第五章 明湖(3)
少し昂ぶった心を落ち着かせるため、俺は慌てて愛する恋人へと視線を向けた。
そして、俺たちは並んで立って話しているのだから、当然のことながら、彼女も俺の先輩に対する感想を聞いていた。
端月は少し腕を組み、俺のほうへ一歩近づいてきたかと思うと、黙り込んだ。
俺は彼女のこの格好を観察し始めた。
まとめ上げた黒髪によって、白い首筋が露わになっている。頬も薄く赤みを帯びていた。
上半身のピンク色の水着が豊かな果実を守っており、下半身の水着と太腿の間に生まれた隙間にも、思わず目が行ってしまう。それ以外にも、三角形の水着のサイドには、左右それぞれに蝶結びの紐が結ばれており、可愛らしい印象と静謐な雰囲気を引き立てている。
どうやら俺の視線が彼女の身体に向けられていたせいなのか、目の前の恋人が微かに身体を揺らし、その二つの蝶結びがまるで本物の蝶が舞うように揺れた。俺の心はすぐさま打ちのめされる──
今すぐに。その場で。ここで。彼女を押し倒したい。
今すぐ彼女と親しくなりたい。手で彼女の胸の柔らかさを感じたい。
潤んだ桜色の唇も、まるで俺の注意を引こうとしているかのようだった。今ここで彼女にキスをして、その唇を愛撫できたら、俺はどれほど幸せだろう。
──残念ながら周囲には大勢の人がいる……俺にはそんなことはできない。
俺はそのまま数秒間、立ち止まっていたらしい。やがて端月が微かな声を発して、俺の注意を呼び戻した。そこで俺はぎこちなく言った。
「可愛い、超可愛い。綺麗だ、まるで夢を見ているみたいだ。君は本当に綺麗だ……俺、感動した。今日は来て本当によかった……」
俺は思わず帰りたいという気持ちが芽生えてしまった。
──ん? 水着をもう見たんだから、もう家に帰ってもいいんじゃないか?
帰り道に、静かな場所を見つけて彼女にキスできないかと、俺はついそんな小細工まで考えてしまった。
「うん……君が喜んで、くれたなら……よかった」
俺が自分の妄想の世界に入り込み、抜け出せなくなりそうになったその時、端月が恥ずかしそうにゆっくりとそう言ったことで、俺は再び一瞬で撃沈した。
その時の俺は全身が熱く、彼女への強烈な欲望まで湧き上がっていた。早く水に浸からなければ、きちんと冷静になれないような気がした。
「……」
俺たちは互いに見つめ合い、二人とも沈黙に陥った。
その時──曜光が嬉しそうな、よく響く声で言った。
「おいおい──! いいじゃないか、逐幸! よし、それじゃあそろそろ準備運動を始めよう。これなら早く下に行って遊べるからな」
その声のおかげで、俺と端月、そしていつからか俺に何か不満そうな視線を向けていた湖櫻先輩との間に漂っていた奇妙な空気が打ち破られた。
俺たちは少し移動して空いている場所を見つけ、曜光が先頭に立って準備運動の掛け声を数えながら、四人で準備運動を始めた。
そして俺が身体を横に向けてしゃがみ、脚の筋肉を伸ばした時になって、ようやく身体が少し冷静さを取り戻した。全身がむずむずするような感覚もかなり薄れ、俺はほっとした無言のため息を漏らした。
「じゃあ、まずはどれで遊ぶ?」
「人が少ないところから遊ぼう。そうすれば並ぶのにあまり時間を使わなくて済むから」
「いいよ」
「うん、それじゃあまずはあれからにしよう」
湖櫻先輩の問いかけに対し、曜光がすぐさま適切な返事をし、俺と端月も同意を示した。
俺たち四人が施設へ向かう途中、俺はわざと曜光と先輩との距離を少し離し、端月に声をかけた。
「端月、さっき乗る施設について、一つ相談したいことがあるんだ。いいか?」
俺がわざと声を低くしたため、端月は少し困惑したように首を傾げ、歩く速度も緩めた。
そして俺の話を聞き終えると、少し拗ねたような様子を見せ、ため息をついて言った。
「逐幸、あなたは私があなたの何なのか知っているの?」
「い、一番物分かりのいい恋人、端月お嬢様……お願いだから、融通を利かせてくれないか……?」
彼女の言葉に答えることに少し罪悪感を抱きながらも、俺は両手を合わせて頼み込んだ。
「一応、協力するつもりではいるけど、もしかしたら相手は気を遣われていると感じて、かえってこの組み合わせを嫌に思うかもしれないよ」
「そういうふうに感じるものなのか?」
「人によるけど、気を遣われていることには気づくものだよ。それに、先輩はあんなに鋭い人だから」
そしてどうやら「先輩」という言葉がきっかけになったのか、湖櫻先輩がこちらを振り返った。
俺は慌てて端月に「じゃあ、どうすればいいんだ」と尋ねた。端月は俺の少し慌てた様子を見ると、再びため息をつき、慈愛に満ちた眼差しを俺に向けて一瞥した後、俺たちが追いつくのを待っている先輩に尋ねた。
「湖櫻先輩、ちょっとしたゲームをしませんか? 今、先輩が私に一つ質問して、私は正直に答えます。その代わり、私も先輩に一つ質問しますから、先輩も正直に答えてください」
それに対し、先輩はまず端月の様子を観察し、それから少し考えた後に言った。
「どうしてなのかは分からないけど、いいよ。この挑戦、受けてあげる。ただ、遊ぶのなら、この人がちょっと邪魔じゃない? 彼がいると問題ないかな?」
湖櫻先輩が指で俺を指すと、俺はすぐさま湖櫻先輩専用の嫌悪の表情で抗議を示した。
「いちいち人のことを邪魔って言うの、やめてくれないか?」
俺たちのやり取りを見て、端月は微笑みを浮かべ、それから先輩に言った。
「もし気になるのでしたら、私たちは内緒話の形でやりましょう。受け入れてもらえるのでしたら、先輩から始めるというのはどうですか?」
「うん……君がそこまで言うってことは、私にどうしても聞きたい大事なことがあるんだよね? ただ、場合によっては私も答えるのを断るかもしれない。その時は、別の質問に変えてもらうことになるかもね?」
「先輩、安心してください。私は先輩のような質問はしません。あるいは、先輩が少し答えてくれるだけで、私は分かりますから。それでも本当に駄目だったら、私が無料で一つ質問させてあげたということにして、ゲームはここで終わりにするのはどうですか?」
「うん、いいよ。それじゃあ……私から聞くね? うん……それなら──繫 端月の今のスリーサイズを教えて!」
湖櫻先輩はいたずらっぽい表情を浮かべ、得意げに俺を一瞥した。
こいつはきっと「君だって知りたいんでしょ、ふふん」と思いながら、女性であることの特権をこれ見よがしに誇示しているのだ。
俺は彼女を一瞥してから、気づいていないふりをして端月へ視線を向けた。後者はそんな質問をされたにもかかわらず、相変わらず平然とした表情を保っている。
端月が答えるのを断るのだと思ったその時、彼女は先輩の耳元に身を寄せ、片手で顔の半分を隠しながら、彼女に何かを話した。
その間、先輩は口を開き、「おお──そうなんだ……」と声を漏らした。
そして俺の好奇心に満ちた視線に気づくと、彼女はすぐさま俺に舌を出した。
内緒話を終えると、端月は身体を引き、唇を少し結んだ。
しばらくして、彼女は先輩に言った。
「それじゃあ次は私の番ですね。私が聞きたいのは、これから遊ぶ施設の組み分けで、もし二人一組になるものだったら、私と逐幸が一緒に遊ぶことを先輩は気にするかどうかです。教えてください、先輩の本当の気持ちを聞かせてくれませんか?」
それを聞いた先輩は少し目を見開き、続いて俺を見て、それから少し寂しそうな表情を浮かべた。
彼女の様子を見ているのがつらくなり、俺は思わず顔を背けた。
「……」
先輩は少し俯き、顔を上げた時には笑顔を浮かべていたが、次の瞬間には表情を引き締め、途切れ途切れに言った。
「ごめん……えっと、二人には楽しく一緒に遊んでほしい。でも……私も少しだけ思うんだ。できれば、いつも私を仲間外れにするのは……やめてくれないかな……?」
それに対し、端月は温かな表情を浮かべて彼女を慰めた。しばらくして、端月は吹っ切れたような様子で口を開いた。
「それなら──」
しかし、その前に俺は思わず声を上げた。
「それなら、じゃんけんで決めよう」
「え?」「うん……?」
最初に俺が端月へ提案したのは、俺と曜光が一組になって施設に乗り、端月が先輩と一組になることだったが、俺の頭にふと新しい案が浮かんだ。
あまりにも突然だったからなのか、二人の女性は呆然とした表情で俺を見つめた。自分でも咄嗟に思いついたことではあるが、これは悪くない方法だと思い、俺は補足した。
「前にアニメを一本見たんだけど、登場人物たちが重要な人を共同で選出しようとした時、どうすればいいのか一時的に分からなくなっていたんだ。
それで、みんなで話し合った後、一番面白いやり方で決めることにしていた。だから俺たちも、それぞれの二人組で乗る施設の前に、素早くじゃんけんをして、どう乗るかを決めるのはどうかな?」
「……」
それに対し、湖櫻先輩は「これでいいのかな?」という申し訳なさそうな表情を浮かべたが、彼女が口を開く前に、端月が頷いて言った。
「いいですよ。私はこの方法に賛成ですし、少し変化や期待も増えて、こういうのも結構いいと思いませんか?」
端月はまるで先輩を慰めるように軽やかな声を出した。先輩は少し呆然と彼女を見つめ、それから視線で俺に確認し、俺も端月と同じように頷いた。
その時、先を歩いて俺たちと少し距離を空けていた曜光が、俺たちに声をかけた。
「お前らどうしたんだ、何かあったのか?」
先輩は曜光を見てから、彼に首を横に振り、すぐに追いついた。俺と端月も前へ歩き出している途中、先輩が突然振り返り、俺たちに小さな声で言った。
「ありがとう」
彼女は端月を見て、それから俺を見た。そして俺を見ていた時間は、端月よりほんの少し長かった。おそらく、最初にこのことを言い出したのが俺だと、彼女はもう察していたのだろう。
俺は腕を組んで大様な態度を装い、わざと素っ気ない表情を浮かべると、さらに少し舌を出して、彼女にあまり上手くない変顔をしてみせた。
俺の様子を見た先輩は、それで笑い出し、「ほら、見てみなさいよ」とでも言うように、また俺の胸元を指差した。
俺にとって、彼女が喜んでくれるのなら、たまに彼女にからかわれたところで、そんなことは大したことではない。
そして、じゃんけんで組み分けを決めることについて曜光に話すと、彼も賛成してくれた。
「よし、それじゃあ……みんな準備はできたか──?」
施設に到着すると、俺たちは列に並んでいる隙間を利用して、他の人の邪魔にならないように輪になった。
全員の準備が整ったことを確認してから──
「最初はグー──」
「じゃんけん──」
「ぽん──!」
四つの手が準備エリアでそれぞれの陣営を決め、全員の顔には、施設の下で弾ける水しぶきのように、大きな笑顔が咲いた。
弾むようでいて興奮の入り混じった歓声が、浮き輪に乗って下へと疾走していく他の利用客の叫び声に溶け込み、広大な屋内に響き渡った。




