第四章 暴走(1)
「お邪魔します──」
「うん、早く入ってきて」
この日、俺は端月と昼食を食べた後、一緒に彼女の家へ帰ってきた。
端月は「先に着替えてくるね」と一言言ってから部屋へ入っていった。俺はリビングに残り、どうすればいいのか分からないような気分になっていた。
この家に入るのは二回目だ。
前回このリビングに来たのは学園祭の焼きそば活動の後、端月を家まで送ったときだった。そのとき、マンションの外で仕事から帰ってきた叔父さんと出会い、彼に誘われて上がらせてもらった。
あの日、おじさんと連絡先を交換し、その後、彼は俺に、もしこの家に来たいなら端月さえ同意すればいつでも遊びに来ていい、毎回自分に知らせる必要はないと教えてくれた。
ただ、彼はもう一度、二人きりで一緒にいるときは安全に気をつけるよう俺に念を押した……俺にはもちろん、何を意味しているのか分かっていたので、「分かりました」と返事をした。
このことも含めて、今日はおじさんが家にいないというのに、俺はやはり身体が少し強張っていた。
何しろ、ここは俺の大切な恋人の家なのだから。
今座っているソファも、目の前にある低い長机も、端月が使ったことがあるのだと思うだけで、俺は思わず心臓が速くなるのを感じてしまう。
そして、そんなとき──
「何をしてるの? 先に私の部屋に来て。私、お茶とお菓子を用意してくるから」
部屋着に着替えた端月は、さらに新たな刺激と喜びを俺に与えてきた。そのせいで、俺が「気を遣わなくていいよ」とか「うん」と答えようとしても、まったく言葉が出てこず、最後には声にならない呻きしか出せなかった。
当然のことながら、このとき端月はすでにキッチンへ向かっていた。
俺は彼女の指示に従い、リビングのメイン照明を消して、開いている扉の先──恋人の部屋へと入った。
部屋の中の配置はとてもシンプルで、いくつかの本棚には参考書やハードカバーの古典文学が並べられており、本棚の隣には小型のドレッサーがあった。
ドレッサーの隣には、以前彼女が話していた、二段の本棚が付いた机が置かれていた。机の上にはデスクトップパソコンがあり、反対側のコンセントにはノートパソコンが一台接続されていて、充電中のようだった。
もう一方には木の茶色のシーツが敷かれたベッドがあり、枕には生成り色の枕カバーが使われていた。枕元の近くには何体かのぬいぐるみが置かれていて、部屋の中にはほのかに香りが漂っている……端月から漂う心地よい香りを連想させるものだった。
そのとき、部屋の外から恋人が近づいてくる音が聞こえた。俺は何も悪いことをしていないのに、驚かされたような感覚になり、心臓がどきどきと激しく鼓動した。
白いニットの上に、下半身には黒いルームパンツを身につけた端月が入ってきた。
彼女の手にはトレイがあり、その上には二つのティーカップと、琥珀色の液体が入った透明な保温ポット、それから何種類かのお菓子が入った陶器の皿、さらに二つの保存袋が載っていた。
「そこの机の上にあるものを、少しどかしてくれる?」
俺はドレッサーの上に置かれていた化粧品を隅へ移動させ、きちんと並べた。すると端月は「ありがとう」と言って、トレイをドレッサーの上に置いた。
「あとで保存袋を使ってお菓子を入れるの。そうすれば、作業している手も部屋も、うっかり汚さずに済むから」
「仰せのままに」
まだ緊張していた俺は、あまりにも堅苦しい態度で答えた。端月は俺の返事を聞くと、顔を上げて俺の表情を見つめ、微笑みを浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。
「それじゃあ、早速始めましょう。お菓子が食べたかったり、お茶が飲みたかったりしたら自分で取ってね。私は今からパソコンを起動するから」
そう言いながら、端月はパソコン本体の電源ボタンを押した。すると、鮮やかな青色のリング状のライトが同時に点灯した。
俺は保存袋を一つ取り、一口分のお菓子を袋に入れた後、お菓子を袋の口元まで移動させ、カチャカチャとキーボードを打ちながらパスワードを入力している端月の口元へ近づけた。彼女はちらりと口元を見て、それから可愛らしく口を開き、俺が差し出したお菓子を食べた。
パソコンの画面には正常にデスクトップが表示され、その上には夜空に満天の星が瞬く自然系の壁紙が浮かんでいた。
「へえ、こんな壁紙を使ってるんだ?」
「うん……」端月はお菓子を咀嚼し、それを飲み込んでから小さな声で言った。
「できれば……ツーショットの写真も置きたいんだけど……ただ、お父さんがときどきこのパソコンを借りるから……」
これはどういうことなんだ? どうして彼女はこんなに可愛いんだ……?
胸の中の何か耐えきれないような感覚を埋めるため、俺は思わずまた袋の中のお菓子を端月へ近づけた。彼女はまず「なんでずっと私に食べさせてるの……あなたも食べなきゃ。私一人じゃ食べきれないよ」と突っ込んだが、それでも素直にお菓子を食べてくれた。
食べさせることに成功した満足感が、俺の耐えきれないような感覚を少しだけ上回ったので、俺は話題を変えた。
「さっき道で、君のノートパソコンを借りてもいいって言ってたよな」
それを聞いた端月は「あ、そうだった」と頷き、隣で充電していたノートパソコンの蓋を開け、パスワードを入力してから俺に渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして。早く用事を済ませちゃおう」
端月は椅子に姿勢を正して座り、俺も別の椅子を借りて彼女の隣に座った。
彼女の机はとても大きかったので、二人が同時にパソコンとノートパソコンを使っても、まだ十分なスペースがあった。
俺はネットワークのアイコンをクリックし、日和の学内サイトに接続して、学生アカウントとパスワードを入力した後、個人履修登録システムに入った。
そう、これが今日の俺たちにとって最も重要な任務だった。
教育学部の学生、そして教職課程を履修している学生にとって、履修登録は毎学期一度経験する戦場だ。
授業を修了するためには十分な単位を選択する必要があるが、一人の先生が一学期に開講できる授業数には限りがある。そのため、履修登録時の抽選によって、誰がその授業を履修できるかが決まる。
卒業までに規定された授業を修了できなかったり、異なる分野の教育科目の単位を必要数揃えられなかったりすると、残念ながら一年間留年することになる。いわゆる卒業延期だ。
履修結果が出た後でも、状況に応じて先生に頼み、追加履修を認めてもらうことで履修人数を増やすことはできるが、この方法は成功することもあれば、当然失敗することもある。
普通の学生なら、できる限りこのような事態を避けたいと思うものなので、余計な学内の事務手続きをする羽目にならないよう、最初の段階から積極的に履修登録に参加する。
教育学部そのものの学生であれば、クラスで開講される学部必修科目はもちろん問題なくそのまま登録して履修できるが、それ以外の専門科目については、自分の抽選運に頼るしかない。
残念ながら、運というものに関して俺は一番縁がない。以前、父さんのために宝くじの番号を選んだことがあるが、一度も当たったことがない。そのため、第一段階でどれだけ授業を選べるかについては、当たった分だけ取れればそれでいいと思っていた……もう何も期待していない。
俺は事前に家でパソコンを使って履修したい授業を調べていた。今日は、履修登録システムが正式に学生へ開放される日だった。
早く履修登録を済ませても授業に当選する確率が上がるわけではないが、一週間の登録期間が終わった後に、うっかり忘れていたことに気づいて悲劇を招くのは避けたかったので、この重要な用事を早く済ませてしまいたいと思っていた。
システムが開放されるまでの空き時間に、俺は曜光へメッセージを送り、今日の午後二時になったら履修登録を忘れないようにと伝えた。
こいつは普段なら大抵、頭の切れる印象を与えるのだが、ときどき急に抜けたところを見せて、重要な予定を忘れることがある。
以前、俺たちがある授業を履修したときも、小テストがいつあるのかは覚えていたのに、特定の授業用品を持ってくることはよく忘れていた。
曜光に送ったメッセージにはすぐに返信が来た。
彼は「お、今日だったのか! ありがとな──!」と返してきた。
俺はほっとすると同時に、彼のために冷や汗をかかずにはいられなかった。
二時を過ぎると、俺と端月はそれぞれ履修登録を始めた。
履修登録システムを操作しておよそ三十分後、俺は取りたいと思っていた授業をすべて登録した。
その後、漏れがないか何度も確認し、さらに追加で履修したい授業がないかも確認した。
すべて終わり、システムのページを閉じたときには、すでに午後三時になっていた。
俺は端月のほうを振り向いた。彼女はまだ作業中らしく、黙々とマウスの左ボタンをクリックしていた。
俺は二人のカップがどちらもまだ使われていないことに気づいたが、幸いにもお茶は保温ポットに入っているので冷めることはない。
俺は自分の分のお茶を注いで、一口飲んだ。
口に入れたお茶はちょうどいい温度で、冬に温かい紅茶を飲むと身体がすぐに温まってくる。
部屋の中でも俺は依然としてある程度の緊張を保っていたため、気がついたときには、すでに一杯のお茶を飲み終えていた。
俺はもう一度自分の分を注ぎ、ついでに端月の分も一杯注いだ。
そのとき、椅子に座っていた端月が腕を上へ伸ばし、伸びをした。そのせいで服の裾が上へと移動したので、俺は少し視線を逸らし、彼女のティーカップを持ち上げて尋ねた。
「履修登録は終わった? 一杯お茶を飲む?」
「うん、飲む──」
端月が振り向くと、俺がすでにお茶を注いでいたことに気づき、俺の顔を見た。俺たちは数秒間互いに見つめ合った後、俺には彼女が何を言いたいのか、だいたい分かった。
「こぼさないように気をつけてな……?」
俺はそう注意しながら床から立ち上がり、自分が先ほど座っていた席へ戻った。そして、手に持っていたカップの縁を、彼女の桜色の唇の隙間へ向け、それからゆっくりとカップを傾けた……
端月は小動物のように、両手で俺が持っているティーカップの手を握った。おそらく、俺がうっかり早く飲ませすぎないようにしたかったのだろう。
俺はごく小さな角度で、少しずつカップを傾けた。しばらくすると、彼女がわずかに拒むような反応をした瞬間を感じたので、カップを引いた。
口の中に残ったお茶を飲み込んだ後、端月は小さく息を吐いた。
しばらくして、彼女は「まだ飲みたい」と言ったので、俺は先ほどと同じ動作を繰り返した。
一回目はおよそ四分の一ほど飲んだので、それを基準にして、二回目は半分ほど残ったところでカップを離した。
恋人の唇はお茶で濡れたことで、部屋の照明を反射し、華やかでありながら艶めかしいような雰囲気を生み出していた。
「美味しい?」
「美味しい──」
俺は思わず尋ね、端月は甘えるような声で答えた。すると俺の胸の中がくすぐったく感じられると同時に、彼女がさっき俺に飲ませてもらったお茶を飲んだときと同じような温かさを感じた。ただ、それとはまた別に、ほのかに甘いものが加わっているようにも感じた。
「それじゃあ、次は何をしようか?」
「そうね……あ、じゃあ一緒に卒業アルバムを見ましょう」




