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under rain  作者: 亮太 ryota
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第四話 「亡霊が嗤う夜」 chapter 3

 幾度かの戦争の影響で法改正が繰り返され、市井には自然と不成者が跋扈するようになる。そうした人間への抑制の為に警備は加速度的に強化されていき、行き過ぎたその統制が腐敗と反乱を生み出していく。

 黒猫達が暮らすこの町は、長きに渡る負の歴史を積み重ねて今日に至る。政府の統制から外れた世界を実質的に牛耳るのは図らずもやくざ者であった。


「ーー亡霊見つかった?」

 廃工場を別々に調査した後に、白猫は気楽な調子で黒猫に尋ねる。まるで期待していないかのような物言いである。

「見つかったら苦労せぇへんねん。大体、亡霊てどこにおるんや」

 手頃なスクラップに腰を落ち着けた黒猫は悪態で返した。幽霊を誘き出す方法を考えてみても、碌なアイデアは当然浮かばない。

「監視ドローンでも使うしかなさそう。三体ぐらいなら空いてるかも」

 最初から黒猫を当てにしていなかったような白猫は、携帯端末で手早く操作すると腕を組んでブレークタイムに入る。勝算の見えない戦いが始まる。


 僅か数分でプロペラの回転する音が耳に届く。夜空を掛ける掌サイズの三つの影は、白猫の頭上を旋回しながら待機状態に移行する。

 特定の対象を監視と追跡まで何でもありの監視ドローンは、白猫の指示を受けてそれぞれの指定された座標へと飛び立っていく。

「うちが所有してるのは数が限られてる、条件次第で貸出可能な訳よ。無論、あんたがサボる為には使えないけど」

 便利な道具があるのであれば普段から使えばいいものを、と思う黒猫の視線に白猫が答えた。

 流石の監視ドローンも亡霊を判別する技術は搭載されておらず、白猫によって廃工場の敷地内を彷徨く人影を追跡する設定にされているようだ。


 一連の作業を終えて黒猫達は廃工場を後にする。呼び付けた無人タクシーへ向かう黒猫の視界の端、ふと何かが蠢いている事に気付いた。

 新たな手掛かりに黒猫は、即座に戦闘態勢に切り替える。亡霊が早々に見つかるとは思えないが、それを見逃す手はないのだ。

 手持ちのライトを照らして、何かがいたであろう場所を探す。生温い風が鉄臭さを掻き混ぜて、澱んだ空気は夏の暑さを忘れさせる。暗闇に溶け込む悪意は、かつてここで殺されていった怨念の残滓かもしれない。

 小さな足音が聞こえる。息を潜めるような微かな吐息が、黒猫の耳へ確かに届く。金属の軋む音と共に周囲を複数の気配が包み込んだ。

 暑さに煩わしさを感じてコルト・シングルを置いてきた黒猫は、舌打ちを一つ浮かべて腰のサバイバルナイフを取り出す。携帯性と取り回しから選んだ得物であるが、白虎は脇差を選ばない彼に不満を述べていた。

 刃渡りは短いがブレードは分厚く斬れ味は必要充分。拳銃に比べて労力が嵩む以外の不満点は特にない。

 相手が例え亡霊であっても何であっても、黒猫のやる事はただ一つである。牽制し合うような、作為的な静けさが空気を満たした。


「ーーいけぇ!」

 素っ頓狂な掛け声がして、スクラップの山から小さな人影が飛び出す。


 黒猫は真っ先に飛び掛かってきた存在を力付くで組み伏せる。潰された蛙のような声でそれは呻いた。続々と襲い掛かる出遅れた仲間が黒猫に思い思いの攻撃をぶつける。

 痛みはない。ダメージを与えるに達していない攻撃は微風その物であった。

 それとは別に苛立ちだけは募っていく。立場上手を出せない相手に一方的に詰られているような状況を、黒猫は手に持ったサバイバルナイフで思い知らせる。

 刺し殺す気持ちはそのままに、組み伏せた存在の頭ぎりぎりに打ち下ろした。荒れた土に深々と食い込むブレードを見て、それは仲間共々恐怖に固まった。

 一時の勢いを完全に失った相手は、亡霊等では決してない。黒猫の殺気に当てられて身動き一つ取れなくなった哀れな子羊達である。


「……クソガキがこんな時間に夜遊びか? 大人の言う事聞かんかい」

 サバイバルナイフを抜き取って、黒猫は組み伏せていた子供を解放する。グループの中にいるマスターの娘を一瞥すると容赦なく睨み付けた。

「……誰が言ってんだか。それはそれとして、なんでここにいるの?」

 大人気ない威圧感で子供を凝固させる黒猫を嗜めつつ、白猫は屈んでマスターの娘と目線を合わせた。


 肝試しの中止を勧告する大人を押し退けて、子供達はたった五人で廃工場を訪れていた。その行動力だけは賞賛に値する反骨精神かもしれない。

 しかし、暗闇に紛れて人間に暴行を加えるやり方はとても頂けない。それが更に殺せもしない相手に挑む事は、自らの命を無駄にする事と同じである。

 サバイバルナイフで闘志のみを完全に殺した黒猫は残る面々にかなり手加減したチョップを下す。鉄拳制裁は彼の基本方針に他ならない。


「亡霊だと思ったから襲ってきたの? まぁ似たような物だけど、あまりいい判断とは言えないわ。子供相手にだって、容赦なく牙を剥く人間はいる」

 白猫は対照的に悪役を黒猫に押し付けて、ついでに彼を揶揄する事も忘れていなかった。


 白猫を筆頭にして子供達は強制送還される。恐らく亡霊以上にもっと身近な恐怖に触れて、予定外にマスターの願いは叶いそうである。しかし彼らの小学校全体に広がる肝試しブームはいずれ同じ事を繰り返させるだろう。

 対症療法の限界は目に見えている。更に一歩踏み込んだ対策が必ず必要になってくる。


 堂々巡りな結果に黒猫は煙草に火を点けた。夏の暑さが肌に纏わり付いて、煙草の味まで変わってしまうように感じられる。

 話はその場の空気に流れたが、彼には一つ不可解な事がある。小学生風情に感じる物とは違う明らかな悪意を本能的に嗅ぎ取っていたのだ。

 未だ拭えぬ感覚が気持ち悪く、誰もいない廃工場を振り返った。

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