第9話 リムラ村の秘密
人には、誰にも知らされていない運命がある。
傷つき、心を閉ざしていた少女。
何気ない日常を生きていた少年。
二人の出会いは、偶然ではなかった。
古代より残された遺跡。
妖精族が守り続けた記憶。
そして、世界を変える者へ届けられる言葉。
少女の中に眠る力が、今静かに目覚め始める。
第九話「リムラ村の秘密」をお楽しみください。
ラックと葵は、二人でリムラ村を囲む森林の中へ入っていった。
木々の間から差し込む陽光は優しく、静かな風が二人の頬を撫でていく。
しばらく歩いた後、葵がふと口を開いた。
「ねぇ……ラック。」
「あなたは、このリムラ村のことをどれくらい知っている?」
「リムラ村のこと?」
ラックは少し考えた。
(リムラ村が一年前、悪根の呪術者達に襲われたことは聞いている……。)
(村は大きな被害を受け、多くの人々が去っていった。)
(残された住民はわずかとなり、人々からは“呪われた村”とまで呼ばれている……。)
(正直に言えば、葵ちゃんとの出会いがなければ、僕は今日ここへ来ることもなかっただろう。)
ラックは、以前の自分を思い返した。
「ラック。」
葵の声で、ラックは我に返る。
「この村について、いろいろな噂を聞いていると思う。」
「でも……。」
「実際に起きた出来事は、本当よ。」
葵は静かに語った。
「だけどね……。」
「この村は決して呪われた場所なんかじゃない。」
「本当は……とても素敵な村だったの。」
「葵ちゃん……。」
ラックは葵の横顔を見る。
その瞳には、悲しみと懐かしさが入り混じっていた。
「見て……ラック。」
葵が指を向ける。
そこには、小高い丘の上に立つ巨大な古代石柱があった。
「あれは……?」
「これはね。」
「初代巫女様が、この地を訪れた証として残されたものなの。」
「妖精族の守護者達が、大切に守り続けてきた遺跡よ。」
「初代巫女様の……遺跡……?」
ラックは驚いた。
「行ってみましょう。」
二人は丘を登り、古代石柱の前へ立った。
「何て書いてあるんだろう……。」
ラックは石柱に刻まれた文字を見る。
「古代文字みたいだ……。」
「僕には全然読めない。」
「葵ちゃんは読める?」
葵は首を横に振った。
「私にも読めないわ。」
「でも……。」
葵はそっと石柱へ手を触れる。
「ここに触れると……。」
「妖精族の守護者達の魂に、触れているような気がするの。」
その瞬間――。
古代石柱が淡い光を放った。
そして……。
どこからともなく、不思議な声が響き渡る。
『汝……選ばれし存在……。』
『世界を救う者なり……。』
『世界に眠りし聖典と神具、揃いし時……。』
『悪の根源を封じ、人類をジェネシスの世界へ導く……。』
「……!?」
「何だ!?」
「何が起こっているんだ!?」
ラックは突然聞こえてきた声に驚き、身体を震わせた。
「ラック……。」
葵が驚いた表情で見る。
「あなたにも聞こえるの?」
「魂へ語りかける……この声が。」
「う……。」
ラックは言葉を失った。
葵は静かに語り始めた。
「私ね……。」
「この遺跡の前に来ると、不思議な感覚になるの。」
「夢なのか……現実なのか……。」
「分からないけれど。」
「私の魂に、力が満ちてくるような感じがするの。」
ラックは葵の言葉を聞きながら思った。
(父親から酷い扱いを受けて……。)
(心も身体も傷ついて……。)
(あの日の葵ちゃんは、本当に壊れてしまいそうだった。)
しかし――。
奇跡は起きた。
■□■◆◇
「すべて疲れている者よ。」
「重荷を背負う者よ。」
「私のもとへ来なさい。」
「私はあなたを休ませてあげよう。」
優しい声が響く。
それは言葉ではなく、温かな生命の光だった。
美しい旋律のような力が、葵の心へ届いていく。
長い間閉ざされていた心の扉。
そこへ優しい光が差し込む。
恐怖も、悲しみも、孤独も――。
少しずつ消えていった。
葵は静かに目を閉じる。
その姿は、まるで世界に祝福されているようだった。
ジェネシスの世界。
そこは、葵のために存在する場所。
なぜなら――。
彼女は、この世界にとって。
かけがえのない存在なのだから。
第九話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、リムラ村に隠されていた過去と、葵の中に眠る特別な力について描きました。
人々から「呪われた村」と恐れられていたリムラ村。
しかし、その場所には初代巫女様から続く大切な歴史と、妖精族の想いが残されていました。
そして、葵が遺跡で感じた不思議な力。
それは彼女が背負う運命の始まりでもあります。
また、ラック自身も気づかないまま、その運命に関わり始めています。
なぜラックにも石柱の声が聞こえたのか。
葵は本当に最後の巫女なのか。
世界に眠る聖典と神具とは何なのか。
少しずつ明らかになる世界の秘密を、これからも楽しんでいただければ嬉しいです。
次回も『ジェネシスの巫女アオイ』をよろしくお願いいたします。




