第一章 恋人(3)
週末、アルバイトを終えた後、俺は外で夕食を済ませ、それから家に帰った。
玄関のドアを開けると、母さんがリビングで電卓を叩いているのが見え、その後、ボールペンで計算用紙に数字を書き込んでいた。
俺は、そういえば今日は母さんはシフトが入っていないんだなと思いながら、階下の郵便受けから取り出してきた封筒を玄関脇の棚の上に置いた。
その時、目ざとい母さんがこちらへやって来た。
二つの封筒を手に取って一瞥すると、すぐに舌打ちをした。
「……また請求書。」
その話し方は、まるで仇敵と話しているかのようだった。
俺は責められているわけではないのに、それでも何かしらの傷を受けたような気分になった。
いつもなら、そのまま自分の部屋へ逃げ込んでいただろうが、今日の俺はどういうわけか、母さんに尋ねた。
「……毎月の出費って……だいたいいくら必要なの?」
母さんは目を上げ、冷たい視線と口調で俺に言った。
「──は? 知ってどうするの?」
思わず引き下がりたくなったが、せっかく口にしたのだから、俺は覚悟を決めて続けた。
「……毎月どれくらいお金がかかるのか、先に知っておきたいだけだよ。何かするつもりはない。」
母さんの言いたいことが「知ってどうするの」という意味に近いことは分かっていたが、もしかすると「まさか余計なことをしようとしてるんじゃないでしょうね」という意味も含まれているのかもしれないと思い、後半の一言を付け加えた。
母さんは俺を数秒ほど観察し、それからソファに座るように言い、ボールペンの先でノートに書かれた項目と数字を指しながら、一つずつ列挙していった。
毎月の水道代、電気代、ガス代、それにインターネット料金、固定の保険料などの項目が含まれていた。
それ以外にも、俺が定期的に自分で支払っている携帯電話の通信費もあった。
五月は確定申告の時期で、所得税などを納める必要があるという。
この時になって初めて、俺は水道代と電気代は二か月に一度支払うものなのだと知った。それまで「夏は電気代が高く、冬はガス代が高い」といった大まかな印象しかなかったものが、一気に具体的なものになった。
幸い、俺たちの家は賃貸ではなく、自分たちで所有している家なので、ひとまず住宅ローンの問題はなかった。
それ以外には、交通関係の自動車税などもあるが、母さんはそれは自分個人が負担する部分だと言った。
「数年後に社会に出たら、自分で健康保険料を払って、自分で確定申告もしなきゃいけない。それに、前にあなたのために入っておいた保険も自分で負担することになる。その保険もあと数年で約束された金額を払い終わって、残りは保障期間を延ばすための毎年の固定費になる。」
まるで人を置き去りにするようなことを言う母さんの言葉が、俺には少し辛かった。
もし他の人の親だったら、子供にこういうことをどう説明するのだろう? 「自分の力で負担できると信じているけど、まだできないのなら私が助けるよ」といった感じなのだろうか?
どちらにしても、他人の家は他人の家で、俺たちの家は俺たちの家だ。
俺はそのことをよく分かっているのに、それでもこんな想像をしてしまう。
以前、中学や高校に通っていた頃、父さんと母さんは時々、いろいろな請求書や授業料などの支払い証明を机の上に積み重ね、「見た? これからはちゃんと私たちに返すんだよ」と念を押していた。
父さんが家を出る前の学期には、二人が俺の学費の支払いを先延ばしにしたこともあり、支払い期限を過ぎそうになった。
幸い、最後は母さんが振り込みで支払ってくれた。もしそうでなければ、期限までに残っていたのは銀行が開いていない休日だけで、当時の俺は退学させられるのではないかと思い、全身が強張った。
俺はまだアルバイトができる年齢ですらなかったので、何もできなかった。
二度とあの無力感を味わわないために、高校で大きな試験を終えた後、俺はアルバイトを始めた……父さんが残してくれた、高校を卒業するまで何とか賄える学費を除けば、大学へ進学するのなら、自分でアルバイトをして学費を稼がなければならなかった。
そして今、俺が稼いでいるお金のほとんども、自分の来学期の授業料や学費を支払うために貯めている。
「だいたいこんなところかな。他にも思い出したらまた話す──」
母さんは説明を終えるまで、顔に何の表情も浮かべていなかったので、俺はとても辛く感じた。
「……分かった。」
まるで何か重苦しい軍事情報を交換したかのように、俺は控えめに答えてから、部屋へ戻って荷物を置き、風呂に入る準備をした。
ただ、母さんとの会話は依然として沼の周囲に漂う瘴気のように、俺の頭の中を満たしていた。
浴室の中を流れる水の音を聞いていても、安らぎを得ることはできなかった。
風呂から上がり、部屋へ戻って服を着替えると、俺は自分のベッドにぽすんと横になった。
生きるって……こんなにも辛いことだったのか。
俺は目を閉じ、頭の中に自分の呟きを浮かべた。
生きることがこんなにも辛いのなら、まだこんなに若い俺は、これからあとどれだけこういう日々に向き合わなければならないのだろう?
俺は思わず苦笑して自嘲することで、自分を少し楽にしようとした。
しかし、そうしようと思っても、結局どうしてもできなかった。
その時、突然スマートフォンの通知音が鳴った。
動くのも面倒だったので、俺は机に向かって手を伸ばし、何度か試してようやくその上に置いてあったスマートフォンを引っ掛けることができた。
画面を確認すると、先月のアルバイト代が振り込まれたことを知り、俺はまたため息をついた。
入学前、俺はたとえ教育系に進学したとしても、将来必ずしも小学校教師になる必要はないと思っていた。
母さんはそれを望んでいたが、俺はあくまで一つの選択肢として考え、最優先の目標は創作に役立つ──より高い効率で知識を学習できる能力を身につけることだった。
しかし、実際に入学してみると、周囲の同級生たちのほとんどが小学校教師を目指して進んでおり、俺も多少は周囲の影響を受け、「こうするのも悪くないみたいだし、それならひとまず頑張ってみよう」と思うようになった。
クリエイターとして考えた場合、俺にはもう一つの道がある。それは卒業後に教師にならず、一般企業に就職することだ。もし創作と両立できる仕事を見つけられたら、それに越したことはない……俺はもともと、確かにこのキャリアルートを選ぶ方向に傾いていた。
しかし、当時の俺が予想していなかったことが一つあった。
それは──俺に愛する恋人ができたことだ。
この選択をしたことに後悔は一切ないが、これが自分の人生設計にまったく影響を与えていないと嘘をつくこともできない。
それに……今の俺の本当の気持ちとしては、俺自身──これからもずっと端月と一緒にいたいと思っている。
それなら、俺が一方的に「俺はクリエイターになりたいから、教師にはならないと決めた。これからどうなるかは、その時になってから考える」などと言い張るわけにはいかない。
そんな無責任な態度であるべきではない。
たとえ端月が俺の決断を受け入れてくれたとしても、自分の選択を他人に一方的に押しつけるようなやり方を、俺自身が受け入れることはできない。
だから、俺はいったいどうすればいいのだろう?
天井の白い蛍光灯を見つめながら、俺は迷いに陥った。
教師になる以外の道は、すべて塞がれてしまっているのだろうか……?
子供の頃は、未来にはいろいろな可能性が満ちていると思っていたのに、今となっては、自分にはもう一つの道しか残されていないように感じてしまうことが、なんとも皮肉だった。
そんな時だった。
──何か困ったことがあったら……私に相談しに来て。自分一人で悩まないでね?
頭の中に突然、端月の純粋で愛おしい声が響いた。
一瞬、「俺のことを役立たずだと思わないだろうか」と考えたものの、通信アプリのメッセージ送信ボタンを押すと同時に、心の中では別の声が「彼女はお前が一番愛する恋人なんだから、そんなふうには思わないに決まっている」と響いた。
そして最終的に、メッセージは無事に送信された。
『一つ、相談したいことがあるんだ。今、話せる?』
すると、すぐに既読へと変わった。
その下には端月からの返信が浮かび上がった。
『何のこと? なんだかちょっと深刻そうだよね。でも、ちょうど今なら時間あるよ。』
『電話で話す? それとも普通にメッセージでいい?』
この二つのメッセージを読み終えて、俺は確かに電話で話したほうが便利だと気づいた。
どうやら俺の視野は知らないうちに狭くなっていて、この方法が使えることにすら気づいていなかったらしい。
俺は考えながら、感謝の気持ちを込めて返信した。
『じゃあ、俺からかけようか?』
その後、端月から短く「うん」と返信が来たので、俺はアプリの通話機能を使って電話をかけた。
すぐに、電話が繋がった──
「こんばんは。端月。」
『うん、こんばんは。』
俺が先に挨拶すると、恋人の声が続いて耳元へ響いた。
まるで美しいクラシック音楽を聴いているかのようだった。
俺の心は揺さぶられ、数秒ほど間を置いてから、ようやく口を開いた。
「端月……俺、端月が好きだ。」
『何よ……また何か悪いことしたんじゃない? だからそんなに口が甘いの? 今のうちに正直に白状したら、私の怒りも半分くらいになるかもしれないよ?』
彼女の声を聞いた瞬間、俺の頭にはただ一つの考えが浮かんだので、そのままこの気持ちを口にした。
端月の返事が俺の耳元を撫で、その言葉はまるで優しく俺の心の琴線をくすぐるようだった。
「どうして俺を疑うんだよ? そういうんじゃないよ。ただ……突然、端月にそう言いたくなった。」
俺はわざと不満そうな様子で口を開いたが、最後まで言うと、思わず口調が柔らかくなった。
続いて、耳元には端月の呼吸音のほかに、くすりと笑ったような優しい吐息が伝わり、俺の頬に触れた。
『はいはい、分かった。逐幸、私もあなたが好き。それじゃあ、そろそろあなたが話したいって言ってたことを話そうか?』
「うん。でも、先に数秒だけ待って。」
そう言いながら、俺は部屋の蛍光灯を「カチッ」と消し、真っ暗闇の中で布団へ潜り込んだ。
どうやら布団と身体が擦れる音が伝わったらしく、端月が思わず尋ねた。
『何かしたの?』
「部屋の電気を消して、それからベッドに横になった。こうすると、まるで端月が俺の隣に横になって話してるみたいな感じがするから。」
『もう。逐幸ったら、いつからこんなに甘えん坊になったのかな。』
真っ暗な部屋の中、枕の向こう側から端月の柔らかな声が聞こえた。
その言葉に、俺は心がくすぐったく感じた。
『じゃあ、私もこうしようかな。幸い、もう歯を磨いたから、あなたのメッセージがちょうどいいタイミングだったよ。』
その言葉が終わってから数秒の間に、順番にベッドから起き上がるような音、電灯を点けてから消すような音、そして布団が擦れるさらさらとした音が聞こえてきた。
今は冬なので、厚い布団によってその音もかなり大きく聞こえた。
「こう聞くのも変な感じだけど、端月は寝てる時、布団を蹴飛ばすことある?」
『うん……する時もあるし、しない時もある。でも、いつするのか、いつしないのかは、自分でもちょっとコントロールしにくいかな。』
「じゃあ、うっかりお腹を出したまま寝ることは?」
『正直に答えてくれたら、その後で答えるよ。』
「上着をズボンに入れ忘れた時は、その可能性が高くなる。」
『じゃあ私のことは……秘密にしておきたいかな。』
「さっき答えてくれるって言ったじゃないか?」
『答えたよ。「秘密にしておきたい」って言ったじゃない? その辺は、クリエイターの逐幸なら理解できるでしょ。』
「そういう理屈なら、確かにそうだけど……なんだかずるい気がする。」
『ん──じゃあ、今回は私に譲ってよ。』
「分かった。それなら、端月は寝てる時にうっかり胸を出しちゃうってことにしておこう。」
『逐幸、今から電話切るよ?』
「待って、やめてやめて! お願いだから絶対に切らないで! ごめん──今のは適当に言っただけ! まだ端月と話していたいし、もう少し端月の声を聞いていたいんだ。だからお願い、急いで電話を切らないで──!」
この猛烈な懇願を受けて、数秒後、ようやく返事が返ってきた。
『ふふ、そんなに必死にお願いしてるんだから、今回だけは許してあげる。』
端月が澄んだ笑い声を上げ、その声に合わせて、スマートフォンを置いている枕まで揺れているような気がした。
『でも、もう適当にセクハラしちゃダメだよ、小さなスケベさん。』
「分かったよ。次は気をつけて、慎重に向き合う。」
──ねえ、本当にちゃんと反省してるの?
端月がそう一言付け加えると、俺はもともと横を向いていた身体の向きを変え、天井を正面にして、胸の中で速くなっていく鼓動と、じわじわと熱くなっている額と頭を感じた。
この時間がずっと続いてくれたらいいのに。




