第6話 ラックの決意
人は、誰かとの出会いによって変わることがある。
今まで自分を守ることばかり考えていた少年ラック。
しかし、傷ついた少女・葵との出会いが、彼の心に大きな変化をもたらします。
誰かのために生きるということ。
誰かを救うために立ち上がるということ。
少年が初めて抱いた強い決意とは――。
第六話「ラックの決意」をお楽しみください。
「葵ちゃん……!」
「葵ちゃん!!」
ラックは、何度も叫んでいた。
葵と初めて出会った、あの日から――。
夢の中で、あの光景が何度も繰り返される。
助けを求める少女の声。
倒れていた葵の姿。
そして――
まるで、自分に助けを求めているような瞳。
ラックの心から、その光景が離れることはなかった。
「やっぱり……」
ラックは、静かに呟く。
「あの夢に出てきた少女は……葵ちゃんだったんだ」
確信は、日に日に強くなっていた。
けれど――
葵にとって、ラックはまだ出会ったばかりの少年だ。
夢のことなど、知るはずもない。
それに今の葵は、父親との関係によって深く傷ついている。
少し触れただけでも壊れてしまいそうなほど、その心は弱っていた。
「僕に……何かできることはないのかな」
ラックは、葵と出会った日から考え続けていた。
どうすれば、彼女を助けられるのか。
どうすれば、あの悲しそうな顔を笑顔にできるのか。
考えても、答えは出ない。
それでも――
考えることをやめられなかった。
気がつけば、葵のことばかり考えている。
「葵ちゃんって……どんな子なんだろう」
「父さんは、前からダンさんのことを気にしていた」
「どうして、そこまで関わろうとしていたんだろう……」
ラックは、あることを決めた。
「今度、父さんに聞いてみよう」
「父さんとダンさんが、どうして知り合ったのか……」
ただ助けたいと思うだけでは、何も変わらない。
葵を救うために、自分にできることを知りたい。
そう思うようになっていた。
◆
その日の夜。
ラックは一人、窓の外を眺めていた。
ふと、自分自身に問いかける。
(僕は……いつから、こんなに誰かのことを考えるようになったんだろう)
これまでの自分は、特別な人間ではなかった。
普通の家庭で育ち、
両親に迷惑をかけないように。
誰かに嫌われないように。
ただ、真面目に生きてきた。
優等生になりたかったわけではない。
目立ちたいわけでもない。
ただ――
平凡な毎日を過ごせれば、それでいい。
そんなふうに思っていた。
人の道を外れることだけはしたくなかった。
正しいことをする。
困っている人がいたら助ける。
それくらいの正義感は持っていた。
けれど――
本当に誰かのために、自分から動いたことがあっただろうか。
ラックは考える。
傷つくことが怖かった。
失敗することも怖かった。
だから、自分を守るために心へ壁を作っていたのかもしれない。
でも――
葵と出会って、その壁が崩れ始めていた。
初めてだった。
誰かのために、自分の力を使いたい。
誰かを救うために、行動したい。
そんな気持ちが、心の底から湧いてきた。
ラックは、ゆっくりと拳を握る。
「葵ちゃんのためなら……」
もう迷わなかった。
「僕は、できることをする」
「必ず君を助ける」
その瞬間――
ラックの胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。
「……?」
ラックは胸元に手を当てる。
しかし、そこには何もない。
ただ――
遠いどこかで、
小さな光が瞬いたような気がした。
第6話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、ラックの心の変化を描きました。
これまで誰かのために、自分から行動することをためらっていたラック。
そんな彼が、葵との出会いをきっかけに、
「誰かのために、自分の力を使いたい」
と思うようになります。
まだラック自身は知りません。
この小さな決意が、やがて世界の運命を大きく動かしていくことを――。
そして最後に、ラックの胸に生まれた小さな温もり。
それが何を意味するのか。




