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under rain  作者: 亮太 ryota
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第四話 「亡霊が嗤う夜」 chapter 5

「何のこっちゃ知らんけど、まずお前誰やねん? お前みたいなけったいな奴知らんぞ」

 黒猫は紳士的に近寄る黒スーツの男を睨み付ける。どうにも見えない話の繋がりにうんざりした表情を浮かべた。無遠慮な男へ突き付けるサバイバルナイフは血ですっかり汚れていた。


「おっとこれは失礼致しました。私は大日本帝国所属、国家公安委員会の武田です。ご覧の通り政府の狗の端くれにして、堅苦しい挨拶は趣味に合わないな中間管理職でございます」

 非礼を詫びて武田はホログラムの身分証を提示すると頭を下げる。

 浮かび上がる身分証に記された長ったらしい上に理解不能な肩書きの羅列を見て、黒猫は途中で目で追う事すら投げ出す。面倒な奴に話し掛けられている事だけがよく理解出来た。

「ーー政府の役人か? 初めて見たぞ、そんな奴。俺とは相容れん存在やん」

 黒猫は変わらず武田を睨み付ける。悪人蔓延るこの町に、政府の人間が介入する事はない。かつてのクーデターにより、政府は町から追い出されたのだ。何をするのも自業自得、弱肉強食の理の中で生き足掻く以外の秩序はこの町に存在しない。

「反政府都市ですからそうなんでしょう、私共政府の人間が肩で風を切れる場所ではありませんよね。ですがまぁしかし、身分を明かしたのは先程の通りですよ」

 自嘲染みた武田の言葉が夜空に吸い込まれる。やくざ者が好かれている訳ではないが、政府の人間が何時如何なる時でも正義の味方であるとも限らない。


「政府の狗になってくれとかほぞいとったな、お前。具体的に何が目的やねん?」

 黒猫は武田の発言を振り返り、未だに掴み切れない男への疑問を口にした。会話が成り立っているようで実際には一向に前に進んではいなかった。

「政府の狗になれば、今より何段階も上の生活を保証しますよ。手を汚すのは得意でしょう? 素晴らしい世界を作り上げる為には清濁併せ呑む事が必要なんですよ。黒猫さん、その強さは価値があるんです」

 武田は盛大な身振り手振りで社会における必要悪を説明する。黒猫は長い話に飽きて、途中から理解する事を放棄した。

「雇う側の人間が変わるだけで、やってる事は一緒やないか。しょーもない話やな」

 一刀両断で黒猫は武田の要請を拒む。一生遊べるだけの金を貰えるならば喜んで貰ってあげても構わないが、現状とさして変わらない上に政府という如何にもな腫れ物要素が殊更気に食わない。

「お気に召しませんか……うーん、ナンパとは上手くいかないものですね。今日は黙って引き下がりましょう」

 顔に手を当て、白々しい演技で武田は落ち込んだように見せる。冷ややかな目でそれを眺める黒猫は、煙草に火を点けて哀れな道化を見守る。


「ーーそや、お前の陰湿な部下にも言うとけ。隠れてコソコソ付き纏ってたら、終いに殺してまうぞってな」

 黒猫はあの日廃工場で感じた不快感を思い返して、今尚向けられている監視の目の元締めを挑発する。この場で感じたそれと同じ気配に、喉に引っ掛かっていた棘が漸く飲み込めた。


「やはり黒猫君には見込みがある。益々欲しくなりますね」

 武田は尚も塗り重ねた道化の仮面を外さず、黒猫の底知れぬ将来性に唾をつけて姿を消した。


「えっと、俺達もう帰っても、いいですか?」

 話の流れに置き去られていた集団の一人が黒猫を見る。五月蝿い虫でも見るような眼差しを受けて、集団はふらつく足で各々に逃げ出した。


 翌日になって事のあらましを伝えられた白猫は、黒猫を引き連れて社長室に訪れる。昼前の街はやけに湿度を持って、熱気の種類が異質に違っている。

 ビルに入ると快適な環境温度によって、体がバグを起こしたような感覚になった。

 子供が噂するただの亡霊騒ぎが一転して、政府の役人が態々黒猫に接触してきた。あの日廃工場に武田もしくはその部下がいた事は殆ど確定事項で、その事がどこまで亡霊騒ぎに関わってくるかは未知数である。

 一介のやくざ者の名を知り、あまつさえ監視までしている連中がいる。それだけで警戒する理由は充分にあった。


「……国家公安委員会か、奴らがわざわざこんな町まで出張ってくるのは確かにおかしいな。出所ははっきりしないが聞いた噂じゃ、山田組とはズッポリ癒着してるらしいが」

 銀猫は葉巻を燻らせて、二人の話に情報を追加した。何かを含ませるような物言いを二人はただ見守るしかない。

「やくざ者がなんで政府と繋がるんや?」

 黒猫は純粋な疑問を銀猫にぶつける。その二つの関係性が彼にはまるで理解出来なかった。

「詳しくは知らねぇが、政府ってのは金持ちなんだよ。資金提供の見返りを用意出来るなら、何だってやるだろうよ」

 銀猫は実際に見てきたかのようにそう言って、黒猫を一瞥する。

「ーー膨大な人員を抱えて、それでも組の人間が一応一つの組織として成り立ってる。山田組が政府と連んでるなら、あの体制にも納得出来る部分が大きいんじゃない?」

 白猫は無表情に銀猫の話を引き取った。人数は最大の武器で、それを動かす為には相応の金がいる。癪に触る程に白猫の言う事は理に適った講釈である。


「亡霊騒ぎの件はどういう状況だ?」

 銀猫は本来の依頼である部分の進捗を尋ねた。政府どうこうより考えなければならない事は目の前に転がっている。

「監視ドローンで今も廃工場周辺をチェックしてますが、亡霊に繋がるような情報はないです。手詰まり状態ですね」

 端的に事実を述べる白猫。何をどうすれば亡霊を誘き出せるか、最早考えようがない。

「……俺を監視してたんか、あの工場を監視してたんか」

 黒猫は到着点を見定めないまま、漠然とした疑問を言葉にした。

「廃工場で山田組とやり合った黒猫、その後亡霊が目撃されるようになった訳で、公安が態々あんたをスカウトする程に目を付けられていた。全部が繋がってるとしたら……」

 白猫は騒動の流れを独言ながら反復する。飛躍した考え方だとしても、彼女は溢れ出る思考をつらつらと口に出していく。


「どの道その工場を検める必要があるんじゃねぇか? 亡霊云々は解決が難しいとしても、公安と接触するしか進展はないだろ。危険な事に変わりはねぇが無茶はするな」

 銀猫は葉巻を切り取って一服を終える。最後は黒猫だけを注視して言葉のアクセントを強調していた。

「分かりました、なるべく暴れ散らさないように首輪嵌めておきます。どうせ無駄でしょうけど」

 意味がない事を分かった上での発言と共に、白猫は隣にいる黒猫を見ながら言う。

「待てや、公安の出方次第やん。俺がどうこうの話ちゃうやろ」

 扱いに不満を覚えて、自身の正当性を主張する黒猫。トラブルメーカーの自覚は彼の中には微塵も存在しない。

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