第一章 繋がり(2)
そういうことなら、俺は彼女に返事をしなければならない。
俺には、いくつかの物語に登場する一部の男性キャラクターのように、「ごめん、少しだけ時間をもらってもいいかな。そのうち必ず返事をするから」などと言うことはできない。いつになるかも分からないまま待つのであれば、俺にできることは、もっと大きな勇気を振り絞って、より難易度の高い挑戦に向き合うことしか思いつかなかった。
そして最後に、様々な状況を考えた末、俺はついに決心した。そこで俺は彼女のほうへ振り向き、ゆっくりと口を開いた。
「実は俺の家の事情は少し複雑で、人と付き合ったら相手にいろいろと迷惑をかけることになる。これが理由の一つで、もう一つの理由は、その、実は俺、小説を創作していて、高校の頃からすごいクリエイターになることを目指してきたんだ。
それで、クリエイターっていうのは自分勝手な生き物で、人と長く関係を続けることができず、絶対に創作のほうを最優先にして、周りの人を傷つけてしまう。だから、本当にごめん。俺は君と付き合うことができない」
俺が説明している間、端月はずっと俺の目をじっと見つめていた。しばらくして、彼女は答えた。
「家庭の問題については、私はまったく気にしないよ。実際の事情は分からないけど、それで困るとは思わない。ううん、今は何も分からなかったとしても、何も知らないまま諦めたくない、というべきかな」
端月は数秒間言葉を止め、それから続けた。
「それから、二つ目について。私はずっと、逐幸は小説とかを創作するんじゃないかなって思ってたから、そのことについては驚いてない。ただ、クリエイターが周りの人を傷つけるっていうけど、世界中のクリエイターに好きな人が一人もいなくて、人と親密な関係を築けないなんて、私は思わない。
あなたの答えは、私の気持ちに正面から答えてない。だったら、もう一度聞くね。今の私が確かめたいのは一つだけ。私があなたのことを好きだと言った。じゃあ、あなたは私のことが好き?」
その熱烈な告白に心を動かされた俺は、思わず拳を握った。
「俺は君が好きだ。どうしようもないくらい好きだ。でも……好きっていう気持ちだけじゃ、安定した関係を維持することはできない」
父さんと母さんだって、最初は好きだったから結婚したんだろう。だけど最後には、一人は勝手に出ていき、もう一人は壊れた家庭の欠片をどうにか守りながら、世の中を恨んでいた。
俺はもう決めている。この一生を創作のために生きる。自分が認められる小説を創作することが俺の目標であり、人生の意味だ。そうすれば、誰にも迷惑をかけず、誰かを傷つけることもない。
だから、たとえ好きな相手から告白されたとしても、俺は心を鬼にして断らなければならない。そうしてこそ、彼女を俺の家の渦中に巻き込まずに済む。
「クリエイターは安定した恋愛関係を維持できないと思うのなら、付き合って証明してください。実際に付き合ってみて初めて、実際の状況がどうなのか分かるはずだから」
しかし、端月は突然そんな宣言をした。その言葉を聞いて、俺は思わず呆然とした。
「本気なのか……? それに、そんなことをするのは君に申し訳なさすぎる。君の貴重な時間を、こんなことに使う必要はない」
そう言うと、端月は身体をこちらへ寄せてきた。目尻を吊り上げ、凛とした表情を浮かべる。
「あなたがこれを『こんなこと』って呼んだことには不満だけど、私は受け入れるつもりだし、まったく申し訳ないなんて思わない。これで何の問題もないでしょう?」
「……」
俺は端月を見つめ、彼女が心からこの言葉を口にしていることを感じ取った。どうして誰かが俺のために、ここまでしてくれるのだろう? 俺なんかが、こんなにいい女の子からここまで大切にされる価値なんてない。
理性ではそう思っているのに、胸の中には勝手に熱いものが込み上げてきて、まるで次の瞬間にはこの感情が目から溢れ出しそうだった。
「分かった。これで端月が受け入れてくれるなら──」俺は口を開いた後、すぐに自分の間違いに気づき、首を横に振った。「違う、そう言うべきじゃない。もう一度、俺にチャンスをくれ」
俺はまず立ち上がり、彼女の前にしゃがみ込んだ。そして椅子に座っている端月を見つめ、彼女の澄んだ瞳に向かって言った。
「高校の頃から、俺はずっと君のことが好きだった。クラスのために真剣に仕事をする姿も、時々見せる笑顔も、それから問題集をやっている時に手で髪を耳にかける仕草も、その、今までで俺が一番好きな女の子は君だって言える。これから先、誰かがこの気持ちを超えることはないと思う。だから──俺と恋人になってください!」
端月はまず驚いたような表情を浮かべ、その後、春の訪れを思わせる温かな笑顔を見せた。
「うん。これからもよろしくね」
端月は身体を少し前へ傾け、俺の肩に手を置きながらしゃがみ込んだ。俺が反応する暇もないうちに、腕で俺を抱きしめた。
「ありがとう」
俺がそう言い終えると、俺もぎこちなく彼女を抱きしめた。
「これは、何に対してのお礼なの?」
端月が吐き出した温かな息が、俺の頬をくすぐる。
「俺にも分からない。流れでつい──いや、よく考えたらあれだ。俺の気持ちに答えてくれてありがとう。本当に嬉しい。嬉しすぎてどうしていいか分からない」
「その気持ち、今の俺にも少し分かる気がする。だって、さっき予想以上の告白を受けて、俺も胸がいっぱいになったから」
「それならよかった」
「うん」
会話が終わった後も、俺たちはしばらく互いを抱きしめ続け、かなり経ってから離れた。
こうして、俺と繋端月の二人は恋人になった。
このままそれぞれ家へ帰るのは少し惜しいので、俺たちはキャンパスを散歩することにした。日和としては、キャンパスの面積は国内の大学の中でもそれほど大きくないとはいえ、しばらく歩くには十分な広さがある。
俺たちは手を繋ぎ、芸術学科の校舎から石段の遊歩道に沿って裏門の方向へ進んだ。キャンパスの外周に沿った通路を通れば、ゆっくりと大学全体を一周できる。
とはいえ、今の俺には風景がただ視界に入ってくるだけで、意識は完全に繋いだ手へ集中していた。
これが女の子の手なのか……? 温かく柔らかな感触が伝わってくる。精巧な透明ガラスを捧げ持っているようで、少し力を入れすぎるだけで相手に痛みを与えてしまいそうな気がする。
歩いていると裏門のゲートが見えてきたので、俺たちは左手へ進み、校門の外へは出なかった。
両側にはいくつかの駐車スペースがあり、粗いアスファルトの路面がしっかりとした感覚を与えてくれる。背の高いヤシの木が塀の端から頭を出し、まるで空へ向かってそびえ立っているようだった。
九月の気温にはまだ夏の余熱が残っており、俺は思わず自分の手に汗をかいていないか心配になった。
ああ、そういえば、一つ彼女に聞き忘れていたことがあった。少し考えた後、俺はゆっくりと口を開いた。
「その、端月はどうして俺のことが好きなんだ?」
「ん?」隣にいた端月が振り向き、俺の言葉に耳を傾ける。
「さっきの会話で、君が俺を好きだと言った理由については話してなかった気がする。それとも俺がどこか聞き漏らしたのか?」
「……え……?」端月は短い声を漏らすと、視線を前へ戻し、突然沈黙した。
しばらくすると、かすかな声が聞こえてきた。
「私、さっき話してなかった……? うん。どうやらそうみたい……」
まるで自分を励ますように、端月はそう言い終えると気を取り直したようで、俺のほうを向いた。
「さっき、逐幸が私が困っていた時に文房具を貸してくれたって話したよね? それ以外にも、うん、これはね……人のことに対してすごく一生懸命なところ。
三年間、歴史の授業の補助役を務めて、先生から信頼されていたこととか、それから苦手な科目、数学や英語とかに向き合う時も、テストで悪い点を取って落ち込んでいても、次はちゃんと頑張るし、諦めなかったよね。
それから授業中も真面目だった。いつも授業をしている先生の目を見て、先生に反応したり支えたりしていた。なんだか、壇上で授業をしている先生が少し羨ましくなったくらいだよ」
駐車場を回り、科学教育学科の校舎を通り過ぎた後、俺たちは正門の方向へ進んだ。
とても古そうな時計塔が俺たちの目の前に現れ、俺は思わず、いつかどこかの瞬間にゴーン、ゴーンと音を響かせるのではないかと想像した。
「なんだか、君が言ってくれたことを聞いてると、恥ずかしくなってくる」
俺の反応を見て、端月は小さく笑い、それから悪戯をする子供のように続けた。
「それからね、体育の授業でも教室に隠れてスマホをいじったりせずに授業に参加してたし、それにね、進学とは関係のない美術の授業でも、目を大きく見開いて鏡を見ながら自画像を描いてた。
あ、でも高校一年の時、一度だけ誰かから小説を借りて、授業中にこっそり読んでたことがあったよね。それでその場で先生に見つかった。でも、たぶんあの一回だけだったよね。それからはちゃんと反省した。ほんとにいい子だね」
怖い。俺は端月の恐ろしいところを発見してしまった気がする。だが、それ以上に、ようやく冷めたと思っていた頬が再び急速に熱くなり始めている。
「どうして君がそんなことを知ってるんだ……」
図書館で本を借りると、時々シリーズ作品の続巻が見つからないことがある。だが、俺は物語の内容があまりにも気になったので、本を買っている同級生に頼んで本を貸してもらった。
しかし、このことが原因で、それ以来授業中に堂々と小説を見ることができなくなった。卒業時には美術科目の総平均まで学年トップになっていた……
俺の芸術創作能力がそこまで高かったわけでもないのに。これがあれだ。授業に真面目に取り組み、課題を提出していれば、教師はそういう生徒に特に親切になる。
俺たちは左へ曲がり、渡り廊下の方向へ進んだ。両側の壁には、ちょうどいくつかの美術展示品も掛けられていた。
端月は展示されている絵を気ままに眺めながら、手をわずかに揺らした。そのことで、彼女の浮き立つ気持ちが伝わってくる。
「高校の時、君は楽しかったか?」
俺は思わず、少し奇妙な質問を口にした。これには、彼女には幸せでいてほしいという俺の願いも含まれているのかもしれない。
端月は静かに前へ進み、俺たちは教育学科のある建物へやって来た。両側にある螺旋階段を上っていけば、語学系や教育系など、人文系の学科の教室や学科事務室へたどり着く。
その時、俺は二人が繋いでいる手へ視線を向けた──端月はゆっくりと握る力を強めた。
「分からない。あの頃がいったいどんなものだったのかは……でも、これからは充実した大学生活を過ごして、たくさんたくさん思い出と楽しいことを作っていきたい」
「うん、俺が一緒にいる。俺たちでいろんな思い出を作っていこう」
俺は答えるように、彼女の手を強く握った。そして心の中で、目の前にいるこの人を絶対に大切にしようと自分に言い聞かせた。
俺たちはグラウンドを一周し、さらに指令台へ上って、隣にそびえ立つ高い旗竿を見上げた。最後に体育館を通って正門へ戻った。
その後、俺たちは駅で別れ、自分の手のひらを見つめると、俺はまるで先ほど握っていたあの温度をまだ感じられるような気がして、ようやくこれが夢ではないのだと理解した。




