第五章 明湖(6)
俺は視線を移し、プールの中にそびえ立つ大型アトラクションへ目を向けながら、心の中で湖櫻先輩が俺を認めてくれていることを静かに噛みしめた。
少し考えたあと、俺は先輩に尋ねた。
「どうして先輩は俺のことが好きなの? えっと、この質問が先輩を困らせるなら、答えなくても大丈夫だから」
「これは取材のため……それとも、単純に私に興味があるの?」
俺は先輩を見ると、彼女は真剣な表情に戻っており、その眼差しには少しばかりの期待が込められていた。
どちらにせよ、俺は正直に答えるつもりだった。
「本当のことを言うなら、どっちもかな。でも……先輩は信じられないかもしれないけど、興味があるほうが先なんだ。だって、いろんな資料があったとしても、それを本当に作品の中に入れるとは限らない。
でも、目の前にいるこの人がどんなことを考えているのか知りたい、相手のことをもっと深く理解したいっていうのは、俺の興味であり、創作の原動力なんだ」
湖櫻先輩は俺の表情を少し観察すると──「そうなんだ」と一言口にし、自分のリクライニングチェアを俺のほうへ十センチ近づけ、もう一度椅子に座り直してから、温かみのある表情を浮かべて言った。
「私にそんなに興味があるんだ」
「まあ、そうかな……」
「はぁ……逐幸は私の身体にそんなに興味があるんだ──」
「えっ! 言い方に気をつけて──それに、お願いだから急に意味をすり替えないで!」
湖櫻先輩は振り向き、また俺のある場所をじっと見つめた。はいはい──俺は最後には彼女に認めるような表情を返した。
先輩はそよ風のような柔らかな笑い声を漏らし、それから言った。
「私は、そういうところなんだと思う……」
湖櫻先輩の言葉を聞いて、俺は一瞬、まだエッチな話題を続けているのかと思ったが、彼女は少し目を閉じ、数秒経ってから再び目を開くと、人の心を揺さぶるような声で言った。
「うん……合宿のときのこと、覚えてる? 私たち二年生がイベントの準備を担当していて、ちょうど人手が足りなかったとき、あなたが偶然捕まってきたの。それだけじゃなくて、本来ならあなたには関係のないことなのに、手伝ってくれた。それに……私が少しからかって、身体を少しあなたに寄せても、あなたは私につけ込もうとする様子もなくて、それどころか真面目に授業に関係する話題を出してきた」
「確かに、そんなこともあったね……」
あのとき、トイレから活動場所へ戻る途中で他の先輩にスタッフだと勘違いされ、さらに俺は先輩たちがどうやってイベントを運営するのか取材したかったので、活動の様子を見回るのを手伝うと申し出たのだった。
俺はあのとき、先輩はただ警戒心がなかったか、本当に少し怖かったから、ずっと俺に寄ってきていたのだと思っていた……まさか、この人は最初から俺をからかうつもりだったのか……
俺が考えている間、湖櫻先輩は頷き、話を続けた。
「そのときから、あなたはきっといい人なんだろうなって思った。少し人見知りだけど、すごく真面目で……それに、女の子に対しても少し距離を保っていて、私が一緒にいて接しやすいと思えるタイプだった」
「人付き合いが得意な湖櫻先輩にも、付き合いやすい人と付き合いにくい人の区別があるんだね」
「そりゃそうでしょ。どうして私が誰とでも上手く付き合えると思ったの?」
湖櫻先輩は少し笑い、一秒ほど間を置いてから続けた。
「それで、見回りが終わったあと、あなたが大切な人と一緒にイベントに参加したいって言ったことで、私は初めて、あなたにはもう端月がいるんだって気づいたの。そのときはすごく驚いた。でも、それもそのときだけだった……」
そう、あのときだけだった──先輩は小さな声で言い、それから遠くを見つめ、手もゆっくりと握りしめた。
「最初の授業のデモンストレーションの練習では、あなたはすごくいい加減に見えたけど、痛い目を見たあとには、ちゃんと練習するようになって、それで授業でもいい表情を見せていた。それなのに……それで自惚れたり、驕ったりすることもなかった。そうやって、自分の問題を修正して、勇気を持って向き合って、最後には謙虚な気持ちで次の挑戦に向き合える男の子って、格好いいと思った。うん、とても格好いい……」
湖櫻先輩は頷き、少し視線を落とした。
「でも、もしそれだけだったら、私はまだ、いいなって思う程度だったと思う。最大の理由は、やっぱり今みたいに優しく私の話を聞いてくれたり、メッセージで私とくだらない話に付き合ってくれたりすることかな……
私が変な話題を出しても、私の冗談を受け止めて、面白く返してくれる……メッセージを見るときは、いつもワクワクして、胸がときめいて、それから、すごく嬉しくなる。
今までにも、何人かの男の子と連絡を取ったことはあるけど、みんな変なやり方で私の機嫌を取ろうとしたり、私の言葉に合わせたりするの。でも……あなた一人だけは、一番ありのままの自分で私に話してくれる。
だから、あなたと話すのはすごく気楽で、すごく楽しいことだと思った。それに私たちはそれぞれ違う学年だから、あなたに言い負かされそうになっても、先輩という立場であなたを少し押さえつけることができる。まさに私専用の特権だよね」
「ああ……最後のところについては、あの手を使うたびに、自分でもやりすぎだと思わない?」
俺は思わずツッコミを入れた。それに対して、先輩は軽やかな笑い声を漏らし、頬が少し赤く染まった。
「問題ないよ。私が一方的にズルをするために使うなら問題ないし、あるいは、男の子は女の子にもう少し寛容であるべきだっていう理由に変えるのはどう?」
「自分であれがズルだって認めてるじゃん。やっぱり男女って不平等だな……」
俺はわざと大きくため息をついた。湖櫻先輩は振り向き、優しい眼差しで俺を一度見てから、また前を向くと、続けて言った。
「いつも周りの人と真剣に向き合って、たまに不器用に見えるけど、大事なときには頼りになって、他人の身体の境界線をすごく尊重して、女の子に対して見下すような呼び方をしなくて、人の気持ちを理解しようとして、相手の気持ちにも気を配って……うん、何をするにも真面目だけど、いつ力を抜いていいのかも分かっていて、それから──」
先輩は一秒ほど間を置き、少し小さな声で言った。
「端月のために……自分の恋人のために、生理用品を用意してあげたり、彼女の身体を気遣ったり、好きな女の子に喜んでもらうためなら、男としてのプライドや面子を捨てることもできるのに、それで自分を卑下したりはしない。
相手が間違ったことをしたときには、自分の考えを貫いて、それでも相手を説得しようとする……それからね、話していてすごく面白いの。たとえつまらない小さなことでも、あなたが話すと面白く感じられる……好きな人を見るときは、いつも優しい眼差しを向けて、それに、その人のことが大好きで大好きで仕方ないっていう眼差しや雰囲気まで漂わせてる……うん、なんだか、すごくいいなって思う。羨ましいな──
それに、自分の興味や目標に向き合うときには、努力を注ぎ込んで、自分の夢や目標を追いかけて、それから、その……たまにちょっといやらしい目で私の胸を見ることもあるけど……私が話しているときは、いつも真剣に私の目を見てくれる。それなのに、自分の仕草が気づかれていないと思っている、あの感じも可愛いと思う」
俺はもともと恥ずかしく感じていたが、後半を聞いているうちに、自分の行動をすべて見透かされているような気がして、頬が引きつり、心も揺さぶられた。本当に土の中に埋まりたくなった……
それでも、俺は先輩の話を聞き続けた。今この瞬間だからこそ、彼女に真剣に向き合ってもらったことでしか得られない、貴重な言葉だったからだ。
湖櫻先輩の口元が少し震え、魅力的な笑みを浮かべた。
「あるとき、私は学校のどこかの隅に来て、あなたたち二人がキスしているところを見たの。本当は避けようと思った……でも、興味を引かれて、つい少し見てしまって……
二人ともすごく夢中になっていて、それに真剣で恥ずかしそうな感じがして、すごく可愛かった……私もあんなふうにキスしたい。それから、キスをしたあとに恥ずかしそうに相手を見つめて、目でその人に『本当に大好き』って伝えたい。
この学期に一緒に授業を受けるようになってから、あなたを見るたびに、いつも『ああ、今日も好きな女の子とキスしたのかな?』、『何回キスしたのかな』、『私の知らないところで、もっと先まで進んだのかな』……『二人で一緒にしたら、きっとすごく気持ちいいんだろうな』って、つい考えてしまう。
そんな考えを全部自分の心の奥に埋めて、自分の顔に表さないようにするのは、辛くて、苦しいことだった。でも、それでも、自分が大切にされて、愛されている女の子だったら、どれほど幸せで、どれほど甘いことなんだろう……って、想像せずにはいられなかった。そして私も、同じように好きな男の子を大切にしたい。もし私が、その男の子の恋人になれたら、どんなにいいんだろう……」
彼女の声には次第に寂しさが滲み、俺の胸がじんわりと痛んだ。
「ただ、これは不可能なんだよね。だってあなたって、好きな女の子に一途な人だから。そうじゃなかったら、私だってこんなあなたを好きにならなかった……端月から聞いたんだけど、あなたたち二人は高校で三年間、同じクラスだったんだって……私はね、そんな時間を持っていない。そんなふうに一緒に過ごした時間もない……」
──こんなの、どうやって勝てるっていうんだ……最初から、私には勝ち目なんてなかったんだろうな?
先輩は最後に、俺へそう呟いた。
彼女は美しい笑顔を咲かせていたのに、露のように透き通った液体が、彼女の顔から一粒、また一粒と落ちていった。
その貴重な雫は、美しく透明なガラス窓を叩くように、響きのある重い音を立てた。
最初はしとしとと降る小雨だったのに……次第に激しい雨へと変わっていく──
俺は口を固く閉じ、どうすればいいのか分からずにいると、先輩のすすり泣く声が少しずつ弱まっていった……
彼女の胸が何度か揺れ、深く息を吸って、少し自分を落ち着かせてから、続けて言った。
「だいたい、こんなところかな……私はあなたが好き。あなたのそういうちょっとした計算も、私を守るためによく私にとぼけてみせたり、私を傷つけないために気づいていないふりをしたり、それから……今まで通り普通に私に接してくれて、私があなたに迷惑をかけたからって距離を置いたりしないところも……私は全部、大好き。
本当に、あなたに受け入れてほしい……特別な位置から、もっと近くであなたを大切にしたい、あなたの支えになりたい……あなたに愛してほしい。だって私は、あなたにもっとたくさんの、もっと心からの愛をあげるから……もし私が、あなたの彼女になれたら……あなたの恋人になれたら……」
──どんなにいいだろう。
──そんなことになったら……きっと、すごく幸せなんだろうな。
──こんなにも、こんなにも……こんなにも誰かを好きになったのは、初めて。
──なのに……どうして、こうなっちゃったんだろう?
──苦しい、
──でも、あなたが今、私の話を聞いてくれているから。
──私のすぐそばにいてくれるから。
──優しい眼差しで。
──優しい言葉で、私に接してくれるから。
──私はまた、こう思ってしまう。
──私は、幸せだって。
──もしかしたら、この瞬間だけは。
──私のほうが、あの子より少しだけ幸せなのかな?
──そうだったらいいな。
──あ、ああ……私。
──こんなに脆い女の子だったんだ。
──今日、初めて気づいたよ。
湖櫻先輩は俺が渡したタオルに顔を埋めた。
俺は黙って彼女の言葉を心に刻み、その想いに込められた苦しみを感じ取った。
でも、これはきっと、彼女が抱えているもののほんの一部にすぎないのだろう。
目の前にいるこの女の子は、絶対に、俺よりもずっと苦しんでいる。
彼女はずっと悩み続け、この貴重でありながら重い感情を、一人で背負っていた。
今の俺にできるのは、ただ静かに彼女のこの脆く、それでいてとても愛おしい時間に寄り添うことだけだった。
そうして、どれほどの時間が経ったのか分からないが、湖櫻先輩はようやくタオルから顔を離した。
「……」
彼女は少し赤くなった目で俺を見つめ、何かを言おうとしたとき、俺が先に口を開いた。
「ありがとう。先輩のこの気持ち……俺はずっと心に刻んでおく。それに、すごく嬉しい。だから……ありがとう、奏 湖櫻先輩──俺に、話してくれて……それに、こんな俺を好きになってくれて……ありがとう」
「端月じゃなかったら……あなたも、嬉しいって思ってくれる?」
湖櫻先輩は、誰かに甘えるように、おずおずと口を開いた。
俺はふと、もしこの学期が終わって夏休みが明け、学科に後輩が入ってきたら、きっとこんな感じなのだろうと思った。
俺は頷き、彼女に言った。
「自分が好きになってもらって、嫌だと思う人なんていないだろ。嬉しいのが普通だよ。俺は……先輩の気持ちに正面から応えることはできないけど……でも、この気持ちを向けてもらえて、俺は嬉しい。心から、幸運だったと思ってる。ありがとう」
それを聞いた湖櫻先輩はため息をつき、それから……まるで自分の鬱屈をすべて吐き出そうとするかのように、もう一度ため息をついた。
「どうして、そんなことを言うの……? そんなことを言われたら……私、うっかりもっとあなたを好きになっちゃうじゃない」
先輩は眉を寄せながらも、恥ずかしさと恨み言を含んだ笑みを浮かべた。
そんなことに誘惑の意味はないはずなのに、それでも俺は、そんな彼女が可愛いと思った。
「先輩、俺たちの間には大切な約束があるよね。俺は一日だってこのことを忘れたことはない。もう少しだけ待ってほしい」
「うん、覚えてる……いったいどんな物語になるのかな……? 楽しみにしてるよ、世界一のクリエイター」
「分かった。任せてくれ」
「将来、これを売りに出したら、いくらになるのかな……ちゃんと頑張ってね?」
「おい──! 先輩、そんなこと言うのはひどすぎるだろ──! あ……でも、もし本当にそんなに困窮しているなら、売ってもいいよ。先輩の役に立てるなら、俺は嬉しいから」
湖櫻先輩は首を傾げ、無邪気な表情で言った。
「それなら、私の男になることも……私の役に立つってことだよ?」
「えっと、だから、それは無理だって言ってるじゃん……」
「じゃあ、これから私があなたたちの家に住み込もうかな。私のために場所とお茶碗とお箸を一組、残しておいてね……?」
「先輩には豪華な食事を一食ご馳走して、それから熱烈にお帰りいただくよ」
どうやら俺が立て続けに攻撃を防いだせいで、湖櫻先輩の顔にも拗ねたような不満が浮かんだ。
そのとき、彼女はわざと周囲を見回し、何かを確認しているのか、かなり長い間じっくりと辺りを見ていた。
俺が困惑していると、彼女は突然振り向き、強い力で俺の肩を掴んだ──
俺は反射的に両手で自分の唇を覆ったが、彼女は俺の目の前まで顔を近づけ、俺の額の中央へ、優しく、そして慈しみに満ちたキスをした……
桜色の瞳は一度閉じられたように見え、しばらくしてから、彼女はゆっくりと離れた。
俺が我に返ったときには、湖櫻先輩の頬ははっきりと赤く染まり、その瞳には潤んだ、どこか惑わされたような光が流れていた。
俺の心臓は一拍遅れて、ようやくドクドクと大きな音を立て、そのせいで全身まで硬直した。
そんな胸が高鳴る瞬間、頬から耳まで美しい桜色に染まった湖櫻先輩は──俺に恋慕を滲ませながら、それでいて温かな笑みを浮かべた。
「これは、別れの手切れ金の前金……こんなに優しくて、嫌なところもあって、それにひどい男なんだから、遠慮なく……先にあなたの誠意を少しだけ受け取っておくね?」
──あまり私を待たせないでね。女の時間はとても貴重なんだから。
彼女はそう優しく言い終えると、先にトイレへ行ってくると俺に告げた。
俺は額に残るキスを何度も意識しながら、そのまま元の姿勢を保ち、長い間、身動き一つ取れなかった。




