第四章 試練(3)
その後、俺たちはしばらく雑談をしていた。端月の機嫌も少しずつ良くなったようで、俺が話していると、いつも柔らかく、愛情のこもった眼差しを向けてくるので、俺の胸の中が少しくすぐったく感じられた。
そして、客が少し増えてくると、俺は再び仕事に戻った。新しい注文をさばき終えると、俺は別の場所へ行き、かつ姉に声をかけた。
「かつ姉、あの、二人の友達に少し特別なおもてなしをしたいんですけど、お金なら俺の給料から引いてもらって構わないので、持ち帰って食べてもらえるものって何かありますか?」
料理を作り終えたかつ姉は手を洗ってから、俺に微笑みを向けて言った。
「ん? 二人の友達? あなたの言い方だとあまりにも曖昧で、ちょっとよく分からないんだけど? もう一度言ってもらってもいい?」
えっ……俺は瞬時にかつ姉の意味を理解し、それから付け加えた。
「お、俺の恋人と、尊敬している先輩をもてなしたいんですけど、かつ姉、何とか考えてもらえませんか? お願いします、かつ姉」
それを聞くと、かつ姉は真剣な表情を浮かべ、俺に言った。
「それはね……ちょっと難しいかな」
俺が驚き、口を開こうとしたところ、かつ姉は目で俺を制し、そのまま続けた。
「今日、私の店のこんなに優秀な従業員の、一番大切で大事にしている人たちが店に来てくれたんだよ? それなのに、自分のお金を出してもてなさせるなんて、私がそんなことを許すと思う? 全部私に任せて。二人とも甘いものは嫌いじゃないよね?」
「えっ? いいんですか……?」
かつ姉の言い方から、まだ俺をからかっているようにも感じたが、その提案には恐縮してしまった。
「うちの店は賞罰を明確にする方針だからね。お客さんたちからこんなにも褒められている従業員には、当然ちょっとしたご褒美をあげないとね。これはもう決定事項だから」
かつ姉の言葉を聞くと、俺の胸の中に温かな熱が同時に込み上げ、思わず言った。
「ありがとう、かつ姉……二人とも甘いものが大好きなので、それならたぶん問題ないと思います」
「分かった。ちょうど今朝、おいしいケーキが入ってきたから、いくつか持って帰ってもらって味わってもらおう」
「今から準備してくるから、あなたは先に自分の持ち場に戻ってね──」
そう笑いながら言い終えると、かつ姉はそのまま冷蔵室へ入っていった。
俺は思わず拳を握り、それから頬を軽く叩き、気を取り直してから自分の担当するレジへ戻った。
そしてしばらくして、帰る準備をしていると、端月が俺のところへ来て声をかけ、先輩は彼女の半歩後ろで立ち止まった。
「私たちは先に帰るね。今日は何も言わずに来ちゃって、あなたを慌てさせてしまって本当にごめんなさい。でも、逐幸が働いているところを見られて、とても嬉しかった」
柔らかな黒髪と前髪が店内の照明の下で煌めいて見え、その瞳から名残惜しさと喜びが伝わってきて、俺は思わず心臓を速く鼓動させた。
「俺もだよ。もっと君と話したいけど、多少は仕事のことも考えないといけないから。あ……! これは店長が君たちにって。最初は俺から君たちをもてなしたいって提案したんだけど、店長が自分に任せてって言ってくれて、最後はお言葉に甘えることにしたんだ。どうやらケーキみたいだから、二人で持って帰って食べて。食べきれないなら、先に冷蔵庫に入れておいて」
俺は店名が印刷された白いビニール袋を二つ、端月に差し出した。端月はまず瞬きをし、それから「それなら、私たちもいただくね。ありがとう。それと、店長さんにもありがとうって伝えて」と言った。
そして、ちょうどその時──
「あなたが逐幸の恋人なんだね。今度また機会があったら来てね。私もあなたと話してみたいし、その時にはこの人が普段どんなふうに仕事をしているのかも話してあげる」
かつ姉が突然俺の後ろから現れ、端月にそう言った。端月は軽く頭を下げ、それから言った。
「私の名前は繋 端月です。私たちへのおもてなし、ありがとうございます。それから、いつも逐幸がお世話になっていることにも、お礼を申し上げます。また来ます。その時、もし状況が許すのであれば、またお話ししましょう。あなたとお話しできるのを楽しみにしています」
「もちろん。でもその時は、私はきっと仕事を他の人に任せて、あらゆる困難を乗り越えてでもあなたと話しに来るから。だから、できればあまり混んでいない時間帯に来てね。私はこのSUNRICEの店長、桐 千美。これからは直接、かつ姉って呼んでくれればいいよ」
「はい、かつ姉」
端月はもう一度かつ姉に頭を下げ、それから視線を俺へと戻した。一瞬、俺たちは何を言えばいいのか分からなかった。その場にはたちまち、名残惜しさに満ちた雰囲気が漂った。
そこで、俺は思わず手を伸ばした。俺の意図を理解したかのように、端月も手を伸ばし、二人の手が触れ合った。
俺は恋人の手のひらの温もりを感じながら、彼女の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「それじゃあ、名残惜しいけど、また次は学校で会おう」
「うん。バイバイ」
端月は俺の手を握りながら、控えめに返事をした。それから俺たちは、ゆっくりと互いの手を離した。
その後、俺は端月と湖櫻先輩に手を振って別れを告げ、二人が店の外へ出ていくまで見送った。
俺が少し物寂しい気持ちに浸っていると、かつ姉は新しいメッセージが届いたことに気づいたようで、スマートフォンを取り出して確認すると、俺に声をかけた。
「逐幸、うちの店にこんなに早く新しい口コミが書かれてるよ」
かつ姉はスマートフォンを俺に見せた。そこには三件の書き込みが増えていて、それぞれこう書かれていた。
『今日は店員さんの彼女が様子を見に来て、二人とも危うく喧嘩しそうになってたみたいだけど、最後には仲直りできてよかった。二人の様子が本当に可愛かった。二人とも幸せになってね』
『てっきり二股かと思ったら、ただの誤解だった。それに、愛の告白を二回も聞かせてもらった。今日、お店から追加で付いてきた甘いおもてなしをありがとう』
『店員さんカップル、めちゃくちゃ可愛かった。帰る時もお互いに名残惜しそうにしていて、その様子を見ていたら、思わず笑顔になってしまった』
一つ読み進めるたびに、俺の防御力も同時に大幅に削られ、頬まで熱くなってきた。
「かつ姉、俺、今早退してもいいですか……?」
それに対して、かつ姉はいたずらっぽい笑みを浮かべ、スマートフォンを少し顎に当てながら言った。
「もちろんダメだよ。私が許しません。ほら、もうすぐ仕事も終わりなんだから、もう少し頑張ってね」
そう言うと、かつ姉は小さく鼻歌を歌いながら厨房へ戻っていった。
「逐兄、どうしたんですか? もしかして、どこか体調が悪いんですか?」
俺が両手をカウンターの机についているのを見て、後輩が首を傾げ、疑問の声を上げた。
今日は平日だったが、授業の一つは担当の先生が学会に参加するため事前に休講となっており、もう一つの体育の授業も体育教師が部活の選手たちを連れて試合に行っていたため、一週間休講になっていた。
この空いた一日、俺は創作に没頭することもなく、端月と会うこともなく、バスに乗って、とある場所へ向かっていた。
母さんが隣に座っていたが、俺たちの間には何の会話もなかった。バスが揺れた後、高速道路へ入り、次の停留所へ向かっていった。
陽光はまるで車窓によって大小さまざまな四角形の領域に切り分けられたかのように、バスの重苦しいエンジン音と揺れに合わせて流れ、明滅していた。
二週間ほど前、母さんから都合のいい日はいつかと聞かれ、大きな病院で検査を受けるのに付き添ってほしいと言われたついでに、高血圧などの常用薬も受け取ることになっていた。ちょうどこの日が空いていて、母さんの休みの日とも合っていたため、そのまま予定が決まった。
バスの座席に座っていた俺は、時々スマートフォンを取り出して弄っていたが、やはり退屈に感じて何度もスマートフォンをしまった。
はっきりとした重力を伴いながらバスが高速道路を下り、俺たちは大病院に近い停留所で降りた。
この病院のロビーにはアート作品が設置されており、両側の壁には金属製のレリーフ作品と、誰のものかも分からない大物の書いた文字が掛けられていた。
受付で尋ねた後、母さんは俺を連れて脇にある院内のエスカレーターへ向かった。俺たちは三階に到着すると、母さんはパチンという音を立てて、健康保険証と受付票を郵便受けのような診察室の投入口へ入れた。それから俺たちは、五つずつ横一列に並び、背もたれの付いたプラスチック製の椅子に座って、番号が呼ばれるのを待った。
母さんが少し説明してくれたところによると、ネットで予約してから現地で受付をする方式だったが、それでもしばらく待つ必要があるらしい。今の時間は十時半頃で、おそらく正午十二時近くになってから呼ばれる可能性があり、状況によっては早まるかもしれないとのことだった。
俺は控えめに返事をし、スマートフォンを取り出して黙って待った。母さんも自分のスマートフォンを取り出して、何を見ているのか分からないまま操作していた。
俺はメッセージアプリのチャット画面を開いた。上のほうにあるのは端月のチャットで、その下には湖櫻先輩から送られてきた授業の情報や、時々送られてくる冗談が並んでいた。
さらにその下には、曜光から送られてきた次回のバドミントン部の練習メニューや、コートに関する情報などがあり、一週間前にも俺たちはメニューの内容について少し話し合ったことを思い出したが、体感ではすでにずっと昔のことのように感じられた。
『今、何してる?』
俺は端月とのチャット画面にこの一文を入力し、それからその一文を左へ削除した。
端月はとても敏感だから、俺のメッセージから何かを感じ取ってしまうかもしれない。だから、今は彼女と話すのを避けることにした。
楽しい会話の中で自分のネガティブな感情を見せてしまえば、可愛い恋人なら理解してくれることも分かっている。それでも、男としてはあまりにも情けない気がしたし、彼女に心配をかけたくないという気持ちも強かった。むしろ彼女には、ずっと楽しく幸せな気持ちでいてほしいと思っていた。強がりの部分も含まれてはいるが、それでも自分の選択のために、愛する恋人のためにした小さな努力を誇らしく思う気持ちが、俺の中に少し生まれていた。
俺は画面を閉じ、別のチャットを開いた。
これは創作者たちの大きなグループチャットで、新しいメッセージの通知はすでにオフにしてあり、新着メッセージ数は「N」と表示されていた。中には様々な創作者同士の雑談や、その他の断片的な情報が含まれていた。
俺は気ままにこれらの創作者たちの話し合いや雑談を眺めながら、あくびをしたくなる衝動を抑えていた。
ロアン兄と出会ってから、俺はこの創作者チャットをほとんど開かなくなっていた。二つの場所では創作について話し合う質にあまりにも大きな差があったことに加え、その他の不特定多数の人々にも配慮しなければならず、思ったことを自由に意見として述べることもできなかった。そのため、本当に何もすることがない時にだけ、このチャットを開いて時間を潰していた。
スマートフォンで電子版の小説を読むこともできたが、今は何を読んでも頭に入ってこないような気がして、まともに楽しむこともできなかったので、そうすることはなかった。
俺はそのまま創作者チャットの過去のメッセージを読み返し、時々二、三言返事をし、それから何度もスマートフォンの右上に表示された時刻を確認した。
ようやく時間が十二時になったが、どうやらまだ母さんの番号は呼ばれていなかった。俺たちはさらにしばらく待ち、最後に母さんの番号が呼ばれたのは、午後一時を少し過ぎた頃だった。
看護師さんが母さんの名前を呼ぶのを聞くと、母さんは自分の上着を脱いで俺に預けた。どうやら俺には診察室についてきてほしくないらしく、俺は外でそのまま待ち続けた。
しばらくすると、母さんが診察室から出てきた。俺たちはそれぞれトイレへ行き、それから受付で書類を受け取った。その後、病院を出て近くの適当な店を探して腹を満たし、それから再び病院へ戻った。
午後は順番に別々の診察室で検査を受けるようだった。そして、当然ながら毎回列に並んで待つ必要があった。
この時には俺はもうスマートフォンを弄るのも嫌になるほどだったが、それでもできるだけやることを探し、様々なウェブサイトを読んで、どうでもいい情報を吸収していた。
母さんが四つか五つの検査を終える頃には、時間はすでに午後六時になっていて、どうやら残り一つの検査で終わるらしかった。
俺たちは院内一階にある診察室の待合スペースの一つに座っていた。俺が何気なく少し暗くなった空を窓の外へ眺め、「今日も一日が終わるんだな」と考えていた時、母さんが突然口を開いた。
「検査結果がもし良くなかったら……どうしたらいいんだろうね」
その言葉はほとんど呟きに近かったが、それでも俺の返事を求めているようにも聞こえた。
大丈夫だよ。
心配しなくていいよ。
まずは先生の話を聞いてみよう。
俺の頭の中には一瞬でそんな言葉が浮かび、それを口にしようとした時。
──逐幸、ただ父さんに置いていかれて私たちのことを放っておかれただけなのに、まさか怖くなったの?
──ただバイトの面接を受けるだけで、何をそんなに緊張してるの? もっと自分で強くならないと。これから社会に出て仕事を探すっていうのは、そういうことなんだから。
──お金ってそんなに簡単に稼げると思ってるの? あんたと弟は二人とも私が苦労して稼いだお金を使ってるんだよ。あんたたちは二人とも、それが分かってるの?
耳元に、かつて母さんから言われた言葉が突然響いた。
「……」
「…………」
俺は何度も口を開こうとしたが、口を開いた後には、どうしても歯を食いしばってしまった。
そして最後には──
俺は母さんに一言も言葉をかけることができなかった。
検査が終わると、俺たちは受付に戻ってすべての書類を受け取り、それから帰りのバスに乗った。
バスの時計は、現在時刻が午後七時頃であることを示していた。
澄んだ冷たい黄色の街灯がバスの窓から差し込み、俺は周囲の暗くなった光に合わせて、スマートフォンの画面の明るさも下げた。




