第四章 暴走(5)
胸の中にいる恋人が、悪魔のような囁きを漏らした。この言葉は俺にとってまさに青天の霹靂で、思わず確認した。
「ほ、本当なのか……? 俺をからかってるんじゃないよな……俺、本気にしちゃうぞ?」
その時、端月は身体を一歩後ろへ引き、俺と目を合わせると、同意の声を発した。
「冗談じゃないよ……もしあなたが本当に約束してくれるなら、私、触らせてあげる。だって、私には感じられるから……逐幸が本当に私と親しくなりたいって……それに、私も少しあなたに触ってほしいと思ってる。どう、かな……?」
端月の瞳に真剣な表情が浮かび、俺は心を揺さぶられた。
「こ、これは……」
承諾さえすれば、この両手で恋人の柔らかな……
俺の手には、先ほど彼女に触れ、揉んだ時にもたらされた、弾力があって病みつきになるような感触が蘇った。
触りたい。手で揉みたい。さらには、その身体に直接触れたい。
「……」
俺は唾を飲み込んだ……端月を抱いている手も、感情が高ぶったせいか、僅かに震え始めているようだった。
「……」
俺は深く息を吸い、それからゆっくりと吐き出した。
……
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「逐幸……?」
俺が長考に陥ったため、端月は困惑した表情を浮かべた。
「分かった……俺は決めた──今は触らないで、また今度にするよ。」
俺は思わずそう口にしたが、実際には心の中で両手を額に強く押し当て、こっそりとため息をついていた。
「え……? 本当に? 本当に触りたくないの?」
この時、端月は驚いた声を上げ、まるで俺の決意を試すかのように、さらに問いかけてきた。
正直に言えば、前言を撤回したかった……でも男として、自分で今言ったばかりの言葉をすぐに破るのは、あまりにも格好悪い……そこで、俺は答えた。
「触りたい、ものすごく触りたい……でも……たぶん、君の条件を守ることはできないと思う。」
端月が首を傾げ、口を開こうとした時、俺は思わず先に彼女へ言った。
「端月、以前俺、一度作品を途中まで書いたことがあって、その時は後半もちゃんと書けるだろうと思って、前半だけ先に公開しても問題ないって考えたんだ……その時は確かにそう思ってた。
でも、実際に前半の物語を公開した後、しばらく経っても文章の続きをまったく書けなかった。そして、その物語は最後までひどく行き詰まって、俺は完全に書けなくなった……
だから、創作者っていう生き物は、たとえ前半の時点で自分は絶対に書けるって保証して先に発表したとしても、その時本人が本当にそう思っていたとしても、発表した後にはまるで別の頭になったみたいに、完全に別の状況になってしまうんだ──
とにかく俺が言いたいのは、どんな男にも『最後までしないって約束してくれるなら、触ってもいいよ』なんてことは絶対に言っちゃいけないってことだ……俺だったら、絶対に我慢できなくなる。
そして、ほとんどの男がきっとそうなると思う。だって端月は本当に魅力的だから、どんな男だって、そのまま最後までして、止まらなくなるに決まってると俺は思う。俺が何を言いたいのか、分かってくれるか──?」
これだけのことを一気に話し終えると、俺は思わず息を切らし、自分自身でもひどく狼狽しているように感じた。
それに対して、端月は目を大きく見開き、呆気に取られたような表情を浮かべた。
俺は口を固く閉じ、先ほどの言葉が本気だったことを目で伝えようとした。
最後に、端月はそっと頷くと同時に、その美しい顔には恥じらいの赤みが浮かんだ。
「うん、分かった。分かったよ。これからは、もうこんなことを軽々しく言わないようにするね。でも……」
端月は微笑み、手で俺の頬に触れながら続けて言った。
「あなたも、私のことをそんなに心配しなくていいよ。だって……私が気をつけなきゃいけない相手は、あなただけだから。」
その言葉に対して、俺は恥ずかしさから思わず鼓動を速める一方で、甘えるように言った。
「俺も普段はできるだけ君を守るつもりだけど、どこかで俺がすぐに駆けつけられないこともあるかもしれないから、君も外にいる他の男には気をつけてくれ……」
そう言われた端月は、まるで花のように、甘い笑顔を咲かせた。
「分かった──ありがとう、逐幸。外では、もっと自分の安全に気をつけるね。ただ、今の私がもっと心配なのは、私に拒まれたことで、あなたが外で他の女の子と親しくなりたいって思わないかってこと……?」
そこまで言うと、端月の顔に一抹の憂いが染まった。
それに対して、俺はどう答えるべきか少し考えてから、言った。
「端月、最近ネットで、キャラクターの絵が印刷された抱き枕カバーみたいなものを売ってるのを見たんだ。俺、そのカバーと中身を一緒に買って、家に持ち帰って自分のベッドに置こうかなって考えてる。」
「え……? あなた、抱き枕だけでいいの?」端月は呆然と口を開けた。
「ゲーム会社が、俺がものすごく好きなキャラクターの抱き枕カバーを出してるのを見つけたんだ……二週間考えたけど、今でもものすごく欲しいと思ってる。家に帰ったら、すぐに注文することにした……彼女を家に連れて帰って、夜は抱きしめながら眠るんだ。」
「えっと……逐幸、本気なの? それに、どうしてそんなに彼女のことが好きなの……いや、そうじゃなくて……そうしたら、現実の他の女の子と親しくなりたいって思わなくなるの?」
「頼むよ、端月。二次元の黒髪ロングのキャラクターに対する俺の愛を、絶対に甘く見ないでくれ! 俺はとりあえず彼女を抱いて我慢して、君が俺を抱かせてくれるまで耐えるから。それとも、俺が本当にそのキャラクターを好きだって信じられないのか? それなら、俺が何時間でも彼女のどこが好きなのか君に教えてやれる。」
「え? 信じてないわけじゃないよ。ただ、今の私には、あなたが我慢してるようにはだんだん感じられなくなってきたんだけど……?」
端月が甘えるように突っ込みを入れたため、俺はむしろ思わず自分の立場を彼女に示した。
「は──? 比べるなら、そりゃ現実の人間を抱いたほうが気持ちいいに決まってるだろ……! よし、今俺が思い切り君を抱きしめてやる。そうすれば分かるだろ!」
そう言って、俺は彼女が痛みを感じない程度の力で、どうやら拗ねようとしていた可愛い恋人を強く抱きしめた。
この時、腕の中の端月はまず「きゃあ──!」と声を上げ、もがくふりをしたが、しばらくすると、ようやく暴れるのをやめ、自分の腕も俺を抱きしめるように強く回した。
「もう分かったよ……あなたを信じる。でも、あまり彼女に夢中になりすぎちゃ駄目だからね……?」
その言葉に、俺の心に甘いものが広がった。彼女から伝わってくる鼓動を感じながら、俺は静かにこのひと時を味わった。
しかし、俺たちが再び距離を取った時、俺は端月の顔に、先ほどの出来事をまだ消化しきれていないことによる重さと、僅かな陰りが残っていることに気づいた。
俺は思わず提案した。
「端月、俺、実は一つ動きをやってみたいんだ……変なことじゃない。三秒くらいで終わるから、俺と一緒にやってくれるか?」
それに対して、端月は困惑したように首を傾げ、それから言った。
「なんだか変なことみたいだけど、三秒だけなら、やってみてもいいよ。」
俺は周囲を見回し、他に障害物がないことを確認すると、端月に「よし、それじゃあ舌を噛まないように気をつけてね。先に口を閉じておいて」と注意し、端月が素直に俺の言う通りにすると、俺は彼女に、これから始めると告げた。
そして。
──三。
──二。
──一。
仰々しいカウントダウンが終わると、俺はそのまま端月を強く抱きしめ、後ろへ倒れ込むように横になった──
「きゃあ──!」
重力の作用によって、身体が後ろへ引っ張られるような、一瞬の浮遊感を覚えた。
案の定、移動している間、端月は可愛らしい声を上げた。
しばらくして、俺の背中が床に触れ、仰向けの状態になった。
腕の中の端月はそのまま俺の上にうつ伏せに倒れ込み、柔らかな感触と、安心感に満ちた、そして甘さに満ちた重みを俺に与えた。
「何なの、この変な遊び……」
端月は先ほど叫んだせいで息を切らしながら、文句を言うように甘えた。
俺は擦るように腕を動かして、再び彼女の背中を抱きしめると、彼女の身体から伝わる温もりを感じながら尋ねた。
「どう……この動き、楽しいか?」
俺はそう言いながら、顔には抑えきれない笑みを浮かべていた。この感覚はいたずらが成功した時のようで、もしかすると、先導した俺は端月の姿に楽しませてもらったのかもしれない。
この時、俺の上に乗っていた端月が顔を上げ、無邪気な笑顔を浮かべて答えた。
「楽しい。もう一回やってみない……?」
「もちろん。せっかくだから、何回か遊ぼう。」
愛する恋人がこの小さな遊びで楽しんでくれると思うと、俺はやる気に満ちていた。
それに、彼女を抱いている感覚は心地よく、身体もとても柔らかい……彼女の身体に押さえつけられているのも、少し親密さと色っぽさを感じさせる……簡単に言えば、俺自身もかなり楽しんでいたということだ。
その後、俺たちは何度も遊び、慎重にもう一度キスも交わした。そして俺が帰る前に、俺たちはさらに何度かキスをしてから、俺は名残惜しく思いながら端月の家の玄関先で彼女と別れた。
駅へ歩いて戻る途中、俺は桃色に染まった雲に覆われた空を眺めながら、なぜか頭の中で、冬休みが終わるまであと一週間と少ししか残っていないことを考えていた。




