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第一章 繋がり(5)

バスに乗り込んだばかりなのに、ひんやりとした冷気が正面からやってきた。運転席に座っているのは、オレンジ色のサングラスをかけた男性で、おそらく運転手のお兄さんだろう。俺は心の中で「今回の旅ではお世話になります」と一言言ってから、端月(はづき)の後ろについて、少し急な階段を上った。


まだ時間が早いため、車内はまだ空いていた。そして、予定表には自由に座っていいと書いてあったので、俺たちはバスの中ほどにある座席を選んだ。前方は乗り物酔いしやすい学生たちに譲っておこう。


端月は窓側に座り、俺は二人分の旅行バッグを座席上方の荷物棚に置き、それから彼女の隣の通路側の席に座った。観光バスの座席には柔らかな素材が使われていて、さらに背もたれに敷かれたクッションにも質感があり、高級感を与えていた。


観光バスは待機中、ブーンという音を立て、わずかな振動も伴っていた。まるでこの旅を楽しみにしているかのようだった。


その後、ほかの学生たちも次々と乗車してきた。この観光バスは教育学科の学生だけが乗るため、みんな同じクラスの同級生なのだろう。彼らは乗車して俺と端月が一緒に座っているのを見ると、みな驚いたような視線を向けてきた。


外は陽射しが強かったが、端月はカーテンを閉めず、黙って外を見つめていた。観光バスの二階から外を見下ろすと、見下ろすような感覚があり、まるでこの角度から人々を観察するのが面白いと思っているかのように、端月は流れていく外の光景を飽きることなく眺めていた。


そのとき、一人の男子学生がパタパタと階段を上ってきた。彼はスポーツ風の濃紺のシャツを着ており、下は丈夫そうな長ズボンで、さらにリュックサックを背負っていた。観光バスの中央付近にある階段を上がると、俺たちのほうへ歩いてきた。


この人物もほかの同級生と同じように、俺と端月が一緒に座っているのを見て少し驚いた様子だった。だが、ほかの人たちと違い、彼は突然俺たちに話しかけてきた。


「おお、君たち二人って、もしかしてそういう関係なのか?」


その言葉を聞くと、車内にいたほかの同級生たちは一斉に耳をそばだて、会話の声量も落とした。


まあ、そうだよな……この一週間、俺と端月は授業が終わった後によく一緒に話していたし、授業中も隣の席に座っている(大学の教室は自由席だ)。けれど、俺たち二人はもともと比較的目立たないタイプなので、これまで付き合っていることを公表したことはなかった。


端月は男子の間では密かに人気があるようだが、入学したばかりで、ほとんどの人がまだ様子を見ている段階だった。そのため、俺たちは今まで面と向かってこんなふうに聞かれたことはなかった。


端月が答えようとしたようだったが、俺が先に口を開いた。


「うん、そうだよ。俺たちは高校の頃から同じクラスで、大学に進学してから正式に付き合い始めた。彼女は俺にとって、とても大切な人なんだ」


俺は意図的に端月の反応を振り返って見なかった。もっと強気な人なら、「そうだよ、こいつは俺の彼女だけど、何か問題あるのか」などと言うのだろうが、今の俺にはこれを言うだけでも精一杯だった。


俺の発言を聞くと、目の前の男子学生は一瞬目を大きく見開いて俺を見つめ、その後、顔に笑みを浮かべた。このときになって俺は初めて、この人は実はかなり格好いい顔立ちをしていることに気づいた。髪型もスポーツマンらしいスタイルで、おそらく女子の間でも人気があるのだろう。


「そうなんだ。よかったな」


「え?」


彼がそんな反応をするとは思っていなかったので、俺は思わず困惑した声を漏らした。


「あ? なんだその反応は、逐幸(つぐゆき)。友達のことを嬉しく思うのは普通のことだろ?」


「うん……? 友達?」


そう聞くと、男子学生も俺に困惑がうつったかのように、疑問の表情を浮かべた。そして俺は、すぐにはどう返事すればいいのか分からなかった。俺たちは何秒も見つめ合い、相手がようやく口を開いた。


「まさか、もう俺のことを忘れたのか……? 入学式の日、俺たちは隣に座ってたじゃないか。それに、かなり長いこと話したよな」


あ。


あ……ああ──! 頭の中に、どうやらこの人物についての記憶が浮かんできた。そうだ、この人はあのときの──!


「ごめん……俺、人の名前と顔を覚えるのがすごく苦手なんだけど、今はもう思い出した!」


俺は慌てて彼に謝った。うっ、なんだかすごく申し訳ない……本当にごめん。


男子学生はため息をつき、大きな手のひらを前の座席の背もたれに置いてから、続けた。


「まったく。お前、薄情すぎるだろ。改めて自己紹介すると、俺の名前は蒼 曜光(そらの あきみつ)。目標は世界一のキーボーディストになることだ。よろしくな、逐幸」


「ああ、あのときもそう言ってたな。よろしく」


俺たちは握手を交わした。このとき、端月も曜光(あきみつ)に軽く頷き、自己紹介した。


「こんにちは、私は繫 端月(つなぎ はづき)です。あなたと逐幸って、初対面の人同士にはあまり見えないね。これからもよろしくお願いします」


「そうだな。俺たちはお互いの夢を交換した仲だからな。あのさ、実は俺、一人一人への自己紹介はみんな同じなんだ。でも、ほとんどの人は『世界一って何だよ(笑)』って言うんだけど、逐幸は違ったんだ。


こいつはそんな反応をせずに、『そうなんだ。俺の目標も世界一のクリエイターだから、一緒に頑張ろう』って言ったんだ。だからさ、こいつは絶対に悪い奴じゃない。こう言うとなんだか上から目線みたいだけど、俺は君の見る目はいいと思う。仲良くしてやってくれよ」


「うん、ありがとう」


端月は短いが、親切な返事をした。このとき、曜光は突然からかうような表情を浮かべた。


「そういえば、こいつは入学式のときからずっと一人ぼっちみたいな感じだったよな。大講堂で講演が始まるのを待ってる間、最初はずっと手冊子をめくってて、最後には退屈すぎて眠そうにしてたし。まったく、あんなときに居眠りできるか?」


ま、待て! 端月の前で何を言ってるんだ──!


それに対して、端月は頷き、落ち着いた様子で答えた。


「確かに、私も見たよ。私も声をかけに行こうかどうか考えてた」


俺は思わず慌てた表情を浮かべた。


「え? 俺の動きって、そんなに分かりやすかったの?」


端月と曜光は互いに顔を見合わせ、それから二人同時に笑い声を上げた。


「たぶん、そうでもないよ」「気にするなって」


うっ、完全に一人ぼっちの人間として扱われているじゃないか。まあ、全部事実ではあるけど。


曜光は俺たちともう何言か話した後、俺たちの近くの座席に座った。


車内の電子時計には、時刻がすでに七時四十分と表示されており、観光バスもゆっくりと動き始め、宇宙空間に浮かんでいるような浮遊感をもたらした。


観光バスのウインカーがピッピッという活発な音を耳元に響かせ、少し冷たい空調が、昂ぶった気持ちをちょうどよく少し冷ましてくれていた。


楽しみだな──


そう思ったとき、柔らかな重みがゆっくりと俺の肩に寄りかかり、俺も思わず端月の温かく細い手を握った。


観光バスはゆっくりと校内を出て、ほどなくして高速道路へ入り、目的地へ向かって勢いよく走り始めた。




俺が母さんに新入生合宿に参加すると話したとき、母さんはただ「本当に行くの?」、「お金あるの?」、「何日行くの」と聞いただけだった。


そして俺が「うん、行きたい。自分でお金を出すよ。二日一泊だから、その日は俺の夕飯を用意しなくていいよ」と答えると、母さんは冷たく「ふーん、危ないところには行くなよ」と言って、それで俺たちの会話は終わった。


もし俺が母さんにお金を出してくれと頼んだとしても、おそらく彼女は承諾しないだろう。欲しいものがあるなら自分の力で手に入れなければならない。それが、俺がこの家にいることで学んだことの一つだった。


俺の頭の中にこの光景が浮かび、その後、俺はそれを思考の片隅へ移し、クリップボードに挟んだA4のコピー用紙に物語に関するさまざまな設定を書き込んだ。


作品の主なコンセプト、キャラクターの背景、あるいはストーリーのアイデアの断片などが含まれている。車内にはカラオケの音が響いていたが、俺はそれを心地よいBGMとして受け止めていたので、気にはならなかった。誰かに歌うよう求められなければ、俺はこういう空間にいるのが嫌いではない。ましてや──端月もいる。


そしてそのとき、肩にかすかな揺れが伝わってきた。どうやら俺に寄りかかっていた彼女が、もう目を覚ましたようだった。


「おはよう」


「……おはよう。もうすぐ着くの?」


整った顔立ちの彼女は、その瞳がまだ少し眠そうだった。声も少し気だるそうで、普段のきびきびとした印象とは違っていた。端月は小さく腕を伸ばし、ほんの少しだけ伸びをした。身体から漂う香りも伝わってきた。


「たぶん、あと一時間くらいかな。もう少し寝る? 目的地に着いたら俺が起こすよ」


「大丈夫。もう十分寝たから。それに、あなたと話したい。これから話す機会があるか分からないから。あ、これだとあなたの邪魔になるよね?」


伸びをした端月はかなり目が覚めたようで、瞳にも活気がいくらか戻っていた。彼女は俺の太腿の上に置かれたクリップボードとコピー用紙を見て、好奇心に満ちた表情を浮かべた。


「ならないよ。話し相手がいないから自分でやることを探してただけだから。俺も君と話したい」


クリエイターとして、多少進捗を急ぎたいという気持ちがないわけではないが、人と会話することでさまざまな感情が生まれることも、とても重要なことだ。もっとも、それを抜きにしても、俺は端月と話したかった。


「ちょっと見せてもらってもいい? 少し気になるんだ。やっぱり、都合が悪い?」


「うん、どうぞ。まあ、見て驚くようなものじゃないけどね」


端月はクリップボードを受け取り、上にあるコピー用紙をめくって静かに読み始めた。端月が隣に座っているため、俺が考えている内容は恋愛物語以外の企画について考えたものや、より抽象的な概念を使ったもの、そしてキーワードだけを使って記録したものが中心になっていた。


小説クリエイターのメモは基本的にかなり断片的な内容だ。例えば、新入生合宿で告白。プール。花火。二人がすれ違う。だいたいそんな感じだ。そこから後ろに突然、親友がこちらへ歩いてきて、水に落ちる危機を回避する、告白を一時的に取りやめる、雨模様、先生がみんなに動かないよう言い、自分で人を探しに行く、人を助けるために自分が危機に陥るのでは本末転倒、と続くこともある。


要するに、さまざまな名詞、キーワード、状況、ストーリー上の節目などだ。基本的には、それらは作者本人でなければ具体的な展開を理解できない暗号に近いものだった。


ロングストレートの黒髪、可愛い、クールツンデレ、少し肌寒い状況でキス、などの特に分かりやすい言葉を書かなければ、それほど大きな危険にはならない……そして俺も、バスに乗っているこの間は、こういう一目で分かってしまうような言葉をできるだけ使わないようにしていた。


「あ……ここに──本当に大好きな気持ちを表現したい、大好きでたまらない気持ちを、読んだ人が恥ずかしくなるけど、心が温かくなるような筆致で書く──なるほど、逐幸はずっとこういうことを考えながら物語を書いてるんだね」


「ま、待って、どのページを見たの? 俺、今日はそんな内容を書いた覚えはないんだけど!」


俺は驚いた子猫のように怯えながら、クリップボードに挟まれた紙を見つめた。すると、一番下に挟まれていたコピー用紙には、確かに斜めにその文字が書かれていた。


前に書いたメモを片付けるのを忘れていたのだ。くそ……死んでしまいたい。


そのとき、端月はコピー用紙の束を閉じ、クリップボードを俺に返して、優しい声で言った。


「機会があったら、私も逐幸が書いた小説を読んでみたいな」


胸の中に温かさが込み上げてきたが、別の部分には恥ずかしさも混ざっていた。俺はクリップボードを受け取り、数秒間間を置いてから、端月に言った。


「完成したら、君に見せるよ。自分が満足できる作品を作るためには、まだまだ努力が必要だから。もう少しだけ待っていてほしい」


「うん。楽しみにしてる」


それはまるで錯覚のような小さな声が、耳元に響いた。俺はこの恥ずかしさをゆっくりと心の箱の中へしまうと同時に、クリップボードとコピー用紙を鞄の中に入れ、端月と最近お互いに読んだ本について話し始めた。


そして俺たちが話している途中、突然、観光バスが停止した揺れが伝わってきた。続いて車内にアナウンスが響き、俺たちに目的地へ到着したことを知らせた。


俺たちは自分の荷物を手に取り、そのまま順番に観光バスを降りていった。





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