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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
憩いの城

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11/35

#1




「手前にあるのは小さな町だけど、もっと奥へ行けば王都だ」

「わぁ……っ」

遠いから、たくさん見える家も玩具のようだ。

でも、間違いなくそこに暮らす人々がいる。外の世界が存在している。


その“当たり前”に感動して、立ち尽くしてしまった。


「よく頑張ったね、ユノ」


太陽のように眩しい笑顔。頭を撫でる大きな掌。

大袈裟だと感じてたけど、これが最後の称賛だと思うとちょっぴり切ない。

けどここから先はもっとしっかりしないといけないから、視線を外した。


「お疲れ様です。同行してくださってありがとうございます」

「こちらこそ。スリリングで楽しかったよ」


楽しかった……だと……?

やっぱり経験値に差があるのか、感覚が違い過ぎる。自分は総合的に地獄でしかなかった。

それに崖から飛び降りたいぐらい恥ずかしい姿も見られてしまったし……。


彼のことは信頼してるけど、昨日までの痴態を思い出すと今すぐ離れたい。

恩は必ず返したいけど、街中に入ったらタイミングを見て別れよう。────そう思ったのだが。


「さて、と。見た目と匂いが酷すぎて注目されちゃってるね。一旦ホテルに避難しようか」

「え」


さり気なく挨拶して別れを切り出そうとしたのに、強引にホテルに連れて行かれてしまった。

数日風呂に入らず森で過ごした為、実際目立って仕方なかったけど、予想外の展開に内心焦りが募る。

受付の人は初め自分達を見たとき露骨に顔を顰めたものの、リザベルさんが差し出したカードを見て驚いていた。


「私がここにいることは、くれぐれも内密にお願いします」

「か、かしこまりました! ただいまお部屋をご用意します」


やっぱり特別な存在なんだろう。本来通される道ではなく、裏ルートに連れて行かれて、一気に最上階までエレベーターで上っていった。


大変だ。

初めて街を訪れたことも、たくさんの人を見たことも、全てが刺激的だ。落ち着いてなんていられない。


「それでは、なにかあればご用命ください。失礼いたします」


案内人が部屋を出て行き、リザベルさんと二人きりになる。

ホテルの基準は分からないけど、用意された部屋はとても素晴らしかった。笑ってしまうぐらい広くて、装飾も素敵。古びた城の中にいた自分からすれば、まるで天国のように純白な世界だった。

リザベルさんは俺の手をとり、歩き出した。


「リザベルさん、どこに……」

「もちろん、バスルームだ」


は。

確かに酷い匂いだから、流れ的には分かるけど。

「お、俺は後でいいです。お先にどうぞ」

「一緒に入った方が効率的だよ。それにここは広いから心配しなくていい」

それでも二人で入るのは変だろ……。

だがあれよあれよという間に服を脱がされ、浴室の中へ入れられてしまった。

全裸を見られるのは初めて。さすがに恥ずかしい。

けどリザベルさんは気に留めるでもなく、熱いシャワーをかけて笑った。


「はー、気持ちいい。生き返るね、ユノ」

「はぁ……」


生きた心地がしない。


広いんだから離れればいいのに、何故か彼の腕の中に抱き締められていた。

服がないだけでこんなに心細いとは思わなかった。もう抵抗する気も起きず、大人しく洗髪される。

備え付けのソープは花の香りがした。とても良い香りだったけど、彼の野趣的な香りも悪くなかったから……ちょっと勿体ないかな、なんて思った。


「ユノの髪は綺麗だね。太陽の下に出ないから尚さらなのかな」

「どうなんでしょ。でも、リザベルさんの金髪も綺麗です」


石鹸を洗い流され、自身の銀糸を指でつまむ。そして彼の髪の生え際に触れた。

「眠ってる貴方を見たとき……宝石みたいだと思った」

「……!」

素直な感想だ。人形のように美しく、非の打ちどころがない青年に一目惚れした。

何故周りは彼に見惚れないのか。心底不思議に思っていた。


「目覚めてほしいけど……もしこのまま眠り続けたら、ずっと自分が面倒を見よう。って本気で思いました」


誰にも見せず、触れさせず。二人だけの世界で、永遠に。

そんな危険な思考に陥っていたことを、赤裸々に明かしてしまった。これまでの倦怠感と、逃げ切れた安心感で頭がおかしくなっていたのかもしれない。


「……ね。俺“達”は普通じゃない、ってよく分かるでしょう?」


私利私欲にまみれた、呪いの一族。欲しいものの為ならいくらだって手を汚せる。

そう思って彼を見上げたものの、

「っ!?」

突如顎を掴まれ、唇を奪われてしまった。


何……っ。

視界が黒で覆われる。抗議しようと口を開くと、熱くて柔らかい何かが潜り込んできた。

彼の舌だ。絡まり、無遠慮に口腔内を侵略してくる。


「んうぅ……!」


息が苦しくて逃れようとしたものの、腰をホールドされて動けない。あまりの激しさと息苦しさに、涙が溢れた。

何でキスなんか……。

訳がわからないまま、激しい口づけを交わした。

リザベルの溺愛ぶりに心も体もとけそうだ。風呂を出たものの、入る前より疲労困憊になっていた。


ユノはガウンを身に纏い、大きなガラス窓に額を当てる。


「ユノ、脱水になるよ。水を飲みなさい」


真後ろでは、リザベルが爽やかな顔でグラスを差し出していた。有り難く受け取り、一口飲む。

「どうしてそんな落ち着いていられるんですか」

「え? だって無事街に戻れたし、お風呂も入ってサッパリしたし」

「……」

想像していた回答とはだいぶ違った。

ここまで来ると大らかなのではなく、大雑把。超がつく鈍感だ。

それか天然?

何にせよ、男にキスして平然としてられる神経に感服する。

それとも慣れてるんだろうか。普段から周りの男性と夜遊びするタイプか。

まあ、自分も昏睡中の彼に抱き着いたから人のことは言えないけど。


「ユノはむくれてるね。せっかく自由の身になったのに」

「そこに不満があるわけでは……貴方の考えてることが分からなくて、困惑してるだけです」


暗にキスのことを匂わせ、睨みつける。彼はふむ、と顎に手を添えてソファに腰かけた。


「それもそうか。限られた人間としか関わらなかったら、見ず知らずの私は怖いよね」

「……」

「君が愛でてくれた、動かない人形とは違う」


リザベルの言葉は、なにか含みがあるようだった。

まるで、可愛がってた人形が突然喋りだしたことに泣き出す子ども。……とでも言いたげに思えて。


いや、あながち間違いでもないか。彼が昏睡状態だった時は自分だけが彼を愛して、守ろうと思った。

でも目を覚ませば当然一人の人間で、確固たる意志と地位があって、人々に求められている。


急に惨めになって、寂寥感でも覚えたんだろうか。


「はぁ……」


彼の言う通りせっかく自由を手に入れたのに、自己嫌悪が止まらない。

額を押さえて俯くと、手招きされた。

「何ですか?」

「いいからおいで」

無視しても良かったが、大人しく彼の前まで歩く。すると手を強く引かれ、無理やり抱き込まれてしまった。

「ちょっと……!」

用があるなら普通に言えばいいのに、一々スキンシップをとってくるのは何なんだ。

頬を膨らましていると、耳朶を触られた。


「ユノ。このピアスは外した方がいい」

「え?」


見ると、リザベルは真剣な表情をしていた。いつもと違う雰囲気を感じたものの、彼の手を押さえる。

紅いピアスは一族の証。だが市民はそこまで知らないだろう。別につけていても困らないはずだ。

「そうですね……そのうち捨てます。ご心配なく」

起き上がり、彼の太腿をよけて座面に膝をつく。配慮したつもりだったが、これだと彼の膝の上に座り、押し倒してるような体勢になった。

先ほどの激しい情事を思い出し、不意に頬が火照る。


「分かった。じゃあとりあえず、しばらくは私とこの部屋に籠ろう」

「は、はい?」


しかし意味不明な提案をされ、露骨に眉を寄せた。

「どうして? 貴方は早くご家族の元に戻るべきですよ。行方不明の身なんだから、心配されてるはずです」

「大丈夫。私は強いから、死んだと思ってる者なんて一人もいないよ」

「呪いをかけられたのに?」

「油断してたんだ。私は神の加護を受けてるし、最悪殺されても天国行きは決定してる。だから死に対して恐怖はないよ」


天国って……胡散臭いことこの上ない。

でもクリスタッドは宗教に熱心な国だ。加えて祝術の力を極めたリザベルなら、魂は並外れて浄化されてそう。

でも浄化されてるのにあんなやらしいことをしてきたのか、と毒を吐きたくなる。


「呪いが解けたのは本当にラッキーだったけど。……もしかすると、理由は他にあるのかもね」

「?」


鋭い視線を突きつけられ、つい後ずさる。

彼にとっても、俺は未知の存在なのだろう。呪いの力を持つ人間と一緒にいて、彼に悪影響は及ばないのか。正直気になるところでもある。

しかし下手なことは言えない。例え一族からは裏切り者と思われても……リザベルが絶対的な味方、とも言えないから。

いざとなったら自分の身は自分で守らないと。


口を閉ざしていると、リザベルは軽く首を横に振り、俺を抱きかかえて立ち上がった。

「ま、それはおいおい考えよう。アリヴァー家が君を追って街を彷徨く可能性もあるし、当面はここに身を潜めよう」

「いやいや! 俺は独りで逃げるから大丈夫です。それより貴方は自分の家に帰った方がいいですよっ」

全力でツッコんだ。こんなに誰かと長時間話したのは初めての為、喉が痛い。ちなみに頭も痛い。

「三ヶ月後に王の戴冠式があるんでしょう?」

「お、よく知ってるねえ。もちろんそれまでには絶対戻るさ」

リザベルさんは微笑み、切れ長の瞳に強い光を宿した。


「アリヴァー家のことを考えると、ギリギリまで私は表に出ない方がいい。そうすれば彼らも油断するし、陛下にも危険が及ばずに済む」

「……貴方って、見た目によらず豪胆ですよね」

「それは褒めてくれてるの?」

「さぁ……」


とにかく、枠にはまるタイプではないということ。

密かに感心してると、唇を指でなぞられた。


「色々言ったけど、最終的には君と一緒にいたい。それだけだ」




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