第四章 暴走(4)
欲望が収まった後、俺は僅かな罪悪感と、部屋に近づくほどにますます強くなる一抹の恐怖を抱えながら、ゆっくりと端月の部屋の扉を開けた。
端月はまるで美しい彫像と化したかのように、依然として先ほどの姿勢を維持していた。
しかし、俺が戻ってきた気配を聞くと、彼女は僅かに顔を上げた。
俺たちは互いに目を合わせた。彼女の表情を見た瞬間、俺はたちまち硬直した。
つい先ほど、俺は洗面台の前の鏡を通して、自分の姿を確認したばかりだった。
その時の俺は、自分があまりにも惨めな姿をしているとしか思えず、鏡から何度も視線を逸らしていた。
けれど……
今の端月の顔には、俺と同じ表情が浮かんでいた。それを見て俺は、突然誰かに頭を思い切り殴られたような感覚に襲われた。
彼女の肩は小刻みに震えており、桜色の唇も今は血の気を失い、その瞳には戸惑いと恐怖の色が浮かんでいた。
最悪だ……
旭 逐幸……お前は、どうして自分のことしか考えていないんだ?
愛する女が自分の目の前で苦しそうな表情を浮かべているのに、どうしてお前はこんなにも見て見ぬふりをしているんだ……?
本当に最低だ──くそ……俺は歯を食いしばり、心の中で自分を罵った。
しばらくして、俺は静かに息を吐き、端月に声をかけた。
「端月……」
その時、端月の肩がびくりと跳ねた。それが痛々しく感じられた俺は、さらに柔らかな声で彼女を呼んだ。
「端月。」
二秒ほど間を置いて、俺は落ち着いた声で言った。
「今、ただ単純に君を抱きしめてもいいかな……? 俺は何もしない。ただ君を抱きしめたいだけなんだ……いいか?」
端月は俺の表情を見つめ、そのまま少しの間が過ぎると、僅かに頷いた。どうやら同意してくれたようだ。
俺はゆっくりと彼女の前まで歩いていき、さらに動きを静かにして腰を下ろすと、腕を伸ばし、彼女を胸の中に抱き寄せた。
彼女が今もなお震えているのを感じた。柔らかな身体はまるで怯えた子供のようで、とても愛おしく感じられたが、それと同時に、自分が彼女を傷つけてしまったことに対する自責の念も生まれた。
俺はそのまま優しく彼女を抱きしめ、彼女がようやく震えなくなってから、ゆっくりと抱きしめる力を強めた。
そのため、彼女の体温が先ほどよりも直接的に伝わってきた。
「温かい……」
同じように二人が触れ合う時の温度を感じたのか、端月が呟いた。
どうやら彼女は少し安心したようだった。俺は苦い思いを感じながら、彼女に言った。
「ごめん……俺、さっき君の同意を得ずに、勝手に身体に触ってしまった……ごめん。」
腕の中にいる端月は首を横に振り、小さな声で言った。
「私こそ……あなたが心から私を大切に愛そうとしてくれているって、ちゃんと分かっていたのに……それでも、あなたを拒んでしまった……ごめんなさい……」
「君が謝る必要はない……俺が焦りすぎたんだ……君の気持ちを尊重せずに、自分の欲情を抑えられなくなってしまった。全部俺が悪い……自分が間違っていたって分かってる。俺を許してくれるか?」
そう言われた端月は、小さな頭を俺の胸に埋めて擦り寄せ、続けて、聞き取れるかどうか分からないほどの声で答えた。
「逐幸……逐幸……」
この言葉が俺に甘えているのか、それとも自分でもどうすればいいのか分からないことを表しているのか、俺には分からなかった。
それでも、こんな時でさえ、俺は今の彼女を可愛いと思ってしまった。
「端月……俺は君が好きだ。」
俺は思わず彼女にそう口にした。そして、端月が俺を呼ぶ声が止むと、俺は続けた。
「君が好きだから……君ともっと親しくなりたいと思ったんだ。ただ、俺は端月にそのことで悲しい思いをしてほしくない。君には幸せでいてほしいんだ……
もし君が、今はまだ俺と次の段階へ進むことができないと言うのなら……俺は君が俺を受け入れられるその時が来るまで待つ。その時になったら、俺のすべてを尽くして君を大切に愛する……
だから、焦らなくていい。いいか……? これは全然君のせいじゃない……悪いとすれば、えっと……俺自身が本当にスケベすぎることだ……君への欲情を隠せるように努力するよ。」
その言葉を聞いた端月は顔を俺の服に埋め、どうやら笑ったようだった。しばらくして、彼女は俺に答えた。
「うん。ありがとう、逐幸……私を待ってくれるって言ってくれて、ありがとう。その時が来たら……ちゃんと、とことん大切に愛してね……?」
「ああ、任せてくれ。その時になったら、翌日にベッドから起き上がろうと思っても、完全に起き上がれないくらいにしてやる。それから、俺たちはまたうっかり一線を越えて、新たな激戦を繰り広げるんだ。」
そこまで言ったところで、俺の頭の中にえっちな光景が浮かび、身体がまた反応してしまった。
端月もきっと気づいているだろうが、俺たち二人とも、意図的にそのことには触れなかった。
端月は可愛らしい頭を俺の胸から離した。
彼女は再び俺の首元に寄り添い、俺を抱く腕の位置を僅かに調整してから、そっと口を開いた。
「逐幸……」
「ん?」
端月は何かを俺に伝えたいようだったので、俺は元の姿勢を維持したまま、彼女が口を開くのを促した。
数秒後、端月は言った。
「さっき言ったように……私、逐幸があれを持ち歩いていることは知ってる。でも……それでも、やっぱり怖いの。もし逐幸が、その……私を愛している時に、激しくなりすぎて……うっかりそれを破いてしまって、私たちに子供ができてしまったら、どうすればいいんだろうって……考えずにはいられないの……」
端月は深く息を吸い込み、続けてゆっくりと息を吐いた。
俺は彼女の小さな背中をぽんぽんと叩いた。しばらくして、端月は続けた。
「事前や事後に薬を飲むことで……このことが起こるのを防げるっていうことは、ちゃんと分かってる……でも、私の頭の中にはどうしても、『もし本当に薬を飲んだのに、最後まで防げなかったら、どうすればいいんだろう』っていう考えが浮かんでしまうの。
私、怖いの……こんなことが起きるのが。お母さんが私のもとを離れてしまったせいで……私、子供を産むっていうことにどう向き合えばいいのか分からなくなったの。
もっと準備をしたいの……大学をちゃんと卒業するとか、社会に出て実際に収入を得るとか……自分自身が、新しい命を背負うことができるって思えるようになってから、初めて安心できると思うし、心から……このことを楽しむこともできると思う。
そうじゃなかったら、今の私は、どうしても不安で怖いって思ってしまうの。自分自身をちゃんと支えられないんじゃないか、子供をちゃんと育てられないんじゃないかって……逐幸がきっと私と一緒に解決してくれるっていうことは、よく分かってる。でも……一方的にあなたの負担になりたくないの。
私たち二人で、ちゃんと色々な準備をして……それから心からお互いの身体を楽しんで、そして二人で頑張って作った命を一緒に大切にしたい。」
そこまで言うと、端月は再び俺の胸に擦り寄り、尋ねた。
「あなたは……私って、すごく面倒くさい人だって思う?」
俺はそれに対して、彼女をもっと強く抱きしめた……安心させてあげたかった。そして彼女からは見えなくても、俺は首を横に振った。
「思わない。俺は面倒だなんて思わない。むしろ俺は、どうすれば君ともっと親密になれるかってことばかり考えて……あれを用意しておけば、君も安心して……俺と一つになってくれるって思ってた。
君のお母さんのことも知っていたのに、それでもこんなに軽率で、何も聞かず、君の気持ちにも気づけなかった。ごめん、端月……君は全然面倒なんかじゃない。俺自身が駄目なだけだ……でも、教えてくれてありがとう……君の気持ちを理解することができた。」
「逐幸……」端月が呟いたので、俺は彼女をさらに安心させてあげたかった。
「さっき俺が言ったように、俺は君を待つ……俺たちが準備を整えてから、俺は身体で君をちゃんと愛する……俺一人だけが楽しんでも、何かが足りないような気がするんだ……端月にも心から夢中になって、俺と一緒にいることを心の底から楽しんでほしい。そういうことなら、君は受け入れてくれるか……?」
「……うん、ありがとう。それから、その、逐幸……」
端月は言いかけて口ごもり、何を言いたいのか分からなかった。俺は静かに待ち続け、ようやく、端月が口を開いた。
「あなたって、本当に私の胸を触ったり……揉んだりしたいの……?」
え? これはまた、どういう質問なんだ……?
今度は俺のほうがどう答えればいいのか分からなくなった。だが結局、先ほど端月の胸に触れた感触を頭の中で思い出しただけで、身体のある部分がまた反応してしまい、俺は頭を抱えたくなった。
最終的に、俺は正直に答えた。
「したいよ……えっと、ものすごくしたい──したくてたまらない……だって、本当に君と親しくなりたいんだから……それがどうしたんだ?」
「それなら……一つ提案があるの。もし……最後まではしないって約束してくれるなら……触ってもいいよ。揉んでも構わない。どう……?」




