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第22話 「背後の神の愛」 

傷ついた心を抱えながらも、誰にも迷惑をかけまいと笑顔を見せ続ける葵。


しかし、その小さな身体に刻まれた傷は、これまで彼女が耐えてきた苦しみの証だった。


サラは初めて、葵が背負ってきた過酷な現実を目の当たりにする。


なぜ、この優しい少女が苦しまなければならなかったのか――。


妖精族の守護者としての使命を感じるサラの心に、ひとつの確信が芽生えていく。


それは、葵が決して孤独ではなかったということ。


目には見えない大きな愛が、ずっと彼女を守り続けていたのだ。


一方、葵の異変に気づいた仲間たちは、それぞれの想いを胸に動き始める。


小さな少女を守るため、村全体がひとつになろうとしていた……。


「痛い……!!」


サラの手が止まった。


葵の腕に残された、いくつもの傷跡。


それは決して最近できたものだけではない。


長い年月、誰にも気づかれることなく刻まれてきた痛みの証だった。


「葵ちゃん……」


サラの声が震える。


「この痣……どうしたの?」


ラックとアニー、デルも葵の姿を見つめる。


しかし葵は、いつものように小さく笑った。


「これは……前からあるものですから……」


その言葉を聞いた瞬間、サラの胸が締め付けられた。


今日のおつかいに出る前にはなかった新しい傷。


それを見たサラは、そっと葵を抱きしめた。


「葵ちゃん……こっちへおいで」


「手当てをしてあげるから」


サラは優しく葵の手を握り、店の奥へ連れていった。


「サラさん……」


「私は大丈夫ですから……」


「心配しないでください……」


葵は本当に心配をかけたくないと思っていた。


誰かに助けを求めることを知らずに育ってきた少女。


傷ついても、苦しくても、


「我慢すること」が当たり前になっていた。


しかし――


「何を言っているの!?」


サラは優しく、しかし強い声で言った。


「出掛ける前にはなかった傷を……どう説明するの?」


「私は今日から、あなたの保護者なのよ!」


「大切な娘が怪我をして帰ってきて……」


「心配しない親がどこにいるの?」


サラの胸の奥で、悲しみが込み上げていた。


(いたのね……ダンさん……)


(葵ちゃんは、これまで何度も傷ついても……)


(誰にも手当てされず、放置されてきた……)


(どれほど辛かったのだろう……)


(痛みに耐えながら、誰にも助けを求められず……)


(それでも父親を憎まず、愛そうとしていたなんて……)


(どうして……)


(どうして葵ちゃんのような優しい子が、こんな苦しみを経験しなければならなかったの?)


(神様……)


(これはあなたのご計画なのですか?)


(彼女が妖精族の守護者となる選ばれた存在だから……)


(あえてこの試練を通らされたというのですか?)


しかしサラには、昨日から感じていたことがあった。


葵に触れた時に感じた、あの不思議な感覚。


信じられないほど温かく、深いものだった。


それはまるで――


神の愛そのもの。


(そうだったのね……)


(葵ちゃんは……決して一人ではなかった)


サラは葵の傷を手当てしながら、強く感じていた。


この少女の背後には、目には見えない大きな力が働いている。


妖精族の守護者として長く生きてきたサラでさえ、今まで感じたことのないほどの聖なる気配。


葵に触れる度、全身が震えるほどの神聖な存在感があった。


(この子の痛みは……)


(もしかすると、神ご自身が感じておられる痛みなのかもしれない……)


この少女は――


ただの少女ではない。


深く傷つきながらも、愛する心を失わなかった存在。


神に選ばれ、そして愛されている存在。


それだけは、サラには確信できた。


しかし今は、答えを求める時ではない。


まず、この子の傷を癒さなければならない。


「ラック!」


サラは振り返った。


「悪いけれど、井戸から水を汲んできてくれる?」


「それから……ヨーデルさんを呼んできてくれるかしら?」


「サラさん……」


「何があったの?」


「その子……怪我をしているの?」


ただならぬ様子に、アニーとデルも心配そうに近づいてきた。


「心配してくれてありがとう」


「でも大丈夫よ」


「あなた達も協力してくれるかしら?」


「もちろんです!」


アニーがすぐに答えた。


「ラック!」


「井戸の水は俺が汲んでくる!」


「お前は早くヨーデルさんを呼んできなよ!」


「ありがとう!アニー!」


ラックは急いで父ヨーデルを呼びに店を飛び出した。


「サラさん」


デルも声をかける。


「私にも何か手伝えることはない?」


「薬が必要なら、うちの店に薬草がたくさんあるから持ってくるよ!」


「ありがとう、デル」


「お願いできるかしら?」


「うん!」


アニーは井戸へ。


デルは薬草を取りに、実家の店へ向かった。


しばらくして、アニーが水を持って戻ってくる。


サラは冷たい水に布を浸し、葵の傷へ優しく当てた。


「アニー……」


「悪いけれど、カーテンを閉めてくれる?」


「詳しく調べたいの……」


サラは葵の身体に、他にも傷がないか確認していった。


そして――


息を飲んだ。


葵の身体には、数えきれないほどの傷が残されていた。


一度や二度の出来事ではない。


長い間、繰り返されてきた痛み。


その現実に、サラの拳が震える。


「こんなことって……」


「人の親がすることじゃない……」


するとアニーが、思い出したように口を開いた。


「サラさん……」


「実は……」


「さっき店に来る途中、ルレオ橋で葵ちゃんを見たんだ」


「その時……」


「葵ちゃんの後ろをつけている怪しい男がいた……」


「もしかしたら、その人が……」


アニーの目には涙が浮かんでいた。


怒りと悲しみで、声が震える。


「葵ちゃん」


サラは静かに問いかけた。


「正直に話して」


「おつかいの帰りに……何があったの?」


「……何もありません」


葵は俯いた。


「本当に……何も……」


「ただ……父さんに会っただけです」


その言葉を残すと、葵は店の階段を駆け上がった。


そして自分の部屋へ閉じこもってしまった。


静まり返る店内。


サラは拳を握った。


そして決意したように言った。


「今晩……みんなを集めましょう」


「もう……このままにはできません」

今回の物語では、葵の過去に隠されていた苦しみが、少しずつ周囲の人々に明らかになりました。


これまで葵は、父ダンの苦しみを理解しようとし、自分が傷ついていることよりも父親を心配する優しい心を持ち続けていました。


しかし、本当に守られるべき時には、誰かの手を借りることも必要なのです。


サラは葵を見て、ただの少女ではなく、深い愛と使命を秘めた存在であることを感じ始めます。


そしてラック、アニー、デルもまた、葵を守りたいという気持ちを抱き始めました。


一人の少女のために、人々の心が少しずつ結ばれていく――。


それこそが、葵が持つ大きな力なのかもしれません。


しかし、彼女を取り巻く闇はまだ消えてはいません。


父ダンにかけられた悪根の呪い、そして葵の母ソルナに隠された秘密。


これから葵の運命は、さらに大きな世界へと繋がっていきます。


次回、村人たちは葵を守るため、重大な決断を迫られることになります。

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