第五章 明湖(4)
「遊んでいる途中で、手足をわざと外に伸ばしちゃ駄目だからね。よし──早く行ってらっしゃい──!」
腰に小型の拡声器を掛けたスタッフが、首から下げたマイクを通して注意事項をざらざらとした音で伝えた後、俺と端月は前後に並んで大きな浮き輪に乗り込んだ。
これは俺たちが遊ぶ三つ目の水上アトラクションで、じゃんけんの結果、今回は恋人同士の組み合わせで一緒に遊ぶことになった。
端月の頼みに合わせて、俺は後ろの位置に座り、前を向いている端月の身体を抱きしめた。
普通に一緒に遊ぶ友達同士なら、ここまで近づくことはないので、これは恋人だけの小さな特権だ。
端月の引き締まった腰を抱きしめると、柔らかな彼女の体温が伝わってきて、冷たい水路の中ではひときわ安心させられる。
次の瞬間、俺たちが乗っている浮き輪が動き始めた──
揺さぶられるような浮遊感を伴いながら、俺たちはウォータースライダーの中を流れる水に沿って、下へ向かって勢いよく滑っていく。
左へ、右へ──! そして──前へ、下へと加速度が俺たちの身体にかかる。
つぐ──────ゆき──────! あ──────! あ──────! あ──────!
なぜか端月は途中から俺の名前まで叫び始めた。
彼女がこんなにも興奮している姿を見ることは滅多にないため、俺は普段とは違う甘さを感じた。
正面から彼女の表情を確認することはできないが、それでも顔の表情筋の変化から、彼女が口を開けて声を上げた時に浮かべている純粋な笑顔を推測することができ、それに俺は胸をときめかせた。
そこで俺も、腕の中にいる恋人につられて声を上げてしまった──
はづ──────き──────!い────! かわ────!いい──────な──────!
その時、俺たちは円運動のような大規模な右旋回を始め、愛する恋人が飛び出してしまわないように……いや、俺はただこの機会に彼女をもっと強く抱きしめたかっただけなのだが──腕に力を込めたことで、二人の肌もさらに密着した。
今にも外へ放り出されそうな状況で右側へ身体を傾けて安定させ、続いて──
パッ、シュ──シュ────!
重力に従って、俺たちは下にあるプールの近くまで急降下し、次の瞬間、支えとなっていたウォータースライダーが終点に達し、俺たちはその勢いのまま前方へ放り出され──続けて、二人一緒にプールへと投げ出された。
俺は手のひらで重みのあるプールの水を下へかき分け、自分の頭を水面から出した。
前方にいた端月も俺と同じように、俺たちはほとんど同時に水面から顔を出した。
その時、黒髪をまとめている端月の美しい前髪と数本の後れ毛が、水滴によって額や頬に張り付き、とても艶やかに見えた。
しかも、先ほど大声で叫んだせいで彼女の頬はとても赤くなっており、清涼なプールの水のような青い瞳には興奮した眼差しが浮かび、同時に俺への親しみまで伝わってきて、俺にはたまらなかった。
俺はわざと端月の肩に触れて、彼女に何か問題がないか、途中で怪我をしていないかを確認した。
しかし彼女も、この行動には俺が少しばかり得をしようという気持ちが含まれていることを知っていたらしく、端月も甘い笑顔を添えながら、俺の肩や腕に触れ始めた。
ほどなくして、このエリアを担当しているスタッフが近づいてきて、着水地点の外側にある水域へ移動できることを教え、俺たちが乗っていた浮き輪を回収した。
そして俺たちがウォータースライダーの着水地点から少し離れた場所へ移動すると、後方から二つの聞き慣れた声が聞こえてきた。
湖櫻先輩と曜光を乗せた大きな浮き輪も着水した──いや、俺たちと同じように落水した。
先ほどまで聞こえていた曜光の「おおおお──!」と先輩の「あ、あはははは──!」という声は、たちまち水しぶきが巻き起こす轟音にかき消され、当然、水の中へ落ちた二人も声を出し続けることはできなかった。
二人の安全を確認した後、スタッフは二人が乗っていた大きな浮き輪も回収した。
曜光と湖櫻先輩は俺たちのほうへ歩いてきた。
四人は移動しながら、それぞれ感想を交わした──
「最後のあの大旋回、俺、飛ばされるかと思った──!」
「おい! もう一回遊ぶ勇気はあるか──!」
「いいよ、あとで私たち二人でもう一回遊ぼう」
「本当に、曲がり角がいっぱいあったよね。いつになったら滑り終わるのか分からなかったよ」
曜光、湖櫻先輩、端月、そして俺は、この時ばかりはみんなとても興奮していた。
そして俺たちの声は周囲の轟々とした水音や他の利用客の叫び声に多少かき消されるため、互いに話すには普段より少し大きな声を出す必要があった。
頭上の透明な屋根から、正午近くの陽光が差し込み、肌を通して太陽の熱を感じることができ、まるでサウナと冷水浴を交互に受けているような気分だった。
淡い青色のプールの底を映す水面に光が差し込み、水面がいっそうきらきらと輝いている。
俺たちはそのままプールサイドへ進み、四人はまるで小さな探検隊を結成したかのように、揃って次のアトラクションへ向かった。
その時、大きなガラス窓の外側で、施設の近くに設置された風車の羽根が強い風に煽られて素早く回転しており、その光景がなぜか俺の目を引いた。
「どうしたの?」
どうやら俺が見入っていたせいなのか、三人の仲間が困惑した表情で俺を見たので、俺は首を横に振ってみんなに言った。
「何でもない。早く次のアトラクションに行こう」
それを聞いて、みんなは再び歩き始めた。
その時、俺の手元に突然、自分のものとは違う温もりを感じ、俺は思わず彼女の手を握ったが、もう二人に気づかれる前に、名残惜しみながら手を放した。
まるでこの温もりを追い求めるように、俺は思わず隣を見た。
端月は太陽にも負けない、澄み切っていて温かみのある笑顔を浮かべていた。
俺たちはウォーターパーク内のアトラクションを一つずつ攻略していき、いつの間にか昼になっていた。
園内のフードエリアで四人掛けの席を確保し、みんなで交代しながら食べ物を買いに行った。
全員が戻ってくると、俺たちは食事をしながら賑やかに話をした。
昼食を食べ終え、しばらく休んだ後、俺たちは再びプールサイドへ戻った。
曜光はスイムキャップを頭に被り、俺たちに言った。
「午前中でだいたいアトラクションを一通り遊んだし、俺は先に少し泳ぎに行こうと思うけど、みんなはどうする? 一緒に行く人いるか?」
「俺はプールサイドで少し休んで、しばらくしたらこの辺で少し水に浸かろうかな」
「じゃあ私も少し泳いでくるね。せっかく来たんだから、少なくとも少しは泳ぎたいし」
俺と端月がそれぞれ答えると、曜光は湖櫻先輩へ視線を向けた。
「OK、それじゃあ先輩は?」
湖櫻先輩は少し考えた後、いつもと変わらないように見える笑顔を浮かべて言った。
「じゃあ私も残るね。まだ少し疲れているから、少し体力を回復してからまた遊びたいかな」
「うん、分かった。それじゃあ端月、行こう」
曜光は端月にそう言い終えると、先に歩き出した。
端月は俺を見て、俺は彼女に頷いた。
「じゃあ、気をつけてな」
「うん。あなたは残って、いい子にしててね」
その後、端月は先輩のほうを向き、彼女を一瞥してから、曜光の後について水泳専用のプールへ向かっていった。
「俺たちも休める場所を探そうか」
俺がそう提案して周囲を見回すと、少し離れたプールサイドに二つ並んだデッキチェアを見つけたので、そちらへ向かった。
俺の言葉に対して、先輩はなぜか何も言わず、ただ黙って俺の後ろについてきた。
どうも彼女の様子がおかしい気がするが、俺の気のせいなのだろうか。
デッキチェアのところまで来ると、俺は背もたれを起こしてから座った。
先輩はそのまま横になった。
彼女は背もたれを調整せず、上半身が約三十度の角度になるような状態で、自分の体重をデッキチェアに預けていた。
桜色の瞳が施設の天井を見つめている。
その上には、陽光がガラス窓とプールの水面を通して反射することで生まれた光の帯があった。
プールサイドの喧騒が、まるで俺たち二人から遠く離れているように感じられた。
いや、そう感じるほど、先輩が本当におかしいと言ったほうがいいのだろう。
普段の彼女は、大抵冗談を言ったり、奇妙な話題を口にしたりするのだが、今はひどく静かだった。
俺は隣に座り、二人のデッキチェアの間にはおよそ三十センチの距離が空いていた。
彼女の体調が悪いのではないかと心配になり、俺はもう一度尋ねたが、返ってきたのはただ相手が首を横に振って否定する姿だった。
どう返事をすればいいのか分からずにいた時、先輩が突然口を開いた。
「逐幸、少しこっちに来て」
彼女は依然として仰向けの姿勢を保っていたが、俺が彼女の指示に従って椅子を十センチ移動させると、彼女の声も少し明るくなったようだった。
「ありがとう」
「どうしたんだ? これもまた何かのいたずらの始まりなのか?」
それに対して、先輩は耳に心地よい笑い声を漏らし、顔をこちらへ向けて、座っている俺と視線を合わせた。
「そうかもね……もう少し警戒してもいいよ。そうしたほうが、からかうのももっと面白くなるから」




