第3話 意識不明の少女
夢で聞こえた少女の声。
「助けて」という願いに導かれるように、ラックは初めてリムラ村へ向かいます。
運命の出会いが、静かに幕を開けます。
「助けて……!」
「早く私を見つけて!」
「このままでは……魂に大きな傷が生じてしまう……」
ラックは勢いよく目を覚ました。
「また、この夢か……」
荒くなった息を整えながら、胸に手を当てる。
けれど今日は、いつもと違っていた。
少女の声が、はっきりと聞こえた。
姿も以前より鮮明だった。
顔だけは霞がかかったように見えない。
それでも、助けを求めていたのが少女だということだけは確信できた。
「誰なんだ……」
「本当に僕を呼んでいるのか?」
最初の頃は、目が覚めればすぐに忘れてしまう夢だった。
しかし最近は違う。
夢の内容が、そのまま記憶に残るようになっていた。
見るたびに胸騒ぎは強くなる。
……ただの夢とは思えない。
誰かに相談しようかとも考えた。
アニーやデルに話しても笑われるだけだろう。
父に話すことも考えた。
けれど父は、毎日リムラ村の復興に奔走している。
最近は村で小さな騒ぎも起きているらしく、今日も朝から出かける予定だった。
リムラ村。
ラックは、あの村が苦手だった。
村を包む重苦しい空気。
幼い頃に見た景色が、今でも忘れられない。
それなのに――。
夢を見るようになってから半月。
今朝の夢は、これまでで一番鮮明だった。
そして不思議と、その夢はリムラ村へ続いている気がしてならない。
「……行ってみよう」
ラックは小さく頷いた。
「父さん!」
「どうした、ラック?」
「今日もリムラ村へ行くの?」
「ああ。用事があってな」
ラックは父を真っすぐ見つめた。
「僕も連れて行って」
ヨーデルは目を丸くした。
「お前がか?
今まで何度誘っても嫌がっていただろう」
「それは……」
夢のことを話そうとして、言葉が止まる。
自分でも信じ切れていない話だ。
結局、ラックは何も言わずに頭を下げた。
「お願い」
その真剣な表情を見て、ヨーデルは静かに頷く。
「分かった。一緒に行こう」
荷馬車はゆっくりとリムラ村へ向かった。
揺られる荷台で、ラックは父に尋ねる。
「今日は誰のところへ行くの?」
「ダン親子の家だ」
「ダン親子……」
その名前に聞き覚えがあった。
……そうだ。
以前、父と母が夜遅く話していた。
娘がいて、最近の騒ぎにも関係している、と。
どんな人達なのだろう。
胸の奥がざわつく。
……夢の少女と関係があるのだろうか。
「着いたぞ」
荷馬車が止まる。
ヨーデルは農場を見渡した。
「私はダンのところへ行ってくる。
お前はこの辺を歩いていてくれ」
「分かった」
ラックは一人で農場の周囲を歩き始めた。
その時だった。
「……え?」
作業小屋の前に、一人の少女が倒れている。
胸が大きく跳ねた。
急いで駆け寄り、肩を揺する。
「ねぇ、大丈夫!」
返事はない。
ぐったりとしたまま、目を閉じている。
「お願い、目を開けて!」
何度呼びかけても反応はなかった。
青白い顔を見た瞬間、全身から血の気が引く。
……まさか。
「父さん!」
ラックは立ち上がると、一目散に走り出した。
「父さん!」
「父さん、どこ!」
転んでも構わない。
泥だらけになりながら叫び続ける。
その声を聞いたヨーデルは、表情を変えた。
「何があった!」
ラックの様子を見ただけで、ただ事ではないと分かる。
実はヨーデルも、以前からダン親子のことを気に掛けていた。
今日は二人の様子を確かめるため、この農場を訪れていたのである。
「こっち!」
ラックに案内され、小屋の前へ駆け寄る。
少女の姿を見た瞬間、ヨーデルの顔色が変わった。
「葵ちゃん!」
すぐに駆け寄り、体を抱き起こす。
「しっかりしろ!」
呼吸を確かめる。
「……息はある」
安堵したように息をつき、ラックと二人で荷馬車へ運んだ。
濡らした布を口元へ当て、慎重に介抱を始める。
ラックは少女の顔を見つめたまま、小さく尋ねた。
「父さん……」
「この子、助かるよね?」
ヨーデルは答えなかった。
ただ険しい表情で、少女の呼吸を見守り続けていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついにラックと葵は出会いました。
この出会いが二人の運命をどう変えていくのか、次回もぜひお楽しみください。




