったけど、ちゃんと御礼を言いたかった。上半身だけ向き直り、彼に頭を下げる。

彼相手だと、いまいち素直になれない。そんな自分も不思議で、ずっと悩んでいた。

でもそれは、甘えちゃいけないと気を張っていたからかもしれない。


「貴方がいたから、思いきって家を出る決断ができた」

「……そうか。ならお互い共犯……じゃない、同志だね」


家出だから不良仲間か、と彼は笑う。何だか可笑しくて、つられて笑ってしまった。




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