第7話 預言者アブラハ
少女との出会いから始まった、小さな村での出来事。
しかし、その出会いは決して偶然ではなかった。
世界の裏側で、長い年月をかけて準備されていた運命の歯車が、今まさに動き始めようとしていた。
最後の巫女の誕生を待ち続けた者。
世界の解放を願い続けた者。
そして、その運命を見守る預言者――アブラハ。
第七話「預言者アブラハ」をお楽しみください。
「ついに……。」
老人は震える手を空へ掲げた。
「ついに、あの方が目覚めようとしている……!」
その瞳には、長い年月待ち続けた者だけが持つ、深い感動が宿っていた。
起源の存在――。
神へ祈りを捧げる者。
その名は――。
預言者アブラハ。
世界には、神に選ばれたとされる民族が存在した。
それが――。
大陸エデンに住む、リエラ民族である。
リエラ民族は、初代巫女が誕生した地として知られ、古くから神の意思を受け継ぐ一族であった。
そして預言者アブラハは、その民族を導く指導者であり、妖精族を守護する存在でもあった。
彼には、未来を読み取るという不思議な力があった。
「我々は……。」
アブラハは静かに呟く。
「どれほど、この日を待ち望んできたことか……。」
今から十二年前。
アブラハは、ある計画を実行した。
それは、未来に現れる「最後の巫女」のための準備であった。
スンツヴァル王都の有力者達。
そしてヨーデル。
彼らをガデム村へ派遣したのも、すべてアブラハの指示だった。
しかし――。
彼らには、詳しい理由は伝えられていなかった。
ただ一つ。
「重要な使命がある。」
そう告げられただけだった。
なぜなら……。
巫女が覚醒するまでは、普通の少女と何も変わらない。
もし敵に存在を知られれば、その命が狙われる可能性があったからだ。
そのため、すべては秘密裏に進められていた。
預言者アブラハは、スンツヴァル王都でも特別な存在だった。
その言葉を疑う者は少なく、多くの人々から尊敬されていた。
だからこそ――。
ヨーデル達は、何も知らされなくても忠実に使命を果たしていた。
ヨーデル自身も、過去にアブラハによって救われた恩がある。
そのため毎年一度、アブラハの使者が訪れるたびに、ガデム村の状況を報告していた。
村の様子。
人々の暮らし。
そして――。
未来の巫女に関わる可能性のある出来事を。
「いよいよ始まる……。」
アブラハは立ち上がった。
「巫女様の誕生によって、時代は大きく変わる!」
「長きに渡り苦しみ続けた我らの民が……。」
「ついに解放される時が来たのだ!」
しかし。
リエラ民族が置かれている現状は、決して平穏なものではなかった。
数十年前。
隣国アーサー国による侵略が始まった。
多くのリエラ民族は捕らえられ、自国へ連行された。
そして――。
奴隷として、過酷な労働を強いられていた。
人々の悲痛な叫びは、天へ届くほどだった。
だが、アーサー国の軍事力はあまりにも強大だった。
さらに、その影には――。
悪名高き組織。
「赤い星」
が存在していた。
彼らは悪根の術を操り、裏から世界を支配していた。
人々は恐怖に支配され、誰も立ち向かうことができなかった。
「だが……。」
アブラハは拳を握る。
「巫女様なら……。」
「必ず我らを救ってくださる。」
「奴隷解放の日は、近いのだ!」
アブラハは天を見上げた。
「神よ……。」
「どうか我らを導きたまえ。」
そして。
アブラハは急いで机へ向かった。
「そうだ……。」
「スンツヴァル王都のドルモンド侯へ、知らせなければならない。」
「これから世界は、大きく動き始める。」
「忙しくなるぞ……!」
第七話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、物語の世界観や過去の歴史、そして巫女誕生に隠された秘密を描きました。
ラックと葵の物語は、まだ始まったばかりです。
これから少しずつ、二人を取り巻く運命や世界の真実が明らかになっていきます。
次回もお楽しみに。




