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第8話 母のサンドイッチ

人は、誰かを想うことで少しずつ変わっていく。


かつては、目立つことを避け、平凡な日々を望んでいた少年ラック。


しかし、一人の少女との出会いが、彼の心を大きく動かし始めた。


誰かを助けたいという想い。

誰かの笑顔を守りたいという願い。


その気持ちは、少しずつ二人の絆へと変わっていく。


第八話「母のサンドイッチ」をお楽しみください。

ラックは朝から、落ち着かなかった。


何度も時計を確認し、そわそわしながら台所へ向かう。


「母さん!」


「お願いしていたもの……できた?」


母シオンは微笑みながら、包みを手渡した。


「もちろんよ。」


「父さんの分と、あなたの分……それから、もうひとつね。」


「これは……誰の分なのかしら?」


「それは……。」


ラックは少し照れたように目をそらした。


「まぁ、いいわ。」


シオンは優しく笑う。


「今日は、お父さんについてリムラ村へ行くのよね?」


「気をつけて行ってらっしゃい。」


「うん!」


「行ってきます!」


ラックは元気よく返事をした。


ラックが家を出た後。


シオンは、その背中を見つめながら小さく微笑んだ。


「ラックったら……。」


「あれほどリムラ村へ行くのを嫌がっていたのに。」


「一体、どんな心境の変化があったのかしらね。」


そして、少し表情を曇らせる。


「でも……あの親子のことは心配ね。」


「ヨーデルがずっと気にかけていたのに……。」


「まさか、あんなことになるなんて。」


シオンは胸を痛めた。


「もっと早く助けてあげられたら……。」


しかし、ふとラックの姿を思い出す。


「でも……。」


「これからは、ラックがきっと力になってくれるわね。」


今までの息子は、どちらかというと内向的だった。


自分の気持ちを強く主張することも少なく、周囲に合わせることが多かった。


そんな息子が――。


「サンドイッチを作ってほしい。」


そう頼んできた。


それだけのことなのに、シオンには大きな変化に感じられた。


「何だか……頼もしくなったわね。」


「よほど、あの子のことが大切なのね。」


シオンは嬉しそうに微笑む。


そして、いつの間にか頬には涙が流れていた。


■□■◆◇


「葵ちゃん……元気にしているかな。」


リムラ村へ到着すると、ラックはすぐに葵の姿を探した。


しかし――。


どこにも葵はいない。


「まさか……また……?」


嫌な予感が胸をよぎる。


ラックは作業小屋へ向かう道。


そして、デムの実の畑まで続く道を必死に探した。


「葵ちゃん!!」


「葵ちゃん!!」


「どこにいるの!?」


不安で胸が締め付けられる。


すると――。


「ラック!」


「ここよ!」


森の奥から、少女の声が聞こえた。


ラックが振り向く。


そこには――。


笑顔の葵が立っていた。


「葵ちゃん!!」


「ここにいたのか!?」


「うん!」


葵は笑顔で答える。


「今日は仕事が早く終わったから、少し散歩していたの。」


「そうだったんだ……。」


ラックは大きく息を吐いた。


良かった。


本当に良かった。


元気そうな葵の姿を見るだけで、胸が温かくなった。


(良かった……。)


(本当に……。)


「今日は、とても良い天気ね。」


「気持ちがいいわ。」


葵が空を見上げる。


「本当だね。」


ラックは笑った。


「ラックは、お父さんの仕事についてきたの?」


「うん。」


「荷物運びとか、手伝おうと思って。」


「偉いわね。」


葵は嬉しそうに笑った。


(本当は……。)


(葵ちゃんが心配で来たんだ。)


ラックは心の中で呟く。


でも、それを言うことはできなかった。


「葵ちゃん。」


「元気にしていた?」


「うん。」


「とても元気よ。」


ラックは葵の表情を見る。


初めて会った時とは違う。


どこか暗かった瞳に、少しずつ光が戻っている気がした。


「何か良いことでもあったの?」


「もしかして……。」


「ダンさんが優しくなったとか?」


葵は少し笑った。


「うん。」


「とても素敵なことがあったの。」


「え?」


「なに?教えてよ。」


葵は首を横に振る。


「内緒。」


「えー?」


ラックは困った顔をする。


「気になるよ。」


「教えてよ。」


葵は楽しそうに笑った。


「秘密。」


ラックは思った。


(まあ、いいか。)


(葵ちゃんが……。)


(こんな風に笑えるなら。)


それだけで十分だった。

第八話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、ラックと葵が少しずつ心を通わせていく回でした。


大きな力や特別な才能だけが、人を救うものではありません。


誰かを想う気持ちや、何気ない優しさもまた、大きな力になります。


ラックと葵の絆が、これからどのような未来へ繋がっていくのか。


引き続き見守っていただければ嬉しいです。

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