第2話 父ヨーデル
第二話では、主人公ラックの幼少期と、父ヨーデルの過去を描いています。
ガデム村へ移住した理由や、王都を取り巻く情勢、そして隣村リムラ村との因縁が少しずつ明らかになります。
今後の物語につながる伏線も散りばめていますので、楽しんでいただければ幸いです。
ラックの父の名はヨーデルという。
ラックが二歳の頃、ヨーデルはスンツヴァル王都の有力者達と共にガデム村へ移り住んだ。
なぜ、この村を選んだのか。
幼かったラックは、その理由を知らない。
ガデム村は自然に囲まれた穏やかな村だった。
人口は多くないが学校があり、農業や特産品作りも盛んである。
王都の有力貴族達から支援を受けていることもあり、村は豊かに発展していた。
ヨーデルは村長の相談役を務めながら、近隣の村々で採れた農産物を王都へ運ぶ仲買商として働いている。
仕事は順調で、村人達からの信頼も厚い。
ラックにとって父は、自慢の父親だった。
……いつも誰かのために働いている。
そんな父の姿を見て育った。
けれど、その穏やかな笑顔の裏には、誰にも語らない過去があった。
◆
若い頃、ヨーデルは王都で行商人として暮らしていた。
しかし、貴族と結託した裏社会の者達に騙され、多額の借金を背負わされてしまう。
すべてを失いかけた、その時だった。
彼を救ったのは、スンツヴァル王都皇帝直属の家臣、ドルモンド侯だった。
ヨーデルに面識はない。
それでもドルモンド侯は手を差し伸べた。
きっかけは、王都で絶大な信頼を集める預言者アブラハの願いだったという。
「この者を助けてください」
その一言だけで、ドルモンド侯は動いた。
……なぜ、自分だったのだろう。
ヨーデルは何度も考えた。
だが、その答えを知ることは最後までなかった。
それでも、この出会いが人生を変えたことだけは間違いない。
借金を返済し、再び歩き始めることができた。
そして後に、アブラハの勧めを受け、ガデム村へ移り住むことになる。
すべては、ここから始まった。
◆◇◆
この世界には七つの大陸が存在する。
その一つ、ピジョン大陸。
豊かな水源に恵まれた、美しい大地である。
スンツヴァル王都は、初代巫女によって建国された歴史ある国家だった。
歴代の皇帝は巫女に仕え、妖精族の加護者を守りながら国を治めてきた。
そのため長い間、平和が続いていた。
しかし近年、その平和に少しずつ影が差し始める。
王都では治安の悪化が進み、裏では正体不明の者達が暗躍していた。
その中心にいると噂されるのが、アンヌ・マリー家当主ハイド。
そして、その側には邪悪な呪術師ジキルがいる。
二人の名を聞くだけで、人々は顔を曇らせた。
隣村のリムラ村を襲い、廃村同然に追い込んだのも彼らではないか。
そんな噂が絶えなかった。
ラックも幼い頃、一度だけリムラ村を訪れたことがある。
村には老人と子どもばかりが残っていた。
誰も笑わない。
誰も声を上げない。
村全体が、時を止めたように静まり返っていた。
……あの光景だけは忘れられない。
幼いラックの心に、その景色は深く刻まれていた。
一方でヨーデルは、何度もリムラ村へ足を運んでいた。
人々がもう一度立ち上がれるように。
生活を取り戻せるように。
そのための方法を探し続けていたのである。
そして、一つの答えを見つける。
「デムの実」だった。
ヨーデルは、リムラ村で収穫されたデムの実をすべて買い取ると約束した。
安定した収入があれば、人々は前を向いて生きていける。
それがヨーデルの願いだった。
そのたびに、ラックも一緒に来ないかと誘われる。
けれどラックは首を横に振った。
……あの村は怖い。
胸の奥がざわつく。
どうしても足を踏み入れる気になれなかった。
ところが、ここ数週間になって不思議なことが起こり始める。
一度しか訪れたことのないはずのリムラ村。
その景色が、何度も夢に現れるのだ。
まるで誰かが、自分を呼んでいるように。
第二話は世界観や人物紹介が中心となりました。少し説明が多い回でしたが、今後の物語に関わる重要な伏線をいくつか盛り込んでいます。
次回からは、ラックの不思議な夢とリムラ村の謎が少しずつ明らかになっていきます。
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次回もよろしくお願いいたします。




