第三章 連結(4)
次の言葉を何と言おうか考えていると、端月が口を開いた。
「逐幸、昨日はどのくらい寝たの?」
俺は少し呆気に取られ、彼女が突然こんなことを尋ねてきた意図が分からなかった。
端月は俺のほうを向かず、少し視線を落としながら言った。
「目の下にクマができてるよ……もしかして、冬休みが始まってから、ずっとちゃんと寝てないの?」
その言葉によって、俺は逃げ場を失った。
思わず顔の筋肉が強張ってしまう。
端月はそれ以上何も言わず、俺が口を開くのを待っているようだった。
しばらくしてから、俺は言った。
「今日は俺……午前三時を過ぎてから寝て、それから朝八時くらいに起きた……えっと、確かに冬休みが始まってから、この一週間は前より遅くまで起きてることが多くなった……」
俺はまるで悪いことをした子供のように、愛する人の前で自分の罪を告白していた。
彼女に嘘をつきたくない一方で、心配もさせたくない。
残念ながら、今の俺にはその両方を叶える言葉が見つからなかった。
叱られたり、何か言われたりすると思っていたが、彼女はただ、小さな頭を俺の頭へと寄せてきた。
水泳帽を外したことで、後ろでまとめていた端月の黒髪も頭と一緒に揺れ、彼女は俺の手を握る力を強めた。
「学校にいる間は勉強を頑張って、かつ姉のSUNRICEでアルバイトをして学費を稼いで、自分の理想や夢のために一心不乱に創作して……それから、私と一緒にいるから、私たち二人が楽しく過ごせるように、たくさん頑張ってくれて、いつも私の気持ちを気にしてくれて、私の体のことまで心配してくれてる。
今こうして私たちがデートできているのも、逐幸がいろんなことの中から時間を作ってくれたから、二人で一緒に過ごせてるんだよね……でも、一日は二十四時間しかないから、自分の睡眠時間を削るしかなくて……その分、自分の体にたくさん疲れを溜めてしまってる。」
端月の体が、ほんの少し縮こまったように見え、微かに震えていた。
「私は逐幸と一緒にいたいし、二人で毎日楽しく過ごしたい……たとえ困難にぶつかっても、一緒に方法を考えて、一緒に解決したい……でも、でも……本当はあなたに負担を増やしているのって、私なんじゃないかな……? そう考えると、すごく苦しくなるし、怖くなるの。」
端月の言葉に、俺は驚いた。
そうだったのか……彼女はずっと、こんなことを考えていたんだ。
俺の胸の中に、温かさ、苦さ、心配する気持ち、安堵、嬉しさが入り混じった熱いものが込み上げてきた。
そして、それらの感情は最後には俺の口元に表れ、俺は微笑みを浮かべた。
「端月、こっちに座ってくれないか……この椅子、プラスチック製だけど、かなり丈夫そうだから。」
「え……?」
端月は困惑した声を漏らし、それから反対側を見ながら「でも、こんなことしたら人に見られちゃう……」と言った。
しかし俺が「二人とも寄り添って毛布をかぶって寝てるんだから、今さら人目も何もないだろ? ほら……?」と答えると、端月はようやくおずおずと席を立ち、俺の太腿の間に空いた場所へと腰を下ろした。
移動したことで、毛布の中に保たれていた暖かな空気が一部逃げてしまったものの、再び毛布をかぶると、さらに近づいた二人の体温によって、周囲の空気はすぐにまた温められていった。
俺は両手で彼女の細い腰を抱き、体を自分の前へと引き寄せ、重なった二人の手も互いに絡ませた。
彼女の体の柔らかさを感じ、目の前にいる彼女から漂う淡い髪の香りも感じ取る。
「逐幸、また興奮してきちゃってるよ……」
愛する恋人を強く抱きしめると、二人が向かい合って抱き合っているわけではないのに、俺の体のある部分はすぐに大きくなり、彼女の臀部のあたりに押し当たってしまう。当然、気づかれてしまう。
彼女が俺に手を出そうとしているのかと確認する前に、俺は先ほどの話を続けた。
「端月、君は『創作』って何だと思う?」
端月はすぐには答えず、およそ五秒ほど間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「私は……創作者が頭の中にある世界を創り出して、それに明確な形を与えて、ほかの人が見たり、聞いたり、感じたりできるようにすることだと思う。そういうことなのかな――?」
さすが、たくさんの本を読んでいる文学少女だ。
彼女は創作の一部分に含まれるものを答えた。
もちろん、それも一つの答えには違いない。
けれど、俺には俺なりの理解と解釈がある。
「普通なら、それで間違ってないと思う。でも、君の恋人である俺には、少し違った考え方がある。俺の話、聞いてくれるか?」
それを聞くと、端月はほんのりとした笑みを浮かべ、甘く感じる声で言った。
「私の大切な恋人がそこまでお願いしてくれるなら、もう少し強く抱きしめてくれたら、聞いてあげる。」
「うわ……!」
――俺が突然遠慮なく彼女の言葉どおりにしたせいで、彼女は思わずそう声を上げそうになったようだが、幸いにも口の形だけで、最後の瞬間にどうにか堪えたらしい。
俺は以前、他人の目なんて気にしなくていいと言ったけれど、実は俺だって、ずっと誰かに見られていたいわけではない……だから、彼女が本当に声を上げなかったことには助けられた。
俺は彼女がここにいることを確かめるように、その温もりを心から感じながら、答えた。
「俺にとって、創作という行為は、誰かとつながりを築きたいという気持ちの表れなんだ。だからこそ、こんなにも多くの心を費やして、自分の想いを誰かに伝えようとする。」
そうだ。
これは俺が創作を始めてから、何度も何度も考え続け、最後に辿り着いた答えだった。
「高校生の頃、俺の父親が自分の故郷に戻って、俺たちの家族もばらばらになった……あの頃の俺は毎日すごく憂鬱で、そんな俺を救ってくれたものの一つ目は、端月を含めて、真心で俺と向き合ってくれた人たち。そして二つ目は、小説やゲーム、アニメ、漫画みたいな、いろんな創作物だった。」
俺は二秒ほど間を置き、それから続けた。
「俺はいろんな人との関わりの中から、かけがえのない温もりをもらった。そして創作物からは、作家先生と自分とのつながりを感じて、そうした作品から生きていく勇気をもらった。もしあの頃の俺が端月と同じクラスになっていなくて、こういう創作物にも触れていなかったら、この世界には何一つ、未練を残す価値のあるものなんてないって、本当に思っていたかもしれない。」
そこまで話すと、俺は当時の、逃げ場を失っていたような気持ちを思い出した。
すると、腕の中にいる端月が腕を動かし、俺の体にもっと密着するように導き、さらには俺の頬を肩越しに彼女の頬へと触れさせた。
「少し驚いたけど……よく考えてみれば、あの頃のあなたは、いつもどこか寂しそうな顔をしていたような気がする。大切な家族を失って……母親を失った私も、全部ではないけど、少しはその気持ちが分かる。」
端月は少し俯きながら、今の気持ちを口にした。
ありがとう――俺は小さく彼女に感謝を伝え、それから話を続けた。
「うん。だからこそ、俺は自分がすごいと思った創作者たち、あの作家先生たちに強く憧れたんだ。彼らは自分の技術と感情を使って、たくさんの素晴らしい作品を生み出して、その感動を深く俺の心に伝えてくれた。そして、あの頃の俺を救ってくれた……
自分勝手な話に聞こえるかもしれないけど、俺は自分があの作家先生たちと共鳴できることを嬉しく思ってる。俺たちは作品を通して、時代や場所の制限を越えて、つながりを築くことができたんだ。」
そうだ。
彼らはいつも俺に、簡単に諦めてはいけない、いつだって優しくあり続けろ、自分にとって大切な人に気づき、その人を大切にしろと教えてくれた。
彼らの言葉は俺に勇気を与え、何が正しい道なのか、何を大切にすべきなのかを伝えてくれた。
そして、自分は一人じゃないと感じさせてくれて、俺の心の支えになった。
「だからこそ、俺は創作したいんだ。自分が鍛えてきた力を使って、彼らからもらった数え切れないほどの大切な言葉、誠実な想い、そして未来に立ち向かう勇気を、すべて作品の中に込めたい。そして、自分が創った作品を通して、俺が尊敬する作家先生たちと同じように、この本を読んでくれた誰かとつながりを築きたい。」
ただ――俺は苦笑を浮かべ、それから続けた。
「君も知ってるとおり、前に俺が端月の才能に思わず嫉妬してしまったみたいに、俺たちみたいな人間は、ある時から一つのことを考えすぎてしまいやすいんだ。そして、一人だけの力じゃそこから抜け出すのは難しいし、さらには自分を傷つけるようなことをしてしまう可能性だってある。
だから……ずっと俺のそばにいてほしい。君じゃなきゃ駄目なんだ。俺に一番近い場所にいてほしい。
君と一緒に過ごす時間は、決して無駄な時間なんかじゃない。これから先、俺がまた無茶をし始めたときに、今みたいに俺を引き止めてくれるのは、俺が一番愛する人、繫 端月であってほしい。
物語の中では、俺はいろんな人とつながりを築くことができる。でも、この世界で俺が築きたいのは、君――繫 端月と二人だけの、もっとも深くて、もっとも大切なつながりなんだ。」
俺がゆっくりと話し終えると、端月は微動だにしなかった。
この言葉について考えているのか、それとも俺の考えが理解できないのか、あるいは俺に呆れているのか、分からなかった。
どちらにしても、俺が今伝えたかったことは、すべて伝え終えた。
あとは、彼女の返事を静かに待つしかなかった。
十秒ほど経つと、端月が肩を小さく揺らし始め、それから居心地が悪そうに、俺の腕の中で体を揺らした。
俺は前に首を伸ばして彼女の表情を見ようとしたが、端月はそれより先に顔を背けた。
まずい……もしかして、俺は彼女に嫌われたんじゃないか?
彼女は今も俺に抱かれていることを許してくれているけれど、数秒後には俺の腕から抜け出してしまうのではないかと、不安になった。
俺が余計なことを考え始め、さらに不安を募らせていたそのとき、端月が小さな声を漏らした。
――やだ……
その言葉を聞いた瞬間、俺の全身が強張った。
もしかして、俺の言葉が逆に彼女にプレッシャーを感じさせて、嫌な気持ちにさせてしまったのだろうか。
問いただしたい。
けれど、拒絶される答えを聞くのが怖かった。
そのとき、端月が突然体を動かした。
彼女は後ろを振り返り、自分の美しい顔を俺に向けた。
彼女の顔は真っ赤になっていて、唇は小さく震えていた。
けれど、その青みがかった瞳には潤いが浮かび、まるで雨上がりに太陽が雲の隙間から顔を覗かせたときのような、澄んだ光を放っていた。
彼女は唇をそっと開き、俺にはっきりと言った。
「お願いだから、人前で……誰かと一番深くて、一番大切なつながりを築きたいなんて……そんなこと、言わないでよ……」
一瞬、俺は呆然とした顔を浮かべ、それから思わず硬い声で言った。
「俺はただ……君は絶対に負担なんかじゃないって伝えたかったんだ……ずっと君と一緒にいたい。俺から離れないでほしい……いいか……?」
「そんなこと言われたら……いったい誰が、あなたと離れられるっていうの……ん――?」
端月は眉を寄せ、心の底から嬉しくなるような、甘えるような声を漏らした。
「でも……ちゃんと睡眠時間は増やしてね? それに、私の適切な管理も受け入れてくれる……? いい……?」
端月はきっと俺の答えをとっくに分かっているはずなのに、それでもこの言葉を口にした。
俺は今、横向きになっている彼女の体を後ろから抱きしめ、それから椅子の背もたれから少し体を滑らせ、彼女と水平になるように視線を合わせて言った。
「もちろん。それに、俺たち前に約束しただろ? 俺は、自分の恋人に世界で一番幸せだと感じてもらえる創作者になる。だから……これからも、繫 端月、俺のことをちゃんと管理してほしい。俺がまためちゃくちゃになり始めたら、君自身の手で俺を叱ってくれ。君の助けを借りて、もう一度正しい道に戻れるように。」
「……うん……分かった。」
端月はゆっくりと頷いた。
そして、その返事の語尾は、これが本当に聞こえたのかと疑ってしまうほど小さかった。
その後、彼女は恥ずかしそうに付け加えた。
「逐幸、今は最後の一歩を終えるために、あと一つだけ足りないと思う。分かる……?」
俺はその言葉に困惑した。
すると端月は顔を四十五度ほど横に向け、白く柔らかな頬を俺に見せた。
俺はふと、ある答えに気づいた。
少し近づくと、端月はまるで俺の判断が間違っていないと伝えるように、ゆっくりと目を閉じた。
だから俺は、彼女の右頬に大切にキスをして、今この瞬間、二人の想いが通じ合っていることの証明とした。




