第21話 アデルス学園
――「アデルス学園」――
新しい生活が始まった葵。
これまで孤独の中で生きてきた少女は、
初めて「家族」と呼べる温かな居場所を手に入れた。
サラとヨーデルの優しさ。
村の人々の支え。
そして、いつも側で心配してくれるラック。
少しずつではあるが、葵の閉ざされていた心には、
希望という光が灯り始めていた。
しかし――
平穏な日常の裏側で、
運命の歯車は静かに動き始める。
ガデム村にあるアデルス学園。
そこには未来を担う子供達が集まり、
友情や絆を育んでいた。
ラックにとっても、
アニーとデルという幼馴染との時間は、
かけがえのない大切なものだった。
だが、葵という新しい存在が現れたことで、
小さな心の変化が生まれる。
それは嫉妬なのか。
それとも大切な友を失うことへの不安なのか。
子供達の純粋な想いが交差する中、
葵の過去に潜む闇が、再び姿を現す。
彼女が背負ってきた傷。
それは肉体だけではなく、
12年間閉ざされ続けた心の傷でもあった。
果たして、葵を苦しめるものの正体とは――。
そして、彼女を守ろうとする仲間達は、
その深い闇に立ち向かうことができるのか。
これは、
「最後の巫女」と仲間達が、
本当の絆を築いていく物語である。
ガデム村には、100年前に設立された
**「アデルス学園」**という学校が存在していた。
この学園には、ガデム村だけではなく、
周辺の村々からも多くの子供達が通っている。
年齢は6歳から15歳まで。
総勢80名ほどの小さな学園ではあるが、
村々の未来を担う子供達を育てる
大切な場所であった。
学園長を務めるのは、
ガデム村村長の妻――ルスタ。
彼女は妖精族の守護者としての役割だけではなく、
次世代を育てる教育者としても
村人達から厚い信頼を得ていた。
この地域には、2000年前に初代巫女が残した
「聖典」の言葉が刻まれた聖石が数多く存在している。
そのためアデルス学園では、
一般的な読み書きや計算だけではなく、
神への信仰、命の尊さ、
人として正しく生きるための心の教育。
そして農業や林業など、
未来の村を支える技術教育にも力を入れていた。
□◆□◇◆
ラックには、幼い頃から共に育った
大切な親友がいた。
ルレオ商店の双子の兄妹――
兄のアニー。
妹のデル。
二人はラックにとって、
家族同然の存在だった。
その日の放課後。
「ラック!」
「今日こそ一緒に遊ぼうぜ!」
アニーとデルが声をかけてきた。
しかし――
「ごめん!今日は無理!」
ラックは即座に断った。
「えっ!?また?」
「ラック、お前最近ずっと断ってるじゃないか!」
アニーは不思議そうな顔をする。
「何か大事な用事でもあるのか?」
「それは……」
ラックは言葉を詰まらせた。
葵のことを、まだ誰にも話したくなかった。
彼女は昨日、この村へ来たばかり。
まだ傷ついた心を抱えている。
だからこそ、今は静かに過ごせる時間が必要だと思っていた。
「父さんに頼まれている仕事があるんだ!」
「悪い!また今度遊ぼう!」
そう言うと、ラックは急いで走り去った。
「ラック~~!」
デルは頬を膨らませる。
「最近ぜんぜん遊んでくれないじゃない!」
するとアニーがニヤリと笑った。
「もしかして……好きな子でもできたんじゃないか?」
「えっ!?」
デルの表情が変わる。
「誰よ!?」
「俺も詳しくは知らないけど……」
「リムラ村の女の子らしいぜ」
「リムラ村……?」
デルは眉をひそめた。
「あの廃村になったって噂の?」
「そうそう。でもサラさんの店で暮らしているらしい」
「父さんと母さんが話しているのを聞いたんだ」
「……」
デルは黙り込んだ。
そして――
胸の奥に、小さな不安が生まれた。
「ラックが……私達より大切にする人……」
「どんな子なのかしら……」
□◆□◇◆
その頃、ラックはサラの店へ向かっていた。
(葵ちゃん、大丈夫かな……)
(昨日から慣れない環境で疲れているかもしれない)
(僕が支えてあげないと……)
しかしラックは知らなかった。
後ろから二人がついてきていることを。
「……」
「やっぱり怪しいわね」
デルはアニーと共に、ラックの後を追っていた。
「葵っていう子……」
「どんな子なのか、確かめてみるわ」
□◆□◇◆
その頃、アニーはルレオ橋へ差しかかっていた。
すると――
一人の少女が急いで橋を渡っている姿が目に入った。
「……誰だ?」
見慣れない少女。
しかし、とても優しい雰囲気を持った子だった。
(すごく綺麗な子だな……)
その時。
アニーは別の存在にも気づいた。
「あれ……?」
「あの男……」
少女の後ろを、一定の距離を保ちながら歩いている人物。
「まさか……尾行しているのか?」
しかし確信は持てず、アニーはそのまま店へ向かった。
□◆□◇◆
「こんにちは!」
サラの店へ入ると、ラックの姿があった。
「ラック!」
「アニー!?」
「お前、ここにいたのか!」
「何しに来たんだよ?」
「なんだよ、その言い方!」
アニーは笑う。
「喉が渇いたからジュースを飲みに来ただけだよ」
「……」
ラックは少し疑っていた。
(絶対それだけじゃない気がする……)
その時。
店の扉が開いた。
「ラック!」
入ってきたのはデルだった。
「……え?」
ラックは固まった。
デルは普段とは違う服装をしていた。
王都で買ったという特別な服。
「ラック、どう?」
「可愛いでしょう?」
「え……あ、ああ……」
ラックは困惑した。
(何て言えばいいんだ……)
そこへサラが現れる。
「いらっしゃいませ」
デルはすぐに尋ねた。
「サラさん」
「昨日から働いている女の子がいるって聞いたんですけど……」
「葵ちゃんのこと?」
「ええ」
「今は買い物に行っているわ」
「もうすぐ戻ってくると思うけど……」
サラは笑った。
「ラックは心配で様子を見に来たのよね?」
「えっ!?」
「いや……その……」
ラックの顔が赤くなる。
デルの表情が変わった。
(やっぱり……)
その時。
「ただいま戻りました」
扉が開いた。
葵だった。
しかし――
いつもの明るい表情ではない。
どこか怯えているようだった。
「葵ちゃん?」
サラはすぐに異変に気づいた。
「これ……頼まれていた商品です」
葵は買ってきた品物を渡す。
しかし――
左腕をかばうような仕草。
「葵ちゃん……」
サラの顔が険しくなる。
「こっちへ来て」
「え?」
サラは葵の袖をゆっくりめくった。
腕。
肩。
肘。
そして身体の状態を確認する。
すると――
「痛い……!」
葵が小さく声を漏らした。
「葵ちゃん!!!」
サラの表情が変わった。
そこには――
明らかな傷跡があった。
――「新たな家族、新たな試練」――
第21話では、葵にとって初めての「普通の日常」が描かれます。
これまで父ダンとの苦しい生活の中で、
愛されること、頼ること、甘えることを知らなかった葵。
しかしサラやヨーデル、そしてラックとの出会いによって、
彼女は少しずつ「人との絆」を学び始めます。
また今回は、ラックを中心とした子供達の関係にも焦点を当てました。
アニーとデルは、単なる幼馴染ではなく、
ラックにとって大切な存在です。
特にデルの感情は、単純な嫉妬ではありません。
「自分の大切な友達が遠くへ行ってしまうかもしれない」
そんな寂しさや不安が、彼女の行動の裏側にあります。
これから葵は、多くの仲間と出会い、
支えられながら成長していきます。
しかし同時に、
彼女の過去と向き合う時も近づいています。
第21話の最後で明らかになった葵の傷。
それは、彼女が歩んできた12年間の苦しみを象徴するものです。
そして、その傷を知った時――
ラック、サラ、ヨーデル達の心には、
大きな決意が生まれることになります。
「もう二度と、葵を一人にしない」
その想いが、やがて大きな運命へと繋がっていくのです。




