第六章 旭日(2)
庭雪先生の威嚇と、兼ねた柔らかな説得のもとで、三人の子どもたちはようやく列に並んで手を洗いに行った。俺は、ボードゲームの道具が散らばっているテーブルを眺めながら、伸びをした。
なんだか、こんなふうに人と一緒にゲームをするのは、ずいぶん久しぶりな気がする。
少し懐かしく感じた。
庭雪先生は子どもたちの様子を見に行き、しばらくすると、子どもたちが手を洗う音は聞こえなくなったが、最後には先生一人だけがリビングに戻ってきた。
「ん? あの子たちは?」
俺はテーブルの上の道具を少し整えながら、先生に尋ねた。
庭雪先生は「別の部屋で食べている」と教えてくれ、それから俺にも手を洗いに行くように言い、洗面所の方向まで教えてくれた。
洗面所から戻ってくると、先生はお菓子を俺に渡してくれたが、そのときには、さっきまで空だった俺のコップには新しいアイスティーが注がれていた。
俺は先生に礼を言い、それからどうして先生の夫に会わないのか尋ねると、先生は「おう、今日は残業するって言ってたから、会社にいるよ」と言い、ずっと戦々恐々としていた俺は、そのことについては少し安心した。
俺たちはいくつかの話題について雑談をしていたが、そのとき、庭雪先生が尋ねてきた。
「今、あなたの家はどう?」
その言葉に、俺は一瞬言葉を失った。
庭雪先生は高校時代から俺の家の事情を知っていたが、俺はすぐにはどう答えればいいのかわからなかった。
父はだいたい一年に一度か二度、家に帰ってくる。
そのたびに一週間ほど滞在し、家を少し修繕したり、何度か料理を作ったりしたあと、車で故郷へ戻っていく。
母については相変わらずで、弟のことは俺もあまりよくわからない。
普通の友人との会話なら、俺がある程度の間黙ってしまえば、恐らく次の言葉を補ってくれるだろう。
だが、庭雪先生は違う。
俺の心が整理できるまで待ってくれるし、なぜか、俺が答えると信じてくれている。
だから、ただ俺が口を開くのを待っていた。
「前に一度……」
俺はゆっくりと口を開いた。
少し答えづらいとは思ったが、それでも続けて言った。
「父さんが何日か家に帰ってきて、俺たちは少し話したんだ。元気にやっているように見えたよ」
高校時代、俺がこのことを先生に話したとき、先生は、時には子どもから父親に気持ちを伝えようとすることも一つの方法なのかもしれないと言ってくれた。
だから俺は、自分なりの方法で少しだけ頑張ってみた。
「母さんと弟については、まあ、もともととあまり変わらないかな。えっと……今の全体的な状況は、普通って言っていいと思う」
そうだ。
事態はこれ以上悪化していない。
父が故郷に戻ったあとに悪い習慣を身につけたり、性格が大きく変わったりしたわけでもないし、母は俺がアルバイトを始めたことで、もともと抱えていた不安が少し減った。
弟も、きっと自分のことはちゃんとやっているだろう。
それに、俺は端月とも恋人関係になった。
俺のせいで、今は二人の関係がぎくしゃくしているけれど、少し前まで二人で一緒に過ごした時間は、本当に幸せだった。
創作の面でも、俺はロアン兄の助けと自分自身の努力によって、少しは成長できたと確信している。
「そう……それならよかった」
庭雪先生は穏やかな笑顔を浮かべた。
先生の言葉にどんな意味が含まれていたのか、俺にはよくわからなかった。
それでも、俺はそこから一つの安心感を覚えた。
そして先生が俺と端月の進展について尋ねてきたとき、俺は答えた。
「俺たちは今……喧嘩している状態かな……俺自身のある部分の執着、不、頑固って言ったほうがいいのかな? 創作者としての部分が、物事についていろいろと面倒な考え方をしてしまって、彼女を傷つけるようなことまでしてしまって……それで今は、彼女とちゃんと向き合って、ちゃんと謝ることもできない。もしかしたら俺みたいな人間は……そもそも、人と安定した親密な関係を維持することなんてできないのかもしれない」
「じゃあ、彼女と付き合ったことを後悔しているの──?」
庭雪先生は、のんびりとした、それでいて大らかな口調で言った。
普通ならなかなか口に出して聞けないような質問も、先生にとってはどうやら朝飯前らしい。
いや……俺は、そういうことではないと思う。
先生はただ、俺自身が一番大切だと思っている問いを投げかけただけなのだ。
そして、俺が不快に思わないと信じている。
だからこそ、俺はその問いに答えることができた。
その質問によって、俺の頭の中には、付き合い始めた日から最近まで、二人で一緒に過ごしてきた時間が浮かんできた。
初めて手を繋いで大学のキャンパスを歩いたこと。
初めて電話で話したこと。
一緒に新入生歓迎合宿に行ったこと。
一緒に授業を受け、教壇に立って授業の実演をしたこと。
一緒にカフェへデートに行ったこと。
あるいは、学科の事務室で一緒に過ごした時間……。
ほかにもたくさんある。
まだたった三か月しか経っていないのに、これほど多くの大切な思い出が積み重なっていた。
だから、俺の口から思わず次の言葉がこぼれた。
「後悔してない。どうして後悔したなんて思うんだよ……? でも、でも……このまま続けていたら、俺は彼女をもっと悲しませてしまうだけだ」
俺は少し視線を落とし、強く口を閉じた。
今この瞬間も、彼女はまだ悩み続けているのかもしれない。
そう思うと、俺はとても苦しくなった。
そのとき、庭雪先生がゆっくりと口を開いた。
「逐幸、あなたは何をもって維持することだと思う? 二人が同じ状態をずっと保って、毎日楽しく過ごして、何の問題も起こらない日々を送ること、それが維持するということなの?」
その問いに、俺は思わず顔を上げた。
そして、端月の瞳よりもさらに深く、まるで海のような深い青色をした先生の瞳を見つめた。
「前に話していたときにも言ったよね。時々、私はあの三人の子どもたちにうるさくされて耐えられなくなって、家を飛び出したこともあるんだよ」
「それに、あの子たちがもっと小さかった頃は、いろいろな世話をしなければならない状況に、何度も向き合ってきた」
「だって、私も母親になるのは初めてだったから、学ばなければならないことがあまりにも多かったんだよ」
「三人目の子どもまで来たんだから、多少は慣れてきたと思っていても、実際にはそうじゃないんだよね」
「いつだって新しい問題が出てきて、私は不意を突かれてしまうんだ」
まるで静かな夜の街灯の下で、空から舞い落ち、青白い光を反射する雪を見上げているかのように、庭雪先生の瞳には深く、そして静かな輝きが宿っていた。
「二人の間にある深い関係について、『維持する』という言葉で語るのは、たぶん結果論から説明することに近いんだと思う」
「一緒に過ごしていく過程で、その大切な関係のために、大切な人のために、二人の間で起きた問題に勇気を持って向き合うこと」
「時には怒って、時には悩んで、時には笑って、時には拗ねて、時には大らかに許す」
「そうやって一日一日、何度も何度も突然現れる問題や挑戦を乗り越えようとして、二人ともこれからの日々を過ごし続けられるようにする」
「あなたたちは、二人で一緒に向き合えばきっとできると信じて、その未来を選んだからこそ、一緒にいることを選んだんじゃないの?」
俺……俺と端月は、最初、どうして一緒にいることを選んだんだろう……?
彼女が俺に告白してきて、俺はただ受け入れただけなのか?
──いや、そんなわけじゃない。
俺も彼女と一緒にいたいと思ったからだ。
二人ともそう思っていたからこそ、こんな決断をした。
最初、俺は「クリエイターは安定した恋愛関係を維持できない」ことを理由に断ろうとした。
けれど、俺がそう言ったとき、端月は「じゃあ、付き合って証明してください」と言った。
俺も、その方法で証明することに納得したからこそ、選択した。
その後、端月は俺にもっと近づきたいと思って、小説を書き始めた。
だけど俺は、それを読んだあと、彼女の才能に嫉妬してしまった……。
そして、考えすぎて自分を追い詰め、自分もそれに見合う成果を出して応えたいと思うようになった……。
俺は成長することで、自分の能力を証明したいと思っていた……。
でも、それは端月にとって、いったい何を証明することになるんだ?
あのとき、彼女は創作を理由にしていた俺と、創作を人生の目標としていた俺に、真剣に向き合ってくれた。
それなのに今の俺は、本当に彼女とちゃんと向き合えていると言えるのか?
それだけじゃない。
俺は本当に──自分の弱さと真正面から向き合っているのか?
改めて考えてみれば、いや、実は俺にはわかっていた。
ずっとわかっていたんだ。
今の俺にとって最大の弱さは──自分自身を信じられないことだ。
俺が積み重ねてきたすべてが、実はただの自己満足にすぎないのではないか。
そんな偽物が、いつか崩れ去ってしまう。
そのことが、俺を心の底から恐怖させている。
「逐幸、あなたは自分が思っている以上に、いい人だよ」
「うっかり何かを失敗してしまったり、相手とちょっと喧嘩したりしたとしても、私があなたを見てきた限り、そういうことのほとんどは、もう取り返しがつかないところまで行くことはないと思う」
「あなたはいつも他人のことを考えているし、ほとんどの場合、頭の回転も速いから、できる限り最悪の事態を避けようとするはずだよ」
「それに、もし本当に少し危機に陥ったとしても、あなたが選んだ人と一緒にいるのなら、二人ならきっとなんとかできるんじゃないかな」
「だって、こんなに頭のいいあなたが選んだ人なんだから、きっとその人も頭のいい人なんでしょう……うん──実際、端月は本当に賢い子だよ」
「それなら、二人がうっかり仲違いしてしまったとしても、彼女のところへ行って心から謝って、彼女に甘えてみれば、きっとすぐに許してくれるよ」
「それから、二人で一緒にどうすればいいか考えてみたらいいんじゃないかな」
──彼女はあなたのメインヒロインなんでしょう?
──だったら、主人公が困難に遭ったとき、メインヒロインに頼ってみるのもいいんじゃない?
庭雪先生はそう言い終えると、茶を一口飲んだ。
そして、もう一言付け加えた。
「ねえ、私、すごくいいこと言ったと思わない──?」
その言葉を聞いた俺は、思わず口元の力が抜けた。
目の縁は少し潤んでいた。
「うん、先生、ありがとう。俺……頑張ってみるよ」
そのとき、まるでキーワードを聞き取ったかのように、庭雪先生は突然、少し面白がっているような、それでいて真剣な表情を浮かべて言った。
「そうそう! 今のあなたが一番練習するべきなのは、人に甘える方法を覚えることだよ!」
「彼女みたいな女の子は、普通、甘えられるのに弱いんだから」
「よっぽど大げさなことじゃない限り、甘えることで解決できないことなんて、ほとんどないんだよ」
「家に帰ったら、自分でたくさん練習してみなさい」
えっ、そうなのか……?
俺は半信半疑だったが、先生からは確信に満ちた圧力のようなものが感じられた。
だから、俺は同意するように頷いた。
そして、ちょうどそのとき、三人の子どもたちはどうやらお菓子を食べ終えたらしく、順番にリビングへ戻ってきた。




