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♯7 体育祭ですか。③

「体育祭ですか?」


 昼食を終えて、昼休みはあと10分程だ。俺にいくらか質問したり、俺から学校や個人のことを質問したりしている時、誰かが言ったそれが、俺の耳に入った。


「ええ、今朝のホームルームで話題になりませんでした?」


 エイナが小首を傾げて言う。

 すいません今日は3時間目から受けました。朝っぱらから訓練場行ったらゼンさんいましてね。


「聞いてなかったかも」


 濁して苦笑する。いつですか?と聞くと、2週間後です、と意外すぎる返答があった。


「え、準備間に合うんですか?」

「毎年こんなものなので、大丈夫だと思いますよ」


 同じ二年生なのに敬語を使うのは親衛対象だから仕方がないのだと、エイナはこの口調を止めてくれない。テラに至っては「俺一年なんですよ」と犬歯を見せて笑ってかわされた。だからなんとなく、俺も敬語になってしまう。敬語で会話しちゃう友達って何だろう、と苦笑した俺は、出来れば敬語はなしでお願いします、とさっき皆に伝えた。それでなくしてくれた人も中にはいる。


「走って魔法使ってってするだけで、体育二日連ちゃんって感じだから」

「あんま準備もねんだよ。クラスで競技振り分けて、練習は体育と放課後にすっしな」

「そうなんだ。競技って何がある?」


 元の高校で一度だけ経験した体育祭は殆ど球技大会だった。バスケとドッヂボールと卓球とサッカーをクラスごとに競う。だが、魔法という単語が出ているところを考えると、競技も聞いたことがないようなのが出てきそうだ。

 突然俺の目の前の机上に、一枚の紙が出された。茶髪に赤メッシュを入れた生徒――確かイナメと名乗った生徒が、シャーペン片手に身を乗り出す。


「俺が説明しまーす。ギャラリーフォローよろしく」


 茶色の三白眼が楽しげに細められる。ギャラリーと呼ばれた周りの生徒たちは文句を言いつつも彼が買って出たことに不満はないらしい。


「実は体育祭実行委員なんだ俺。だから今年の競技も詳しく知ってるぜタツミ君」


 語尾にハートでもつきそうなトーンで言われ、鳥肌が立ちかけた。親衛隊って俺が性的な何かしらを望めば受け入れる集団なのかな。会長の親衛隊とかそういうイメージあるけど。会ったこと無いけど。これ偏見。

 さらさらと書かれる競技名と日程。実行委員だからと言って何も見ずに書けるというのはすごいのではないだろうか。それほど体育祭にかける思いが強いと言う事か。不真面目そうなみかけによらずスポーツ少年なのかもしれないと勝手なことを思った。


「これが全競技と日程。一日目と二日目それぞれ一競技ずつ最低でも出てもらうのな。一日目は運動競技。二日目は魔法競技。で、最低でも一日一競技って言ったけど、補欠やサポート係も出場したと数えられるから運動とか魔法苦手でも心配なし!タツミ君ならそんな心配なさそうだけど」


 くるりと回された紙。俺は書かれた日程や競技をまじまじと見つめ、首を傾げた。

 紙面の内容はこうだ。


【一日目】

午前の部

100m走

200m疾走

午後の部

クラス対抗リレー

【二日目】

炎弾ボール当て

氷柱早建て


 さて、二日目の競技は何となく名前から推察できる。が、


「この200m疾走って何?」


 ただ走るんでなく疾走と書くからには何かしらあるのだろう。


「前の学校ではなかったんですか?」


 エイナが不思議そうに眼をぱちくりさせて首を傾けた。めちゃくちゃ可愛いんだけどあなた本当に男ですか。ふわふわボブカットが緩く揺れている。


「はい、なにぶん田舎で」

「へー、地域によって競技って違うのか?ちょっと興味あるわ、なぁ、タツミ君とこどんなことしてた?」


 三白眼を瞬かせたイナメがシャープペンをくるくる回しながら、教えてよとせがむ。

 いや、俺の話でなくて。まぁ、いいけどさ。

 ちょっとばかり考えて、出てきたのは霞みがかった記憶。


「台風の目とか棒倒しとか、かなぁ……」


 真面目に参加したことのない行事をなんとなく思い出す。親しい友人をつくらなかった俺にとってイベント事なんてものは煩わしいものでしかなかった。出席はしていたけど、親に心配かけないようにするためだったし。行事の時くらいは周囲も気を使って俺にも声をかけたから。

 考え込んで遠くに行っていた視線をふと前に戻せば、


「初耳な競技!どんな?」


 とてつもなく瞳を輝かせたイナメが身を乗り出していた。


「うぉ!?」


 変な声を出してのけぞった。否だって仕方無いじゃないか鼻先触れ合う寸前だったぞ。


「おいイナメ!てめぇなにセガワ様に近づいてんだ!!」

「イナメ君?」

「ちょっ!ごめんごめん興奮して!まって隊長変なこと考えてたわけじゃねぇから見逃して!!」


 スポーツ刈りの大男がバスケットボールを持つかの如くイナメの頭がわし掴みにしたかと思えば、俺の隣でほんわか空気を纏っていたエイナが一変して絶対零度の圧力を醸し出す。

 俺ちょっとびっくりしただけだから怒るなよ、という声はエイナの圧力に負けた。そんな俺とは対照的にイナメを知る人物だろう声が方々から上がる。すごいなこの圧力ものともしないとか。俺が憶病なだけか?


「イナメはスポーツ大好きだもんなぁ、見るほうが」

「スポーツ観戦趣味とか外見裏切ってる」

「全くだ」


 けたけた笑う声に、緊張のほぐれた場。赤メッシュの三白眼の趣味がスポーツ観戦というギャップに図らずも俺も笑ってしまう。

 はぁ、と隣でため息が聞こえた。


「……まぁ、いいですよ状況的に卑しいものでもないので」

「ありがとう隊長様!!」


 ごん、と机に頭を打ち付けてイナメは礼を言う。エイナの権限すさまじい。


「ってことでタツミ君!教えて!」


 再び向いたきらきら三白眼に俺は若干身を引いて苦笑する。


「……その前に200m疾走について教えて欲しいんですが」

「バカイナメ、突っ走るなよ!」

「痛いいだいっ、もうわし掴み止めろ!」

 

 ボール持ちってされたこと無いけどすごい痛そうだな。憐れになってきた。


「もう止めてあげた方が」

「……セガワ様優しいなぁ」


 渋々といった感じだったけど、スポーツ刈りの彼はイナメの頭を開放していた。

 赤メッシュの茶髪をさすって、顔を歪めたままに話しますよーとイナメは不機嫌声だ。よっぽど痛かったらしい。


「疾走は加速魔法使えんの。加速魔法と元々の身体能力との合わせ競技。加速の力加減とその個人の走るスピードとで結構差があるから、ちゃんと競技になるわけよ。おっけ?」


 なるほどね。加速は魔法だけど身体能力も合わせるからって一日目の競技なんだろうな。疾走って、ほんとに疾走か。目で追えないんじゃないかな。

 俺は頷いて、御礼を言った。


「じゃ、次はタツミ君」

 

 くるんとまわした人差指が俺に向く。

 本当にスポーツ好きなんだな。


「あ、そう言えばタツミ君100mと炎弾だからな」

「……え?」

「俺実行委員つったろ?2-Cのだから」


 まじですか。


誤字脱字などありましたらお知らせください。

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