第三章 連結(2)
カウンターでチケットを購入した後、俺たちはそれぞれ男女別の更衣室へと入っていった。
男である俺にとっては、数分もあれば済むことだった。そして、冬であることに加え、今日は平日ということもあってか、午後の遊びのピーク時間帯であるにもかかわらず、人混みは俺が想像していたほど多くなかった。
水着に着替えた俺は裸足のまま更衣室の外にある共用の廊下へ向かい、そこで待つことにした。
しばらくすると、一人の人物が俺の前まで歩いてきた。
彼女はプロシアンブルーのワンピース型の水着を身に着け、頭には同じデザインのスイムキャップを被り、細い首にはゴーグルを掛けていた。
彼女はこちらを向いているので、俺を探しているのだろうか?
俺が困惑した表情を浮かべていると、相手は首を傾げて言った。
「どうしたの? 行こう……?」
その声が、俺の恋人の声と重なった。
「えっと、その……君は端月なのか?」
人違いをしていたら怖いので、俺は慎重に口を開いて確認した。
すると、目の前の女性は俺を見て、にっこりと微笑んだ。
「ああ、ごめんなさい。人違いでした。目の前に立っている人が、私の愛する彼氏である旭 逐幸だと思ったんです。でも、どうやら私の勘違いだったみたいですね。すみません、そこの方、それでは私は先に行きますね──きゃあ!」
女性が振り返った瞬間、彼女だと気づいた俺は慌ててその腕を掴んだ。
「ごめんって──俺が君の探していた人だよ……もう君を離さないから──」
そう言われた端月は、聞こえなかったふりをして再びプールのある通路の出口へ向かい、俺はそのまま途中まで引っ張られ──そして二人で手を繋いだ状態で通路を出た。
俺たちはプールサイドの比較的広い場所まで来ると、端月は俺の手を振りほどき、問い詰めるように言った。
「どうして私だって気づいてくれなかったの? すごく傷ついたんだけど」
それでも、彼女の問い詰めるような言葉には少し甘えるような雰囲気と、「早く私の機嫌を取って」という空気が含まれていて、俺は少し躊躇してしまった。
考えた末、俺は答えた。
「ごめん、君だって気づかなかった……人違いして、うっかり別の女性の手を握ったりしたら怖かったんだ」
本当は最初、スイムキャップが彼女の美しい髪を完全に覆っていたことに加え、館内の様々な反響によって声が少し聞き取りにくくなっていたことを考えていた。
しかし、長年恋愛コメディ作品を見てきた俺の経験からすると、そんなものは理由にならない。やっぱり素直に謝ろう。
端月は唇を少しだけ引き結び、わざと身体と顔を二十度ほどそらしてから言った。
「本当に許してあげる前に、今の感想を言ってみて……?」
うっ……正直、かなりまずい。
彼女が選んだのはビキニのような二着式の水着ではなく、ワンピースタイプなので、より多くの肌が露出しているわけではない。
それでも、細い首筋、白く露出した両肩、胸元の魅惑的な膨らみ、引き締まった腰、そして下半身を飾るスカートが、時間が経つにつれて俺の鼓動を少しずつ速めていく。
以前、全裸よりもちらちらと見え隠れするほうが色っぽいと聞いたことがあるが、どうして自分の恋人となると、肌をほとんど露出していなくても色気を感じてしまうのだろうか?
俺はたちまち途方に暮れた。
だが、答えるべきことは早く答えたほうがいい。
そう思い、俺は乾いたような声で言った。
「綺麗だよ……その格好、すごく似合ってる、もっと君に近づきたくなる……」
すると、端月は少し態度を軟化させたようだった──
「そう……? でも、その人の大切な恋人は、本当に彼女のことが分からなかったみたいだけど……?」
うっ……俺は考えが甘すぎた。
どうやら彼女はまだ気にしているらしい。
しかし、本当にこれ以上どう答えればいいのか分からず、最後には庭雪先生から教わった技を繰り出すしかなかった──
「もう──許してよ……君、いきなり普段とは違う可愛さになったんだから、すぐに気づけるわけないだろ……もう……一緒に楽しく遊ぼうよ……ね……?」
「逐幸……どうしてその技を使えるの……?」
彼女は身体をこちらへ戻し、眉をひそめて抗議した。
その仕草を見て、俺は思わず続けた。
「だって、俺の大切な端月は俺のことが一番大事だって知ってるから……本気で俺に怒るなんてできないだろ……こんなに綺麗なんだから、怒らないでよ……ごめんって……許してくれるか──?」
俺の言葉は周囲にいた何人かの水着姿の客の注意を引いたようだったが、俺にはそんなことを気にしている余裕はなかった……悪いが、大切な女性の機嫌を取るためなら、男の面子なんて俺にとってはいつでも捨てられるものだ。
数秒が経った後、端月のため息が聞こえてきた。
彼女は俺に近づき、俺の腕を撫でながら言った。
「もう……分かったよ。わざとじゃないんだよね。許してあげるから、ね?」
最後に声を上げた「ね」があまりにも色っぽくて、俺は危うく耐えられなくなりそうだった。
まさか、これは何かのクリア報酬なのか?
もっとも、それが理由でなくても、俺の身体のある部分は彼女だと気づいた瞬間から、はっきりと反応してしまっていて、俺はかなり苦しい思いをしていた。
端月は俺の表情を見ると、その視線を下へと移していき、最後にはある特定の高さで止めた。
彼女は微笑み、それから温かく恥ずかしそうな視線で俺の目を見つめた。
「苦しいの……?」
その問いに、俺は黙って頷いた。
すると、その部分はその言葉によってさらに硬くなったようだった。
朝、うっかり吐き出してしまった後だから、こんなにはっきりとした反応はしないだろうと思っていた。
しかし、事実は俺があまりにも甘く考えていたことを証明していた。
その時、まるで俺に言い聞かせるかのように、その場所がさらに震え始めた。
──えっちな狼さん。
端月は小さな声で言った。
その後、彼女の顔にも赤みが浮かんだが、わざと冷静な声を出した。
「じゃあ、早く準備運動しよう。水に入ったら、たぶん少し落ち着くと思うから」
彼女に促され、俺はプールの反対側へ視線を向け、準備運動を始めた。
隣にいる端月も、俺に合わせて筋肉や関節を動かし始めた。
振り向くだけですぐにもっと大きな反応をしてしまいそうだったので、俺はわざと視線を前方に固定し、できるだけ視野の端に入れる範囲も狭めた。
準備運動を終えると、俺たちは隣にある蛇口のところへ移動して身体を濡らした。
冬に冷水で身体を濡らすには少し勇気が必要だが、端月の前ではどうしても臆病な姿を見せたくなかった。
俺は自然なふりをして手で少し水を受けて身体を濡らし、それからこっそり深呼吸をして、意を決して蛇口から出る冷水の下へ歩み入った。
──それでも心の準備をしていたにもかかわらず、冷水に身体を打たれると、俺は寒さで小さく震えてしまった。
幸いなことに、おかげで俺の生理的な反応もかなり収まった。
俺が蛇口を閉めると、その時には端月も身体を濡らし終えていた。
二人で手を繋ぎ、ぱちゃぱちゃと足元に溜まった水を踏みながら、競泳エリアへ向かった。
このプール施設は大きく二つのエリアに分かれている。
一つは七、八本ほどのレーンからなる競泳エリアで、もう一つは浮き球によってレーンを区切っていない自由遊泳エリアだ。
俺たちは競泳エリアの隅まで来た。
そこでは、レーンの壁に横棒が一列に埋め込まれていて、水に入るための梯子代わりに使えるようになっていた。
俺が先に横棒を掴んで水に入ると、水位はすぐに足首を越え、肩まで達した。
水に入ると、周囲の水が絶えず俺の体温を奪っていくことによる寒さを感じるほか、身体に浮遊感も生じた。
この場所では水に入ってもプールの底に足をつけることができる。
岸にいる端月が振り返り、俺に背を向けて梯子の横棒を掴もうとする前に、俺は彼女へ手を差し出した。
端月は俺を見て、それから自分の手を俺に預けた。
俺は力を受け止める準備をし、端月が俺につかまって水に入れるようにした。
このレーンには泳客が多かったので、端月に合図してから俺は潜り、レーンの間にある浮き球の下を通って、人の少ないレーンへ移動した。
移動を終えると、俺は身体を起こした。
俺に手を引かれていた端月はまだ水中に潜っていたので、俺は彼女の進む方向に合わせて引き寄せた。
そして、わざと少し大きめの力を加えたため、彼女は身体を起こした勢いのまま俺の胸へ飛び込んできた。
俺は空いていたもう片方の手で彼女を抱きしめた。
その時、このレーンの泳客がちょうど前へ出発し、右側の待機位置が空いた。
俺の胸の中にいる端月からは柔らかく心地よい体温が伝わってきた。
青い水着に包まれた身体はとても柔らかく、さらに小柄で可愛らしい印象を与えていた。
「いつの間にこんな技を覚えたの……」
端月は小さく呟き、わざと少し頭を下げた。
まるで今の自分の表情を誰にも見られたくないかのようだった。
俺の心は甘くなり、思わずもう少し彼女に甘えるように、腕の位置を整えて彼女をよりしっかりと自分の胸に抱き寄せた。
端月も、しばらくの間は俺の調子に乗った行動を許してくれたようで、腕を伸ばして俺を抱き返した。
しばらくすると、彼女は俺の腕の中から抜け出し、泳いだり浮いたりしながらプールの右側へ移動した。
そして俺に「じゃあ、行くね」と言ってから、足で美しい水しぶきを蹴り上げ、水面をかき分けながら前へ進んでいった。
俺の胸と腕には、まるで彼女の心地よい温もりがまだ残っているようだった。
俺は少し寂しさを抱えながら、彼女と同じように右側へ移動した。
少し待ち、十分な間隔を取ってから、俺は後方の壁を力いっぱい蹴った。
同時に腕を伸ばし、反作用を利用して前方へ滑り出した。
幼い頃、母が俺と弟を短期の水泳教室に申し込んでくれたことがあり、その時に俺は簡単なクロールを覚えた。
息継ぎの動作はまだ十分に慣れていなかったが、それでも泳ぐことはできた。
高校の水泳の授業になると、授業の進行や施設の都合もあり、当然ながら先生が生徒一人ひとりを個別に指導するのは難しかった。
そのため、だいたいは生徒が自由に練習するか、道具を使ってちょっとしたゲームをしていた。
大学に入ってから、俺たちのクラスではまだ水泳の授業を受けていない。
もしかすると、来学期には該当する授業があるのかもしれない。
高校での経験から見ると、男子と女子の水泳の授業に対する態度はだいたい同じだった。
授業後の片付けや清掃が面倒だと思うか、そうでなければ自分の身体を人前に晒すことを嫌がる。
俺も同じような考えを持っていた。
しかし、いったん水着に着替えてプールへ入ると、「せっかく水に入ったんだから、できるだけたくさん泳がないともったいない」と考えてしまう。
だが、俺の観察によれば、そう考える人は学生の中ではおそらく少数派だった。
なにしろ集合時間にはまだなっていないのに、クラスメイトのほとんどはすでに岸へ戻っていた。
少し気を抜くと、プールの中に残っているのは俺一人だけになり、周囲がひどく閑散として感じられた。
俺は腕を前後に伸ばしながら、規則正しく足で水を蹴って進んだ。
一人で水の中にいると、複雑な考えを一時的に放り出し、身体の動きだけに集中することができる。
それと同時に、自分の心の奥底と対話することもできて、まるで瞑想しているような感覚になる。
そうして何往復も泳いでいると、数メートル先にいる最愛の恋人は、途中で一度も止まることなく泳ぎ続けていた。
どうやら彼女はかなり体力があるらしい。
だが、それが彼女が無理をしている結果でないことを願う……端月が物事にきちんと分別を持って取り組むことは分かっている。
それでも、俺は心配せずにはいられなかった。
俺たちは、前を泳ぐ人との安全な距離を改めて保つ必要がある時くらいしか、レーンの端と端で言葉を交わさなかった。
「まだ大丈夫?」端月が甘い声で尋ねる。
「うん」俺は頷いた。
「じゃあ、行くね」端月はいたずらっぽく首を傾げた。
「俺ももう一往復頑張りたい」
君ともう一度話したいし、真剣に頑張っている俺を君に見てもらいたいから。
「うん。でも、急がなくていいからね。ゆっくりでいいよ」
端月が俺の手に触れ、俺も彼女の腕に触れた。
そして、彼女が前へ泳いでいく姿を見つめた。
俺たちが話せる時間はとても短く、すぐに出発しなければならない。
それでも、少しでも話ができることが俺にはとても嬉しかった。
そうして、どれくらい泳いだのか分からないが、俺はレーンの途中で立ち止まって一時的に休む回数が少しずつ増えていった。
短く休んだ後、俺はようやくプールサイドまで泳ぎ戻った。
端月は、俺が休んでいる間に後ろから追い越していった泳客を先に行かせ、自分はその場に残っていた。
どうやら俺を迎えてくれるつもりらしい。
自然と湧いてきた温かさを胸に抱きながら、俺は急いで彼女のもとへ泳ぎ戻った。
「どうしたの?」
俺が立ち止まると、顔に流れた水滴を拭った。
すると端月は、俺には敵わないとでも言いたげな表情を浮かべて言った。
「休憩が必要な人がいるんじゃない? もう……完全に力を使い果たしたら、岸に上がれなくなっちゃうよ?」
「それなら、愛する恋人に引っ張ってもらってもいい?」
「それはちょっと難しいかも。私の力じゃ、あなたを引っ張れないと思うよ?」
「心配しなくていいよ。実は君の手を握った後、そのまま君を水の中へ引きずり込むのが俺の狙いだから」
「それはもう分かってるよ。あなたの思い通りにはさせないから」
端月は微笑み、俺の呼吸が少しずつ落ち着くのを待ってから、「じゃあ、上がって休もう」と言った。
俺は頷き、二人は来た時と同じように、レーンの間にある浮き球の下を泳いで通り抜け、それからプールサイドの梯子を上って岸へ戻った。
水面から出た瞬間、俺は突然、自分の身体がとても重くなったように感じた……水の浮力による支えを失ったことに加え、何往復も泳いだことでかなり体力を消耗していたため、岸を歩く俺の姿は少し重々しかった。
俺たちは更衣室へ戻り、泳客用に用意されているロッカーから自分の水筒を取り出して水を飲んだ。
しばらく休んだ後、俺たちはもう一方の自由遊泳エリアへ遊びに行くことにした。




