第六章 分担(4)
やがて、端月が俺の家を訪ねてくる当日になった。
母さんは端月を昼食でもてなすと言っていたので、俺と端月は午前十一時に待ち合わせることにした。
俺は最初、彼女の家の近くの駅まで迎えに行って、二人で一緒に来ようと思っていたが、端月は今日は必要ないと言った。甘やかされているような姿を見せたくないらしく、最終的には彼女が俺の家の近くの駅まで来て、俺が迎えに行って一緒に家へ向かう形になった。
母さんは二時間前から材料の準備をしていて、俺が端月を迎えに出ようとした時には、すでにいくつかの料理を作って食卓に置いていた。
駅へ向かう道中、俺はずっととても不安な気持ちを抱いていた。
しかし、駅にいる端月の姿を見た瞬間、気持ちが少しだけ落ち着いた。
彼女は今日は丁寧に髪を編んでいて、もともと美しい長い髪が、よりいっそう優しく上品に見えた。顔には清楚な薄化粧もしていて、可愛らしさと、それでいて大人びた雰囲気を加えていた。
淡い青色の上着を身に着け、下半身は落ち着いたチェック柄のスカートで、知的な印象を与えていた。
俺は胸を高鳴らせながら、彼女のもとへ歩み寄った。
「端月、こんにちは。すごく綺麗だ……きっと、身支度にすごく時間をかけたんだろ? お疲れさま。今日の俺たちのデートをこんなに大切に思ってくれて、ありがとう」
端月は軽く首を横に振り、笑いながら俺に言った。
「これ、全部あなたに見せるためなんだよ。私がたまには真面目になってるところを見せて、ついでにあなたを驚かせようと思って」
「真面目にならなくても十分可愛いよ。真面目になればなるほど綺麗になるだけだし……じゃ、行こうか?」
「うん」
俺はいつもより少し緊張しながら端月の手を握り、俺たちはバスで何駅か移動してから、さらに五分ほど歩いて、俺の家があるマンションへ戻った。
俺たちの家がある階に着くと、端月は玄関の前で立ち止まり、顔を上げて俺に言った。
「あなたのお母さん、私のこと気に入ってくれるかな……?」
彼女の表情は少し強張っていた。
それでも、やはり彼女はとても綺麗だと俺には思えた。
俺は彼女の手を離し、それから──両腕で彼女を強く抱きしめた。
「あ……」端月が小さく甘い声を漏らした。
恋人が腕の中にいる温もりを感じながら、俺は彼女の耳元で小さく、しかし確かな声で言った。
「俺は君が好きだ……愛してる……愛してる──端月。たとえ俺の母さんが君のことをどう思っていたとしても、最悪の場合、これから俺たち二人で家を出て暮らせばいい……俺はずっと君と一緒にいたい」
端月の身体が一度震えた。恥ずかしく感じたようだった。
彼女は甘く腕を伸ばして俺を抱き返し、それから小さな声で俺に言った。
「うん……じゃあその時は、これからずっと私のこと、よろしくね」
「うん、喜んで」
こうして数分間抱きしめたあと、俺はようやく名残惜しく彼女を放し、それから鍵を使って一番外側の鉄製の扉と、もう一つ内側の扉を開けた。
端月の手を握りながら、俺たち二人は一緒に中へ入った。
「こんにちは。私の名前は繫 端月です。これはほんの気持ちです。どうぞ受け取ってください」
「あら──そんなに気を遣わなくてもいいのに。手を洗って、ご飯の準備をしてきてね。逐幸、食器とご飯を出してきて」
料理を終えて自分の部屋から出てきた母さんは、丁寧に手土産を受け取った。
端月のために来客用のスリッパを出した俺は母さんに返事をし、端月がスリッパを履き終えると、彼女を洗面所へ連れていき、俺は台所で手を洗った。そして食器棚から三人分の食器と箸を取り出し、さらに鍋つかみを使って、熱々の白いご飯が入った炊飯器をリビングへ運んだ。
手を洗い終えた端月は、リビングに来た母さんと話し始めた。
今回の顔合わせについて、俺は母さんに、端月の母親は端月が中学生の時に亡くなったことだけを伝え、できればあまり深く聞かないでほしいと念を押した。母さんはその時「分かった」と言っていたので、適切にその話題を避けてくれるだろう。
俺は黙って三人分をご飯茶碗によそい、母さんの「食べて、食べて。いただきましょう」という号令のもと、俺たちはそれぞれ飯碗と箸を手に取り、この昼食を食べ始めた。
その間の話題には、俺は少し恥ずかしい気持ちになった──
「あなたたちは、いつ知り合ったの?」
「私と逐幸は高校一年生の最初から同じクラスでした。その頃、学校の保護者向けの行事とかで、何度かおばさんと会っていたと思いますよ。」
「昔から逐幸はどちらかというと人見知りする子だったのに、こんなに可愛い彼女ができたのね。大学生になってから付き合ったって聞いたけど?」
「はい。大学が始まって間もない頃、私から逐幸に『あなたが好き』と言って、彼も『高校二年生の頃から君のことが好きだった』と言ってくれたので、それで付き合うことになりました」
「えっ? じゃあ、どうして高校生の時は付き合わなかったの?」
「えっと、その頃は二人とも勉強に集中したいと思っていて、それに二人ともまだ準備ができていなかったので……だから、当時はそんな余裕がありませんでした」
端月は少し笑い、野菜を口に入れてゆっくりと噛んだ。食べ物を飲み込んだあと、彼女は言った。
「でも、大学に入ってから……私たち二人とも日和に合格して、しかも同じクラスになれたことがすごく嬉しかったです。そして今の私たちは、高校の頃よりも自分の気持ちと向き合えるようになって……もう準備はできたと思っています」
端月は顔を俺へ向け、俺たちは目を合わせた。俺も胸を高鳴らせながら、彼女に合わせて頷いた。
俺たちの様子を見つめながら、母さんは珍しく嬉しそうな表情を浮かべた。そして端月に続けて尋ねた。
「じゃあ、逐幸のどこが好きなの?」
彼女は微笑みながら少し考えるように唸り、それから青みがかった藍色の瞳で甘く俺を一瞥すると、母さんに言った。
「逐幸はいつも私のことを大切にしてくれて、いつも私の気持ちを気にかけてくれて……うん、何事にも真面目で、人に対しても礼儀正しくて、それに可愛いことも言ってくれます。一緒にいると、すごく安心できますし、二人で話しているのも楽しいです」
──俺の頬は少しこらえきれなくなったが、心の中には甘い気持ちが浮かんだ。俺は抗議するような、甘えるような視線を彼女へ向けた。すると端月は、恥ずかしそうで、それでいて慈愛に満ちた表情で見返し、花のように穏やかな笑顔まで浮かべた。
「高校に入ってから、逐幸の成績は昔みたいにクラスで上位を維持できなくなったけど、どうにか日和に合格できたし、正式な教師になって小学校で教えることができれば、私も安心できるわ……それに、こんなに綺麗で素直で礼儀正しい彼女までできたんだもの。私も嬉しいわ」
「おばさん、私たちが通っている春高は進学校なので、みんな一人一人がすごく優秀なんですよ。一定の成績を維持しながら努力し続けている、そんな逐幸は格好いいと思います。
これからのことについては……私たち二人とも真剣に考えていますので、もう少しだけ私たちに考える時間をください。私は本当に逐幸のことが大好きです。今日、逐幸にとって大切な家族であるおばさんと知り合うことができて、私も光栄に思っています」
「そんなに気を遣わなくてもいいのよ、端月」母さんは笑いながら端月に言い終えると、顔を俺へ向けて言った。
「こんなにいい子なんだから、逐幸、ちゃんと大切にしてあげなさい」
「分かってるよ……だって、俺は本当に彼女のことが好きだから」俺は端月を見て、続けて言った。「俺は端月が好きだ……絶対に彼女を大切にして、一緒にいる時は楽しい、幸せだって思ってもらえるようにする」
端月の頬は少し赤くなったようで、俺に小さく頷いたあと、おずおずと俯き、箸でご飯を口へ運んだ。
その姿は本当に可愛かったが、こんなことを言った俺にも余裕はなく、そのままおかずを一口取って視線を逸らした。
こうして昼食は無事に終わり、途中で何も問題は起こらなかった。
俺は端月に先に俺の部屋で少し待っていてもらい、俺は母さんと一緒に食卓を片付けた。
片付け終わったあと、母さんがあらかじめ俺たちのために果物を切っておいてくれていたので、俺は冷蔵庫からドラゴンフルーツの入った保存容器を取り出し、ついでに水と冷たい無糖紅茶、それから来客用のコップも持っていき、忘れ物がないことを確認してから、端月が待っている部屋へ戻った。
「私は自分の部屋にいるから、二人でゆっくり話しなさい」
俺と母さんがすれ違った時、母さんはそう言った。俺は「うん」と返事をし、彼女を通り過ぎてから、思わず振り返って言った。
「ありがとう。俺たちのために、この食事を用意してくれて」
母さんは少し呆然としたようだった。俺はそんな彼女をそのままにして、急いで自分の部屋へ戻った。
久しぶりに母さんへお礼を言ったことで、俺の心はしばらく落ち着かなかったが、部屋の扉を開けて端月の姿を見たあと、そのような乱雑な思考を少しだけ上回る、嬉しい気持ちが浮かんだ。
「まだ果物食べられる?」俺は彼女に言った。
「逐幸……」
俺が持ってきたものをベッド脇のテーブルに置くと、端月は俺に一つの笑顔を向けた──いや、訂正しよう。問い詰めるような笑顔だった。
「あなたのベッドの上……どうして他の女がいるの?」




