第六章 旭日(1)
「おお、やっと来たな。早く入ってこい」
「お邪魔します」
庭雪先生が教えてくれた位置情報を頼りに、俺は無事に先生の家までたどり着いた。
意外なことに、先生の家は俺の家から一番近い駅からたった二駅の距離にあった。
もっと都心寄りの場所に住んでいると思っていたのだが。
「あ、これはほんの気持ちです──」
俺は手土産のクッキーの箱を先生に渡した。
先生は「ありがとう」と言ってから、あっさりと受け取った。
少し不安で、そして新鮮な気持ちを抱えながら、俺は玄関を通ってリビングへ入った。
すると、三つの明るい大きな瞳が、好奇心に満ちた視線を俺へ向けてきた。
それは、よく似た二人の長髪の女の子と、一人の短髪の男の子だった。
先生の三人の子どもは、大きい娘が今中学一年生、二番目の娘が小学六年生、一番下の息子が小学五年生だったと記憶している。
それ以外については、俺は人の名前を覚えるのが苦手なので、当然ながら残念なことに彼らの名前を覚えていなかった。
そして先生も普段は「お姉ちゃん」、「妹」、「弟」と呼んでいることが多い。
では、俺はどう呼べばいいんだろう?
先に自己紹介をしたほうがいいのだろうか?
「──あなた、誰?」
アニメのキャラクターが描かれた白いTシャツとピンク色のショートパンツを着た女の子が俺に尋ねた。
俺が答えようとしたとき、彼女は何かを思い出したように、突然真剣な顔になって言った。
「あ、分かった」
彼女は一秒ほど間を置いてから、続けて言った。
「あなた、遊び相手として来た人でしょう?」
彼女はその質問を投げかけると同時に瞬きをした。
そして、自分の言ったことを恥ずかしく思ったように、ソファの上で笑いながら、背もたれを手でつかんで身体を前後に揺らした。
「……うん、そうだよ」
とりあえず俺は同意した。
だが、その先を話そうとしたところ、もう一人の背が高く、黄色い上着と黒いミニスカートを着た女の子が、白い服の女の子に向かって言った。
「ママ、さっき自分の友達が来るって言ってたじゃん? 絶対この人だよ」
黄色い服の女の子は俺を一度見てから、自分の妹へ振り返って言った。
話し相手を失った俺が視線を移すと、ちょうど残った男の子と目が合った。
俺たちが沈黙に陥ったところで、庭雪先生がリビングのドアを開け、「先に適当に座ってて」と一言言ってから、反対側へ歩いていった。
たぶん、キッチンかどこかへ行ったのだろう。
俺は三人の子どもたちからある程度距離のあるソファの席に座り、引きつった笑顔を浮かべた。
終わった、どうやって会話すればいいのか全然分からない……!
いや……旭 逐幸! お前は小学校教育課程を履修している教員志望の学生だぞ。
たった三人の子どもだけで頭を抱えていたら、これからどうやってやっていくんだ?
そうだ、しっかりしなければ!
五分後、先生が戻ってきた。
先生はお菓子とお茶を脇の小さなテーブルに置いた。
すると白い服の女の子が、テーブルの上のお菓子をとても気にしているように、母親のところへ歩いていった。
黄色い服の女の子も自分の部屋からリビングへ戻ってきて、手にはボードゲームの箱を持っていた。
「ママ、それでこのおじさんは何ていう名前なの?」
「え? 逐幸、あなたこの子たちに自己紹介してないの?」
庭雪先生はそう言ってから、娘に「これはママが教えたことのある生徒よ」と答えた。
それを聞いた黄色い服の女の子は言った。
「へえ──じゃあ、悪いことをしたからママに呼び出されて説教されるんだ? じゃあ、怒られ終わったら一緒に遊ぼうよ」
そこで俺は簡単に自己紹介をし、自分は悪いことをしたわけではないので、先生に怒られるわけではないと説明した。
「なーんだ。このおじさん、クラスの女の子を泣かせそうな顔をしてると思ったのに」
「えっ……!」
ソファに座っていた俺は、まるで思い切り突き刺されたように感じ、甚大なダメージを受けた。
(最近泣かせた女の子の人数:二人。)
それに……おじさん?
俺はもう、おじさんと呼ばれる年齢なのか?
俺の記憶では、少し前まではまだお兄さんと呼ばれていたはずだ。
「はいはい、あなたたち、もう遊び始めていいわよ。疲れたらお菓子を食べに来てね」
先生は気楽な様子で足を伸ばし、二人掛けのソファに座った。
そして、彼女のイメージを守るために、俺はこれ以上の描写を続けないことにした。
慣れていない子どもたちを相手にしていることで、俺は思わず先生に慰めを求めるように言った。
「先生、俺はもうおじさんと呼ばれる年齢なんですか……?」
それに対して、ティーカップを持っていた庭雪先生は微笑みを浮かべ、それから逆に俺へ尋ねた。
「じゃあ、あなたは私のことを何て呼ぶべきだと思う──?」
そこで俺は、普段なら絶対に避ける地雷を踏んでしまったことに気づいた。
頭を素早く働かせた後、慎重に答えた。
「俺は、優しくて思いやりのある美人先生だと思います」
俺がそう言うと、三人の子どもたちは皆、冷たい目で俺を見た。
肝心の庭雪先生は、もう一度お茶をすすってから、再び元気な口調で言った。
「おお──! さすが恋人ができた人ね! あ、そうだ。あなたたち三人、彼に自分のことを紹介した? うん、この黄色い服を着ているのがお姉ちゃん、白い服を着ているのが妹、それから彼が弟ね」
その後、先生はそれぞれの名前も教えてくれた。
だが、俺という人間の障害のせいで、ボードゲームの道具を整理しているとき、黄色い服を着たお姉ちゃんに尋ねた。
「えっと、便宜上、あなたのことをお嬢様って呼んでもいい?」
「いいよ。何でもいいよ」
「お姉ちゃん、お嬢様って何?」妹が姉へ顔を向けた。
「お嬢様っていうのは、お姫様って意味だよ」
俺が先に補足した。
「じゃあ、私は?」妹が俺を見る。
そこで俺は彼女に尋ねた。
「じゃあ、二番目のお嬢様になってみる?」
「うん……いいよ!」
妹、いや、二番目のお嬢様は笑顔を浮かべ、うなずいた。
「おじさん、じゃあ僕は?」弟は玩具のお札を流れるような動作で数えながら尋ねた。
「じゃあ、君は坊ちゃんって呼ぼうか。どう?」
若様という選択肢もある。
だが、最近俺が見ていたアニメでは坊ちゃんと訳されていたので、子どもにとっては坊ちゃんのほうが分かりやすいのかもしれない。
「おお」
坊ちゃんは声を出し、どうやら同意したようだった。
この子は少し恥ずかしがり屋に感じられ、俺は思わず子どもの頃の自分を思い出した。
俺たちが遊んでいるボードゲームは人生ゲームだった。
サイコロを振って進み、チャンスカードや運命カードを使ってイベントを進めたり、土地や家を購入したりして、最後に誰がより多くの資産とカードを点数に換算して勝つかを競う。
「えー! おじさん、もう彼女がいるのに私と結婚するの? ロリコンなの──!」
「俺は物語を書くクリエイターであって、ロリコンなんかじゃない! それに、そのときには君はもう大人になってるだろ!」
「でも、もう彼女がいるじゃん、浮気者!」
「俺はまず彼女と結婚して、君が俺と結婚するかどうかはその後で決めよう」
「あ、今は彼女がここにいないから、彼女はあなたと結婚してない──!」
「お姉ちゃん、でも今このカードのせいで、おじさんと離婚することになったよ」
「おお! じゃあ、おじさんは私に慰謝料を払って」
「いや、お嬢様、よく見て。俺たちが離婚することになったのは君のせいだから、逆に俺にお金を払ってもらうんだよ」
「あ、私がおじさんと結婚することになった……」
二番目のお嬢様は結婚カードをめくり、恥ずかしそうな表情を浮かべた。
俺は危うくロリコンになってしまうところだった。
「じゃあ、仲良くしような」
俺は二番目のお嬢様に少し頭を下げた。
「うん」
二番目のお嬢様はわざと俺を見ないようにして、盤面へ視線を向けた。
「じゃあ、次は僕の番だね」
坊ちゃんはまずルーレットを回した。
このマスに止まったことで、彼は名を上げて金持ちになるチャンスを得た。
サイコロの出目に応じて、得られる金額の多さを計算する必要がある。
サイコロの結果は、得られる金額の最大値だった。
どうやら彼はかなり運がいいらしい。
「はい」
銀行員を務め、金を配る役を担当しているお嬢様が、対応するお札を坊ちゃんに渡した。
その後、さらに何周かすると、坊ちゃんとお嬢様が結婚した。
めでたし、めでたし。
「あれ? 僕、どうしてお姉ちゃんと結婚するの……」
「私だってあなたと結婚したくないよ」
二人が少し不満そうにしているのを聞き、俺は先ほど手に入れた玩具のお札を置き、二人に向かって言った。
「ごめん。俺と一緒にいたあの時間が、君にこんなに大きな打撃を与えて、その後、自分の幸せを追い求められなくなるなんて思わなかった。坊ちゃん、すべて俺のせいだ。彼女をちゃんと大切にしてくれないか? 俺たちはもう離婚したけど、俺にとって彼女は大切な人でもあるんだ」
「おお──分かったよ……!」
「え、おじさん、さっき私と別れたときは一言も言わなかったのに、なんで今になってそんなこと言うの! ひどすぎる!」
「今になって思い出したんだよ! それに、今となっては俺には新しい大切な妻がいるから、ちゃんと大切にしなきゃいけないんだ」
「「「おじさん、もう彼女がいるんじゃなかったの──!」」」
俺は少しうつむき、声を落として言った。
「うっかりモテすぎてしまったんだから、仕方ないだろ」
「そんなこと言うの! 悪者! 悪者!」
お嬢様は俺の肩を叩いた。
「おじさん、その彼女ってどんな人? すごく綺麗なの?」
二番目のお嬢様は少し俺に近づき、好奇心に満ちた目で俺に尋ねた。
「ロリコンおじさん、お前は重婚罪を犯したんだ。早く罪を認めろ」
俺は両手を広げ、恐れるものなど何もないという様子を見せた。
すると、残った二人の子どもも俺を叩く仲間に加わった。
「もう、なんでそんなに嘘ばっかり上手なの!」
「俺は物語を作るのが一番得意なクリエイターだからな。お前たち、見てろよ。俺は世界一になる」
「この人ってば──!」
俺たちが一緒になって騒いでいると、庭雪先生があくびをし、スマートフォンを置いて顔を上げた。
「はいはい、あなたたち、そろそろ休憩していいわよ。先に手を洗って、お菓子を食べる準備をしてね」




