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under rain  作者: 亮太 ryota
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第六話 「翼を捥がれた鳥」 chapter 11

「あんた達は本当なら殺したって足りないくらいの事をした。石川さん達が情けを掛けたからこそ、今もまだ生かされてるって事を忘れないで」

 白井の冷たい眼差しが、吉澤と同じように鎖に繋がれた男達に深く突き刺さる。黒川が学生の本分を忘れている間、中学生に紛れて彼女は校長の依頼を真っ当に遂行するべく水面下で動いていた。

 吉澤を中心とした一大勢力を築く不良グループを平和的に潰す準備は、黒川が動き出す前にその殆どが整っていた。最後の一手が奇しくも予想外な彼の暴走によって打たれた事だけが悔やまれる。

 事態が動き始めたら最早簡単には止まらない。スケジュール調整も前倒しで急拵えながらも、全て彼女の思惑に沿って何とか話が進む。


 吊るされる男達から少し外れた所で、少女が一人椅子に雁字搦めにされている。石川を嫉妬から虐めの標的にした彼女は裏で吉澤達を扇動して、遠からず今回の事態を引き起こした張本人である。

 下着一枚で吊るされる男達に比べれば随分と優遇されている彼女は、不満そうに顔を歪ませて白井を睨み付けている。

「ーー私は関係ないじゃない! 単に石川と口喧嘩になっただけでしょ!? こんな事、どう考えても大袈裟過ぎるんですけど」

 捥がけど緩む気配のない鎖に、金切り声で少女は自身の非を一向に認める素振りはなかった。セーラー服は乱れて少し汚れが目立っていた。

「吉澤に惚れられてるのをいい事に、気に入らない奴らを追い詰めてたんでしょ? 心配しなくてもネタは上がってる。今更無関係なんて……そんな話が通ると思わない事ね」

 白井は無機質な言葉と視線で五月蝿い少女を黙らせる。言い訳が通じる次元はとうに超えている事を未だ彼女は理解出来ていないのだ。

 安全圏から高みの見物を決め込んでいられた微温湯のような日々は終わりを告げる。彼女にとっての地獄は今この瞬間から始まっていく。


「おい、ええ加減何するか説明せぇや。殺さんねやったら、詫びでも入れさすんか?」

 痺れを切らせて後を追ってきた黒川を見て、白井は盛大に溜め息を吐く。説明もまるでしていない事を棚に上げて、何も分かっていない彼を責めるように渋々説明を始める。

「ある意味、死にたくなるような事を味わってもらうつもり。一先ず、ホーちゃんの友達で刺青の彫り師がいて、その人にこいつらを施術してもらう。二度と女遊びなんて出来ないぐらい恥ずかしい物にしてあげるから楽しみにしてなさい」

 古の時代では刺青は前科者を区別する目的としても使われており、やがてはやくざ者の象徴として多くの人間に認知されるようにもなった。

 彼女は中学生である加害者達の下半身に見るも無惨な気持ちにさせる程の刺青で、文字通り消えない傷を刻み込む算段である。二度と消える事のない咎を背負って、彼らはこの先を生きるしかなくなるのだ。

「倶利伽羅紋紋か、めちゃくちゃやくざっぽいやんけ。よかったな、ちゃんとかっこよくしてもらえよ」

 白井の悪巧みする顔を見て、黒川も同じような顔をした。エンターテイメントに富む彼女の発想に、珍しく黒川も関心する。二人が口喧嘩もなしに穏便に話が進む事は稀である。

「かっこよくは絶対にならないでしょ。それじゃ罰にならないし、飛び切りのデザインにしてもらうから」

 デザインの草案は彼女の頭の中でぼんやりとは浮かんでいて、後は実際に彫り師との相談になる。人体の敏感な部分にまで施される上、何より刺青を入れるという事は一日そこらで完成する物でもない。

 長丁場の拷問に近い手立てに、彼女の培ってきた裏社会で活きる数々のスキルは存分に役立つ。


 程なく現場に到着した彫り師は廃れたガレージ内の光景に興奮気味であった。やたらに高いテンションはホーネットと同類のそれで、カウンセリングと称したスキンシップは盛大な他意に溢れていた。

 買い物を楽しむ友達同士のような雰囲気で、白井は彫り師とデザインの相談に盛り上がる。それを傍目に黒川は手持ち無沙汰に過ごした。何が楽しいのかは興味もないが、こんな寒い日に外で酒を飲むのは身に堪える。

「ーー若い男の子の可愛い反応が楽しみだわ。大丈夫、安心して、痛いのは最初だけ! 慣れたら寧ろ、気持ちよくなれるから!」

 立位保持装置に中学生達を手際よく拘束すると、丸裸にされた彼らに彫り師は艶やかな笑顔で言葉を掛ける。手にした針で繊細な皮膚表面に筋が入っていく。

 施術直後の刺青は模様ではなく単なる傷である。やくざ者を模倣した上で弱者を虐げてきた男は想像を絶する痛みに悶えて、固定された体を何とか動かそうとする。

 痛みを和らげる事は到底不可能で、情けない呻き声だけがガレージに籠る。額の根性焼きの痛みがまだまだ残る中、更なる傷は淡々とその無防備な体へ無情に刻まれる。

「そっちの女の子はどうするの? 私はあーいう喧しそうな子嫌いだから、是非遠慮したいんだけど」

 刺青を掘る事に集中しているのか、若者のあられもない姿に見入っているのか定かではない彫り師は白井に何気ない世間話を振る。些細な会話一つにも自我の強さを見せつける彼の言葉は揺るぎない。

「そんな事言わずに、あの子にも可愛いのやってあげて。お金はそいつらからたっぷり取り立てるから。まぁ正直そっちのデザインは浮かんでないし、適当に顔に刺青入れる感じでいいし。ワンポイントぐらいなら簡単でしょ?」


 生きる事には到底左右しない程度の痛みが、無限に続くと錯覚する程に繰り返された。ガレージを変わる変わる行き交う人間は、黒川を除いて皆が皆楽しそうで場の雰囲気は異様な様相を呈している。

 冷え込む晩には業務用のストーブを焚いたりと、中で拷問が行われているとは到底思えない日々が流れていく。大型犬用の首輪である程度の自由を与えている事も踏まえれば、何とも優しい非日常である。死ぬ事だけが辛い事ではない、それをまざまざと彼らは見せ付けられる。

 吉澤達は日に日に抵抗すら見せなくなり、一週間を迎える頃には五月蝿く喚いていた少女も言葉少なにされるがままとなっていた。

 やくざ者の拷問にはしばしば暴力が付き纏うが、今回の件では命の危険が伴わない。白井なりの校長や石川達へのコンプライアンスは徹底されている。黒川が独断専行で暴走しない限りは、彼らはある意味安全を保障されているのかもしれない。

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