第三章 明月(6)
午後二時頃、俺は日和から家に戻り、シャワーを浴びるとパソコンを起動し、シーンごとのプロットを書いたファイルを九分の一の大きさまで縮小して画面の左下に置き、続いて本文が書かれたファイルを開いてプロットの内容に沿って本文を書き始めた。
前作のロボット作品では、詳細なシーンごとのプロットを書いていなかったが、今回はせっかくの機会なので、新しい方法で物語を書くことにした。あらかじめ処理すべき内容を計画していたからなのか、執筆はかなり順調に進んだ。
五時になると、携帯電話のアラームに設定していたアニメのオープニング曲が鳴った。俺はもう一度シャワーを浴び、外出着に着替えると家を出た。
母は今日は遅番で、おそらく夜九時頃に帰ってくる。俺は少しばかりのプレッシャーと、ある程度の罪悪感を抱えながら、道中で適当に一軒の店を見つけて夕食を済ませ、駅へと向かった。
地下鉄の車両がゴロゴロと走行音を響かせる中、俺は吊り革につかまりながら駅名の書かれた案内表示を眺め、通過する駅の数から到着時間を逆算していた。
しばらくすると、列車はようやく俺が降りる駅に到着し、続いてピーピーピーという催促の音を鳴らしたが、その時にはすでに俺の足は列車とホームの隙間を跨いでいた。
俺は思わず歩く速度を速め、指定された出口へと続く通路に到着した。
エスカレーターに助けられ、俺は地上へ戻った。この時の空は真っ黒に覆われていたが、駅の外を吹き抜ける夜風が俺の頬と半袖から伸びた腕を撫で、涼しく心地よい感覚をもたらしてくれた。
俺はここで少し待った。まるで格闘ゲームで画面のフレーム数を確認するように、エスカレーターの方向を眺めて人の流れを確認する。こういう比喩を使ってはいるものの、俺は格闘ゲームの必殺技の連打コマンドすら覚えられていないので、フレーム数を確認するなど言うまでもなく、ただ見たことのある作品のキャラクターのプレイスタイルを使って比喩しているだけだ。
そんなある瞬間、心臓を強くドクンと跳ねさせられたような人影が目に入った。
端月がエスカレーターの下からゆっくりと上がってきた。彼女は淡い青色のトップスに、下は濃い色のチェック柄のスカートを身につけ、肩に掛けた白い小さなバッグのストラップを手で握っている。その姿は爽やかで優雅に見えた。
「こんばんは。待った? えっ、どうしたの?」
端月は軽やかに俺の前まで歩いてくると、問いかけた後、俺の表情に気づき、たちまち笑みを浮かべ、語尾を少し伸ばしながら尋ねた。
「こんばんは。『待った?』って聞かれると、ちょっと返事に困るなと思って、どう返そうか考えていたんだ。それで、ようやく決めた」
「おっ? じゃあ言ってみて。親切な端月先生が採点してあげる」
俺はわざと真剣な表情を作り、端月は興味津々な表情を向けてきた。そこで俺は、空白の解答欄を埋めるように答えを書いた――。
「君を待っている時間は楽しかったし、君に会った瞬間は特に嬉しくなった。君と話していると胸がドキドキする――それから、えっと、その服装もすごく似合ってる……可愛い……綺麗だ」
端月は無表情のまま一瞬呆然とし、それから淡々と答えた。
「逐幸、授業中に先生に長々と甘い言葉を言ってはいけません。こういうことはあなたが大人になってから、デートの時に自分の恋人に言うものです。そして、その時には――」
端月は二秒ほど言葉を止め、その後、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「きっと彼女も、満点を超える点数を惜しみなくあなたにあげてくれるでしょう。もう覚えましたか? ずっと自分の心に刻んでおいてくださいね」
俺の表情が崩れそうになる前に、俺たちの手はすでにつながっていた。俺の頬は、一拍遅れて熱を帯びたように熱くなった。
「行こう。駅から歩道に沿って歩けば、七分くらいで着くよ」
端月の声が、澄んだ池に雨粒が落ちるように響き、俺はかすかに同意の声を漏らしながら、彼女について歩き出した。
俺は車道側を歩いていたが、実際には道路との間に街路樹と歩行者用のゴミ箱があるため、歩いていてかなり余裕があった。
この辺りの車道も俺の家の近くの大通りより幅が広く、さすが都市の中心部にある街区だと思った。
俺と端月は手をつないだまま、ずっと雑談を続けた。話題は、どの授業の先生の話し方がどうだったとか、どの授業のレポートでどんな資料を探す必要があるのかという話から、最近読んだ本の内容へと移っていった。
街路を抜けると、俺たちの前に車両の進入を防ぐ逆U字型の柵が現れた。柵の中央には歩行者が通れる通路が残されており、そこを通り抜けると、思わず大声で叫びたくなるような広々とした広場が現れた。
広場はコンクリートのブロックで舗装されており、広場の東西両側には、それぞれ時代劇でよく見かける宮殿風の建物がそびえ立っていた。建物自体はおおむね二階建てで、四、五人がかりでようやく抱えられるほどの赤い円柱が何本も支えている。
広場からは、建物とほぼ同じ幅の大きな階段を通って直接二階まで上がることができ、それに対して一階の入口はあまり目立たなかった。
「おお、なんだか全部すごく大きい……本当にびっくりした。ちょっと圧倒される感じだ」
俺は思わず感嘆の声を漏らした。それに対して、端月はくすくすと笑った。
「私も高校生の時に初めて来た時は、同じように感じたよ。でもその時は、わざと表には出さなかった。なんとなく、人に笑われそうだったから」
「それって、俺のことを笑ってるってこと?」
「うん、確かにそういうこと。でも、こういうのって可愛いよ。それに、声に出して叫んで、道行く人たちにこの驚きを伝えてみてもいいよ」
「そうしてもいいけど、その前にちゃんと君を捕まえさせてくれ」
「あっ、ばれちゃった。距離を取って通行人のふりをしようと思ってたのに、スマホまで用意してたのに」
会話の間も俺たちの手はしっかりとつながったままだったが、それでも俺たちはこんなふうに冗談を言い合っていた。
俺は遠くを見た。つまり、二つの建物の間にある広場の中央からさらに奥へと視線を向けると、もっと遠くにも似たような建物が一つあり、荘厳な雰囲気を漂わせていた。
「左側の建物が演奏院で、右側が劇院。私たちが今日行くのは左側のほうだよ」
端月は悠然と話していた。その声は夜空から降り注ぐ月光のように、地面に柔らかな反射を生み出していた。
俺たちは広大な広場を横切り、演奏院の広々とした平台状の階段までやって来ると、階段の左側にある手すりのほうへ近づいた。すると端月はゆっくりと足を止めた。
「七時半の開演まではまだ時間があるから、ここに座って少し待とう」
俺は周囲を見回した。確かに、両側の手すりの近くには、ほかの人の通行を妨げない場所で少し休んでいる人がかなりいた。
階段にそのまま座ったら端月のチェック柄のスカートに埃がついてしまうかもしれないと思ったが、下に敷けるものもすぐには見つからなかったので、仕方なく諦めた。端月本人は気にしていないようで、まず太ももを揃えてからゆっくりと腰を下ろし、俺もそのまま彼女の隣に座った。
広場はとても広々としており、自由に吹く風が、月明かりをわずかに帯びた端月の柔らかな黒髪を揺らし、まるで夏の夜のように暑い秋の夜に、心地よい涼しさを添えていた。
「でも、逐幸が私にどこへ行きたいか聞いてくるとは思わなかった。普段だって一緒に買い物に行ったりするでしょう?」
「普段ふらっと歩き回るのと、ちゃんと行く場所を決めるのとでは、ある程度違いがあると思う」
端月は俺の言葉を聞くと、興味を示すような目をし、続きを促した。俺は少し考えてから、口を開いた。
「うん、俺は、ふらっと歩き回る場合は、周りに今まで気づかなかったものを見つける感じだと思う。でも、すでに目的を決めているなら、そのために準備をして、出発する前にもだいたいどんな感じなのかを予想する。それで外に出た後は、答え合わせみたいな感覚があって、いや、もっとそのことだけに特有の感覚に近いのかもしれない? 二つの状況では、感じ方がちょっと違うんだ……分かる?」
俺の言葉を聞いた端月は少し考え、それから答えた。
「あなたの言うことって、一つはもっと気楽で自由な感じで、もう一つは慎重な感じってこと? 逐幸の言葉でたとえるなら、校内で先生に会ったから、そのまま少し雑談するのと、何かの用事のためにわざわざ職員室へ先生を訪ねに行くことの違いみたいなものかな。確かに、そうすると感じ方は違うね」
「俺は、君が俺の分かりにくいたとえをこっそり突っ込んでるような気がするけど、君の言った例ならだいたい分かるよ」
端月の顔に「ばれちゃった」といういたずらっぽい笑みが浮かんだところで、俺は続けた。
「これまでずっと、端月はどんなことでも俺を支えてくれたから、俺もいろんな挑戦に立ち向かう勇気を持つことができた。恩返しという意味もあるし、君がどんな場所に行くのが好きなのか、どんなことをするのか、もっと知りたいという気持ちもある。だからこうして提案したんだ。でも、最後にはチケットまで君が用意してくれて……むしろ俺のほうが招待された側みたいに感じるよ」
端月と付き合うようになってから、俺はたくさんたくさんの幸せを得た。それに、家のことで悩んでいる時も、端月と話したり、メッセージを送ったりするだけで、そのストレスを下ろすことができた。それだけではなく、端月は俺を信じてくれて、二人の思い出を使って創作することさえ認めてくれた。これは、きっとすべての女の子が応じてくれるようなことではない。
俺はもっといい男になりたい。この傍にいてくれる女の子をもっと大切にしたい。そして、俺たち二人の関係のために彼女がしてくれていることに報いたい……いや、結局のところ、一言にまとめられる――。
俺は彼女を幸せにしたい。彼女が幸せそうな姿を見たい。そうすれば、俺も嬉しいし、幸せだと思える。
「高校の時――」その時、端月はそう切り出し、身体を少しこちらへ寄せると、淡々とした口調で言った。
「私のお父さんは仕事の関係で、いつも会社から贈られた招待券を私にくれたの。私たち父娘はあまり話をしなくて、お父さんは『友達と一緒に聴きに行ってもいいぞ』とだけ言って、それから毎回いろいろなチケットを私にくれた。でも、その頃の私は一緒に行きたい友達がいなかった。でも、お父さんの好意を無駄にしてはいけないと思って、いつも一人で聴きに行っていたの」
「ああ――それが、大学の入学初日の自己紹介で言っていた、よく演奏会を聴きに行く理由だったんだな」
俺の頭にあの日の光景が浮かんだ。その時の俺はただ「彼女にはこんな趣味があるんだな」と思っていただけで、その日の放課後に端月から誘われて告白されることになるなど、予想できるはずもなかった。
「うん。そうだよ。高校生の頃、もし逐幸を誘ったらどうなるんだろうって考えたこともあった。でも、あの頃のあなたなら来てくれないような気がして、それでしばらく考えた後、諦めたの。でも今回の機会に、もしあの時あなたを誘っていたら、来てくれたのか聞いてみたい」
端月は顔を俺のほうへ向け、俺のすぐ近くまで顔を寄せて尋ねた。俺はしばらく考え、ゆっくりと口を開いた。
「えっと……きっとかなり迷ったと思う。いろいろと考えすぎたりもするだろうけど、最後に俺が応じるかどうかは、自分でも分からないな」
当時の自分についての理解から考えれば、おそらく最初に端月から告白された時と同じように、もし本当に端月と関係を進展させることができたとしても、自分の事情によって彼女を傷つけてしまうのではないかと思い、逃げていたと思う。
「自分の気持ちを言うなら、君がいつ誘ってくれたとしても、俺は嬉しいと思う。でも、実際に応じるかどうかとなると、たぶん断るほうに傾いていたと思う」
俺の答えに対して、端月は「やっぱりね」とか「私の予想が当たったでしょう」などとは言わず、頬を俺の肩に寄せ、軽く何度か擦りつけてから言った。
「それなら、やっぱり今が一番よかったんだね。今日はあなたと一緒に来られて、とても嬉しい。あの時の夢を叶えたみたいな気分だよ」




