第四章 試練(6)
この階を見終えたあと、俺たちは少し休める場所を探すことにした。
現在の時間は夜の八時半頃で、俺たちはチェーンのカフェにやって来て、窓際の席に座った。窓の外の空は真っ黒な夜の帳に覆われているが、近くの高層ビルの各階には室内の明かりが灯り、高層ビルの頂上では機械設備が発する赤い光が明滅している。
「お邪魔いたします、こちらがお二人がご注文されたお飲み物と軽食です。お会計の際は、この明細をカウンターのスタッフにお渡しいただくだけで、お会計を早く済ませることができます。ありがとうございます。」
店員は手のひらほどの大きさで、明細を挟んだバインダーをそっとテーブルの上に置き、俺と端月はそれぞれ彼女に礼を言った。後者は慣れた様子で一礼すると、サービスエリアへ戻っていった。
俺と端月はそれぞれ飲み物を一杯とケーキを一つ注文した。二人の飲み物はどちらもアイスティーだ。ケーキについては、俺がレモンケーキで、端月はチーズケーキだった。二人とも展示ケースの中をしばらく見て迷った末、そう決めた。
傍らの窓には照明を通して向かいにいる端月の姿が映り、視線を自分の隣へ向けると、そこには俺の姿も映っている。
真っ白な磁器の皿によって、ケーキはいっそう美味しそうに見えた。俺は先に飲み物を一口飲むと、甘さもちょうどよく、茶葉特有の風味に満ちていた。
紅茶が好きな母親の影響を受け、俺は紅茶の味について少しずつ分かるようになっていた。少なくとも、どの味が比較的低コストで作られたものなのか、どれがより高級な原料を使っているのかくらいは区別できるようになった。もちろん、プロのティーソムリエや、飲料店へ頻繁に足を運んでさまざまな種類の商品を試すヘビーな愛好家には及ばない。
「そういえば、さっき少し分けてあげるって言ったよね。」
俺はまだ使っていないフォークの向きを変えて端月へ差し出した。彼女は顔を上げ、一筋の笑みを浮かべると、手のひらを軽く左右へ何度か振った。
ん? これは急に食べたくなくなったという意味なのか?
俺が困惑していると、彼女はゆっくりと口を開き、続けて両目で俺に期待と遊び心の入り混じった視線を向けてきた。
マジで……?
さまざまなラブコメを読み込んできた俺は、考えるまでもなく、それが何を意味しているのか直感的に理解できた。
時々お互いにストローを共有することはあるが、確かにこういうことはしたことがない……
俺は中指でフォークを押して、食べ物を取る部分を手前へ戻し、それでレモンケーキを小さく一切れ切り取り、愛しい恋人の口元へケーキを近づけた。
こうして、小さなレモンケーキはその小さな口にゆっくりと包み込まれ、桜色の唇が花びらのように優雅に揺れ動いた。
こんなことが失礼なのは分かっていたが、俺は引き寄せられたかのように、ぼんやりとそんな光景を見つめていた。
そして先ほどからずっと、心臓が胸の中で激しく騒ぎ立てている。
少し時間が経つと、磁器がわずかにぶつかったような音が聞こえてきた。
「うん、美味しい。私のも少しあなたに分けてあげるね。」
「え、あ、うん……」
どう答えればいいのか分からず、ひどく慌ててしまった。端月も自分のフォークで俺のために小さく一切れ切り、それを俺の目の前へ運んできた。
ああ──あ……
彼女は先ほどケーキを味わったばかりの口をそっと開き、何も言わずに「はい」という口の形を作った。
これはどういうことだ……? いくらなんでも色っぽすぎないか?
俺は理性が切れそうな気がして、いっそ何も考えずにそのまま口を開いた。
続いて、フォークはまるで俺の身体の奥深くへ入っていこうとするかのように前へ伸び、ケーキを残してからゆっくりと引き抜かれた。
このとき、俺は以前に同じ種類のケーキを食べたときがどんな味だったのかを思わず忘れてしまい、それどころかフォークそのものの金属素材の硬さと、それがもたらす冷たさのほうが強く感じられた。
少しだけ咀嚼して、ようやくチーズケーキのちょうどいい濃厚な風味を感じた。
「どう……美味しい?」
端月は俺の表情を観察しながら、穏やかで控えめな口調で尋ねた。
「……美味しい。」
一時的に他の答えが思いつかず、今感じている味を具体的に説明することもできなかった。
「君は? 美味しいと思った?」
「さっきもう感想を言ったよね?」
「あ、そう……俺、忘れてた……」
俺が反応すると、端月はそれが面白かったらしく、まるで花が咲くように笑顔を浮かべた。
彼女はフォークを置き、アイスティーの入ったグラスを持ち上げ、ストローで一口すすった。
その間も俺を見続けていたため、俺は気になった。
「どうしてずっと俺を見てるの?」
「ん? だって、あなたは私の向かいに座ってるから。」
紅茶をゆっくり飲み込んだ端月が答えた。だが、俺が言いたかったのはそういうことではない。まあ、いいか……
このとき俺の頭に浮かんだのは、少し前に端月が話していた話題だった。
彼女が母親について話していたことは、一見するとすでに気持ちを整理したかのように話せても、絶対にそんな簡単に気持ちを切り替えられるものではない。
俺は彼女に少しでも元気を取り戻してもらいたくて、もっと気楽な内容について話し始めた。
そのとき、最近ちょうど一冊の本を読んだことを思い出し、彼女に話した。
「前に君が将棋に興味があるって言ってたから、俺もその題材の小説を探して読んでみたんだ。そしたらさ、読んですぐ夢中になっちゃってさ。もともとこのシリーズは昔少しだけ読んでたんだけど、そのあと続きの巻も買って、今出ている最新巻まで追いついたんだ。この数日でアニメで放送されたところももう一度見返したんだけど、いくつかの場面を読んでたら、思わず一緒に泣いちゃって……」
「本当? あなた、これに興味があるの?」
「うんうん。物語の内容を理解するために、本の中で説明されているルールや駒の動かし方だけじゃなくて、他の資料も調べたんだ。だから、物語の中で語られている戦法や駒を動かす戦略も、よりよく分かるようになった。」
俺はスマートフォンを取り出し、一つのアプリを開いて端月に見せた。
「自分の実力を試すために、このソフトを使ってコンピューターと対局してみたんだ。少しだけ何局か勝てたよ。ちょっとだけレベルも上がった。」
「あっ、そのソフト私もやってる。私たちが高校生のときに一番最初のバージョンがリリースされて、そのときにダウンロードしたの。最初は駒の動きの演出があまり滑らかじゃなかったけど、今ではアップデートされてすごく滑らかになったし、いろいろな盤のスタイルも自分で設定できるようになった。最近では一人用ゲームから二人で対戦できるようにもなったんだよ。ちょうどあなたもルールを覚えたんだし、今からやってみない?」
端月は新しい玩具を手に入れた子供のように、顔に一筋の輝きを浮かべた。心の底から湧き上がる喜びを表している。
俺たちはそれぞれスマートフォンを操作し、友達対局の対局室番号を入力すると、画面にはすぐに盤面の初期配置が映し出された。
コンピューターによるランダムな結果に従い、俺が先手を持ち、角道を開ける一手を指した。
続いて俺たちは互いに駒を交換し、対局も進んでいった。
「うん……ここに指すんだ。じゃあ、遠慮なくいかせてもらうね──」
端月は指を顎に当てて唸り、続けていたずらっぽい笑みを浮かべた。
俺は指したあとになって、自分のその一手が何の意味もなく大駒をただ取りにされることに気づき、思わず小さく「しまった」と声を上げた。
その後、俺は何度も必死に挽回しようとしたが、最後には経験の差に敗れた。
「どうする? もう一局やる?」
端月は穏やかな口調で尋ね、それによって俺の闘志に火がついた。
大きな目標へ向かって進む創作者として、途中で何度失敗しても落ち込まず、それらを成長の糧と経験へ変えていく。俺はずっと──そうやってきた。
今では、そんな闘争本能と、厚かましいとも言える粘り強い精神力が、俺の一部になっている。
もちろん俺は新たな挑戦を受けることにした。
「うん、もう一度チャンスをくれ。今度こそ地獄の三段リーグを突破して、プロ棋士になる。」
「分かった。それじゃあ、もう一度あなたを打ち倒して、最後には賞金を抱えて泣きながら引退するしかないようにしてあげるね。私を恨まないでね。だって、私の目標もプロ棋士になることだから、あの名人との対決を実現するの。」
俺たちは物語を紡ぎながら、そして自分の手元にある駒を真剣に操作しながら、決められた飲食時間が終わるまで過ごした。
俺たちは連れ立って百貨店を出て、口では先ほど指した対局について話し続けていた。
もしこのとき彼女が浮かべている笑顔が、少しでも憂いを取り去ってくれるのなら、俺が全力を出した挙げ句……それでも無様に完膚なきまでに負けたことも、無駄ではない。
くそ……次は、絶対に勝ってやる……! 少なくとも、こっそり練習して一局くらいは勝てるようになってやる!
明日はちょうど予定が空いていたので、俺は端月に明日デートしないかと尋ねた。
彼女はすぐに承諾してくれると思っていたが、端月はしばらく迷ったあと、首を横に振って言った。
「明日はね、家で集中して試験勉強をする準備をもうしてるの。次の機会を楽しみにしてもいい?」
端月は目を上げ、とても名残惜しそうな声で言った。
俺も、確かに試験の内容をしっかり復習するべきだと思った。何しろ数時間前に俺自身が真面目に準備すると大口を叩いたばかりなのに、今の復習の進み具合は確かに微妙だった。
「じゃ、じゃあ……日曜日は? バイトが終わったあと、君の家の近くまで会いに行ってもいい? えっと……月曜の朝まで我慢できそうにないんだ……ダメかな?」
どうしてなのか分からないが、この言葉は切実に俺の口から飛び出した。俺ってこんな人間だったのか? ただ彼女に会いたい……丸二日も会えないなんて、俺にはつらく感じられた。
それを聞いた端月は少し目を見開き、二秒ほど呆然としたあと、ようやく口を開いた。
「それじゃ、あなた、疲れすぎない? ちゃんと休めなく……なるんじゃない?」
青藍色の瞳が悩ましさと名残惜しさを浮かべながら、それでも彼女はそう言った。
俺は考えた。バイトが終わったあと、まず家に帰って風呂に入り、着替えてから彼女に会いに出かける。身体は少し疲れるだろうが、それでも……
「君に会いたい。どうしても君に会いたいんだ……いいだろ──? なあ──頼むよ……」
俺はまるで駄々をこねているような気がした。俺は子供なのか?
だが、俺の心の中には確かに純粋な衝動があり、それによって俺は必死にこんなことをしていた。
俺の様子を見た端月の唇が、わずかに何度か揺れたように見えた。しばらくもどかしい沈黙が続いたあと、彼女はゆっくりと言った。
「じゃあ……」
端月は切り出し、それから小さな声で言った。
「……じゃあ、あなた、講義資料とノートを持ってきて……分からないところは、一緒に話し合えるから。どう……かな……?」
彼女は言い終わったあと少し顔をそむけたが、それでも俺には、平静を装っているその下にある恥ずかしそうな表情が分かった。
なぜなら──
「あっ!」
この短い声とともに、俺は手を繋いでいた恋人を両腕でそのまま抱きしめた。潤んだ視線も正面から俺を見つめていた。
ここは駅からすでに少し離れており、時間も遅い。数分の間に通行人がこの道を通ることはないだろうと、俺は密かに祈った。
そして、抱きしめるだけではなく、俺は思わず無意識に彼女の身体を上へ持ち上げ、二人が大体平行になるように視線を交わした。
互いの息遣いを感じられる距離で、端月は唇をすぼめ、それから言った。
「……私たち、勉強しに行くんだよ……? 遊ぶことばかり考えちゃ、ダメだからね……?」
彼女の言葉によって、俺の胸には熱い流れが生まれ、今にも溢れ出しそうになった。
「分かってる……うん、分かってる……!」
「本当に困った人……本当に大人しくしていられるの?」
「大人しくする。」
その言葉を聞いた端月は、わざと不満そうな表情を浮かべて続けた。
「もう、約束したんだよ……? だから、あなたも少しくらい何かしてくれても……いいんじゃない……?」
彼女がゆっくりと伏せ始めたまぶたを見て、俺は直感的にその意味を理解した。
だから、俺はそのまま──
自分の唇で、恋人が熱い吐息を漏らす柔らかな場所を塞ぎ、今この瞬間の想いを彼女へ伝えた。




