第六章 旭日(6)END
彼女は黙ったまま、少し俯いた。
それから……下唇を噛みしめた。
しばらくして、彼女は口を開いた。
「うん……私、本当に怖かった。逐幸に嫌われたんじゃないかって……私を必要としなくなったんじゃないかって――もしかしたら、私の知らないところで、私のことで苦しんでいるんじゃないかって。私と一緒にいることで、苦しい思いをしているんじゃないかって……そう思うだけで、不安で、怖くなるの」
端月の声は震えていて、まるで美しくて壊れやすい芸術品のようだった。
「逐幸がいったい何に悩んでいるのか、私には分からない……創作に関することだっていうのは分かってるけど、そういう細かいことは私には全然分からないし、それに私自身……あなたの力になれないかもしれないことも分かってる。あなたが理解できないことや、乗り越えたいと思っている困難が何なのかさえ、分からないかもしれない。
でも……でも、それでも、あなたのことを知りたい。私が一番大切に思っている恋人のことを、もっと知りたい。勝手に思ってるだけかもしれないけど……あなたが自分の悩みを話してくれたら、少しは楽になるんじゃないかって……ただ、そうしたところで問題を解決できないこともあるって、私も分かってる。
私は、どうすれば……あなたの力になれるんだろうって? ずっとそんなことを考えてた……いや、たぶん、それだけじゃないんだと思う。私はただ、あなたにも、だからこそ私のことをもっと知りたいって思ってほしいんだと思う……だって私、あなたのことが一番好きだから」
端月の目には涙が浮かび、その時吹いた冷たい風が、彼女の美しい前髪を揺らした。
俺は全身に寒さを感じた。
ちょうどその時、太陽が雲に覆われ、周囲もそれによって少し暗くなった。
端月の姿を見つめながら、俺は深く息を吸い、息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。
「この前、端月……俺の大切な恋人が、一生懸命書いた物語を俺に見せてくれたんだ。それを見て、俺は焦りを感じてしまった。えっと、だって、君の文章は本当に俺の心を動かしたから……一人の創作者として、ああいう文章を無視するのは難しかったんだ。
いや、もっと正確に言うなら、君に一番近いところにいる創作者である俺が、それに複雑な気持ちを抱いてしまった。だから――俺ももっと頑張らなきゃいけないって思ったんだ……ずっと君の前を走り続けて、いつか君に追い越されないようにしなきゃって。それが、俺にはすごく怖かったんだ……」
端月は思わず目を大きく見開き、肩もわずかに震えた。
「でも――! これは全部、君のせいじゃない。俺だって端月にはもっと優れた創作者になってほしいと思ってる。それも全部、俺の本当の気持ちだから……! ただ、俺は少し心が狭い性格で、そのうえ、君の優秀さを妬まずにはいられなかったんだ。
でも、その後、俺は創作者の友達と話をして……自分の目標をもう一度確立した。俺はもう、このことで迷わないし、こんなことで君を傷つけたくもない……前に言ったよね。俺の目標は、世界一の創作者になることだって。俺は、この道を君と一緒に歩いていきたい……
だって、それだけじゃなくて、俺がなりたいのは、大切な恋人にも世界一の幸せを感じてもらえる創作者でもあるから。もし君がそれで不安になるなら、それは俺がまだその目標から遠く離れているということだ。俺は頑張る。いや……俺たち二人で一緒に頑張って、いつか、本当の世界一にたどり着けるまで」
俺は一秒ほど間を置き、歯を噛みしめ、それから覚悟を決めて、リュックから紙袋を取り出し、端月へ差し出した。
「高校の頃、俺たちは一緒になることができなかった。だから、今からでもいい。俺はもう一度、この場所で、君に言いたい――」
本当なら頭を下げて誠意を示す必要があるのかもしれないと思った。
でも、この時の俺は彼女の目を見たかったし、自分の気持ちを直接端月に伝えたかった。
だから、そのまま目の前にいる彼女へ言った。
「繫 端月、俺は君が好きだ。この学校で、この国で、この世界で、君が俺の一番好きな人だ。俺はこの気持ちを『ラブレター』に書いた。どうか受け取ってほしい。
俺は自分がいろんな面でとても不器用で、頑固な性格で、それに心も狭いって、よく分かってる。でも……君が誰よりも人の気持ちを理解して、いつも優しく人に接して、それに話し方も可愛くて、話している内容もいつも俺には面白く感じられて、会話をしている間も俺をたまらなくドキドキさせてくれることを知ってる。
何事にも真面目で、すごく几帳面で、笑顔が綺麗で、悲しんでいる時でさえ、見ている俺が胸を痛めるくらい愛おしくて……俺は学校で何度も君の一挙一動を気にしてしまっていた。そうしていると、俺は幸せな気持ちになった……君がそれに応えてくれた時は、その一日が特別なものになって、もっと嬉しくなった。
だから、俺は君が一番好きだ。ずっと前から、こうして自分の口で君に伝えたかった。この気持ちを、直接伝えたかったんだ。それで……もしできるなら、もし君がこの気持ちを受け入れてくれるなら――大学の入学初日から、俺たち二人は恋人にならないか?」
その時の端月は、まるで呆然としているかのように、ただ俺の前に立っていた。
でも、俺には彼女が確かに俺の言葉を聞いていることが分かった。
なぜなら――彼女の耳と整った顔が、少しずつ緋色に染まっていったからだ。
その間、彼女は何度か口を開こうとしたようだったが、最後には思わず唇を閉じた。
俺が紙袋を持っている手は少し震えていた……いつの間にか、心臓も明らかに音を立てるほど速く鼓動していた。
――受け取ってもいい?
端月はそう言ったようだったが、俺の頭は朦朧としていた。
俺まで困惑したような顔をしているのを見て、端月はもう一度言った。
「そのラブレター……先に受け取ってもいい?」
「うん。君に受け取ってほしい……」
端月はゆっくりと手を伸ばし、俺が紙袋を持っている手のひらを両手で包み込んだ。
そして……俺はゆっくりと紙袋を手放し、端月が紙袋の重さを受け取った。
「何が入ってるのか、見てもいい?」
「もう君のものだから……もし俺に返したいっていうなら、俺としてはちょっと困るけど」
その言葉に対して、端月は恥ずかしそうな笑い声を漏らした。
彼女は紙袋から「ラブレター」を取り出し、少し目を細めながら言った。
「やっぱり、少し重いね。うん、この気持ちには確かに重みが詰まってるのが分かる」
もしかしたら端月は、俺を少し落ち着かせようとしているのかもしれない。
だが、今の俺は少し焦ってしまった……いや、恥ずかしいと言ったほうが正確かもしれない。
「今、読んでもいい? でも、この厚さだと少し時間がかかりそうだから、先に座れる場所を探そう……?」
端月は少し身体を強張らせている俺を引っ張り、隣の教室の壁際まで連れていった。
そこには共用の長椅子が一つ置かれていて、俺たちはそこに座った。
「ここにいると……寒くない?」
ここは廊下だったが、たとえ太陽が雲の間から姿を現しても、廊下の外壁に光を遮られてしまうかもしれない。
「大丈夫。私の隣にはカイロがあるから」
端月は俺のほうへ身体を寄せてきて、最後には俺たちの身体が触れ合った。
彼女はまず紙袋を自分の横に置き、それから綴じられた一冊の「ラブレター」を太腿の上に置いた。
まず愛おしそうにその表面を撫で、それから言った。
「これ、日和の近くにあるコピー店のだよね。あそこで用意されてる、このビロードみたいな表紙用紙、私好きなんだ。触ると柔らかくて、すごく心地いい」
俺は実はこの紙が何という名前なのか知らなかった。
ただコピー店へ行って、店主に一種類ずつ紙を触らせてもらい、最後にこの紙を選んだ。
この紙から受ける印象が、端月に似ていると思ったからだ。
端月は何度か撫で返した後、そっと中のページを開いた。
その後は、穏やかな時間が流れた。
その間、俺は離れるのが惜しくて、ただ静かに彼女の隣にいた。
大切な恋人が自分の隣に寄り添っていることで生まれる鼓動と親密さを感じながら。
確かに、彼女が伝えようとしているように、二人で寄り添っているだけで、とても温かい気持ちになった。
このラブレターは、高校へ進学した男子主人公が、同じクラスの女子に惹かれていく物語だった。
朝に二人で挨拶をしたり、課題を提出する時に目が合ったり、教室の外にある花壇の植物について一緒に話したり、一緒に体育の授業を受けたりしながら、そうして高校一年生の時間を過ごしていく。
二年生に進級した後、二人はクラス替えによって偶然同じクラスになる。
男子主人公はこの同級生の女子に自分の気持ちを伝え、二人は無事に恋人同士になる。
その過程で、二人は休日に出かけ、遊園地や動物園、水族館などへ行き、様々な思い出を積み重ねていく。
高校二年生の修学旅行では、男子主人公は家庭の経済的な事情によって皆と一緒に行くことができなかったが、それでも学校へ行って自習し、本を読みながら、密かに自分の恋人を想っていた。
その後、二人は一緒に受験勉強をするが、ある出来事が原因で喧嘩をしてしまい、それから紆余曲折を経て仲直りし、最後には二人とも無事に大学へ進学し、お互いが今も相手にとって大切な人である――そんな優しくて平凡な中編の物語だった。
最初にロアン兄と話し合った時、俺はもともと自分の遊び心から、またいろいろと複雑な設定を増やしてしまっていた。
その時、ロアン兄から「それじゃ文字数が多くなるし、そもそも期限内に書き終わらないよ」と突っ込まれたので、俺は方針を修正した。
その後、曜光に連絡して、端月と仲直りしたいから、いくつか意見を聞かせてほしいと伝えた。
その時になって初めて、学科内ではかなり大きな騒ぎになっていたらしい俺と端月の関係危機について、曜光はまったく知らないことに気づいた。
本人によれば「え? 俺、普段は授業が終わって、練習が終わったら家に帰ってるから、学科の他の人とは何の関わりもないよ」とのことで、ここまで本人らしいのも彼のスタイルなのだろう。
だが、俺たちが喧嘩した理由を聞き、俺が何をしたいのかを理解すると、彼は快く協力を引き受けてくれた。
それどころか、どうやって端月に物を渡せばいいのかという問題について、相手に相談までしてくれた。
助言によれば、どうやら思い出の詰まった場所がいいらしい。
そこで、最後に俺は場所を俺と端月の母校に決め、今回のデートにも具体的な計画ができた。
俺はここ数日の準備、友達との話し合い、それからこの物語を書いていた時の様々な考えを思い返していた……。
かなり長い時間が過ぎ、端月は最後のページをめくり、それからそっとラブレターを閉じた。
「ありがとう、逐幸。あなたの気持ちは受け取ったよ。こんなに長いラブレターをもらったのは初めてだから、大切にするね」
そう言われた瞬間、俺の胸は喜びで満たされ、まるで身体の中を温かな流れが駆け巡るようだった。
だが、俺はふと一つの問題に気づき、思わず口を開いた。
「初めてって言った……もしかして、前に誰かからもらったことがあるの?」
端月は俺の慌てた様子を見つめ、それから少し口元を上げて言った。
「二人か三人くらいだったかな。ただ、あの人たちとは何か共鳴するものを感じなかったから、お断りしたの。あれ……?」
その言葉に俺は焦り始め、まるで拗ねるように彼女の手を握り、それから力を強めた。
「……」
俺は何も言えず、沈黙によって抗議するような形になった。
俺の様子を見た端月は手の向きを少し変え、俺の手を指を絡めるように握って言った。
「私、あの人たちと付き合ったわけじゃないのに、どうして急に黙っちゃうの……ん――?」
まるで俺を宥めるように、そして狼狽する俺をからかうように。
俺がずっと口を開かなかったからなのか、端月は続けて言った。
「前にも話したよね。私たち二人は、この学校にいる間、残念ながら、あんなに貴重な時間を過ごすことができなかった。お互いに解決しなきゃいけない問題があって……自分自身の心と向き合う必要があった。
でも、この物語を読んだら、なんだか気持ちを整理できたような気がする。私たちが持っていたかもしれない時間は、ここにあるんだよね。この柔らかな表紙に包まれた紙の束の中に。
それに……これから何度でも取り出して読み返すことができる。もしうっかり忘れてしまっても、物語の中でもう一度体験できる。物語を書いてくれてありがとう。でも……これだけじゃ、まだ足りないんだよね?」
端月の言葉を聞いて、俺は少し怖くなった。
俺は彼女の許しを得られないのではないかと怖かった。
今、彼女が俺に手を触れさせてくれていることも、彼女自身を俺に寄り添わせてくれていることも、すべて今この瞬間だからこそしてくれていることなのではないかと怖かった。
しかし、俺がさらに彼女の考えを知ろうとした時、端月は笑顔を見せた。
「あなたはさっき、自分が世界一の創作者になりたいって言ったよね。そして、そんな創作者には、自分の恋人にも世界一の幸せを感じてもらいたいっていう目標もある。だから、中編の物語一つだけじゃ、まだまだ足りないんだよね? これからの日々の中で、私に世界一の幸せを感じさせてほしい。その場所にたどり着くまで、私はずっと、ずっとあなたのそばにいるよ。それで……いい?」
端月の頬は赤く染まり、言葉を言い終えると、思わず唇をわずかに結んだ。
その瞳には、甘えるような、そして肯定するような表情が浮かんでいた。
「うん、ありがとう……これからも俺と一緒にいてくれてありがとう。俺、頑張るよ……俺たちがもっと幸せになれるように」
それを聞いた端月は上半身を少し前へ傾けた。
その合図を理解した俺は、彼女の身体を抱きしめた。
彼女の身体はとても柔らかくて、すごく安心する感じがした。
そして、俺がかつてこの人を傷つけたことを思うと、自分は本当にいけなかったと思わずにはいられなかった。
だから俺は思わず彼女を抱く力を強め、端月も手を伸ばし、力いっぱい俺を抱きしめた。
俺たちはそのまま、しばらくの間そうしていた。
それから、端月はおずおずと「キス……しない?」と言った。
だが、彼女はその言葉を口にした時には、すでにゆっくりと目を閉じていた。
高鳴る鼓動と、恋人への慈しみを抱きながら、俺は手で彼女をそっと守った。
そして――ゆっくりと近づき、彼女の唇に触れた。
太陽が雲の間から顔を出したようだった。
だが、この温かくて陶酔するような時間の中で、太陽はまた何度か隠れていった。
それでも俺たちはただ気にすることなく、お互いの腕の中の温もりを感じていた。
何度も何度も、互いへの濃厚な想いを繰り返し伝え合った。
-第一巻 FIN-




