表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

第20話 預言者アブラハの計画

――「預言者アブラハの計画」――


人は、どれほど暗闇の中にいても、

誰かの優しさに触れた時、再び歩き出す力を得る。


葵はこれまで、父ダンとの苦しい生活の中で、

孤独と悲しみを抱えながら生きてきた。


しかし今、彼女の前には新しい家族がいる。

無償の愛を注いでくれるサラとヨーデル。

そして、いつも彼女を気にかけ、支えようとするラック。


少しずつではあるが、葵の閉ざされていた心に、

温かな光が差し込み始めていた。


だが――


葵の誕生は、決して偶然ではなかった。


12年前、預言者アブラハは彼女の存在を知り、

未来に訪れる大きな災いと、そこに差し込む希望の光を見ていた。


なぜソルナは姿を消したのか。

なぜアブラハはダンを支え続けたのか。

そして、なぜサラはこのリムラ村へ導かれたのか。


全ては、遥か昔から始まった

神の計画の一部だったのかもしれない。


やがて葵は、自分自身が背負う使命と、

世界の未来を左右する運命を知ることになる。


これは――


「最後の巫女」が歩み始める、

新たな希望への第一歩である。

葵がサラ夫妻と暮らすことが決まり――


葵は、自分を必死に守ろうとしてくれたヨーデルやサラ夫妻の優しさに触れ、


これまで感じることのできなかった温かな幸福感に包まれていた。


そして久しぶりに、


心から安心できる朝食の時間を過ごしていた。


「サラさん……」


「私、父さん以外の人と一緒に朝ご飯を食べるの……初めてです」


葵の言葉に、サラは優しく微笑んだ。


「そうなのね……」


「でも、これからはいくらでもできるわ」


「一緒に食卓を囲んで、たくさんお話をしましょう」


「葵ちゃん……あなたはもう、私にとって大切な家族よ」


「ありがとうございます……サラさん」


葵の胸の奥に、


小さな温かな灯がともった。


「葵ちゃん……」


「あなたはこれから、もっと大きな幸せを掴むことになると思うわ」


サラは少し真剣な表情になった。


「私は妖精族の守護者として……」


「人の未来を、ほんの少しだけ感じ取ることができるの」


「昨日、初めてあなたに会った時から……」


「ずっと感じていたことがあるの」


「話してもいいかしら?」


「もしかすると、少し重く感じるかもしれない」


「でも……私は、あなたなら受け止められると信じているわ」


葵は迷わず頷いた。


「サラさん」


「聞かせてください」


「分かったわ」


「それでは……少し目を閉じて、力を抜いてくれる?」


葵は静かに深呼吸をした。


身体の力を抜き、


心を落ち着かせる。


「そう……それでいいわ」


サラは葵の魂に語り掛けるように言葉を続けた。


「葵ちゃん……」


「あなたはこの世界に生まれて12年間」


「本当に多くの苦しみを経験してきたわね」


「でも……」


「これから出会う苦しみは、あなた自身だけのものではない」


「あなたは多くの人々と出会い」


「その人達の痛みや悲しみを背負うことになるでしょう」


「あなたの人生には……」


「決して偶然ではない、人との深い結びつきが備えられているように感じるの」


「それは、とても大きな責任を伴う道」


「険しく……時には一人では耐えられないほどの試練になるかもしれない」


しかしサラは、優しく微笑んだ。


「でも……」


「あなたの後ろには、たくさんの仲間が見える」


「そして……」


「神との強い絆も感じるわ」


「この『神との絆』は」


「妖精族の守護者が持つ特別な力」


「でも葵ちゃん……」


「あなたの絆は、私達とは違う」


「もっと深く……」


「まるで親と子が結ばれるような」


「特別な繋がりを感じるの」


サラは確信を込めて告げた。


「葵ちゃん……」


「あなたには間違いなく」


「妖精族の血が流れているわ」


葵は驚いた。


「妖精族……」


「葵ちゃん」


「あなたは、お母さんのことを父さんから聞いたことはないの?」


葵は少し寂しそうに答えた。


「ほとんど聞いたことはありません」


「母さんは……」


「私を産んですぐに姿を消したそうです」


「生きているのか……」


「もう亡くなっているのか……」


「父さんにも分からないそうです」


「ただ……」


「預言者アブラハ様という方が」


「母さんがいなくなった後、父さんに会いに来てくれたそうです」


「父さんは、その方にとても励まされ」


「助けてもらったと言っていました」


その名前を聞いた瞬間――


サラの表情が変わった。


「……何ですって?」


「預言者アブラハ様が……」


「あなた達親子に会いに来たの?」


「はい」


「それは……」


「本当に大きな意味があることよ」


サラは静かに語った。


「預言者アブラハ様は、神に選ばれた特別な方」


「王族や一部の者しか、お会いすることのできない存在なの」


「大陸エデンに住むリエラ民族」


「神の民を導く指導者でもあるわ」


「そして……」


「私をこのリムラ村へ派遣した方でもあるの」


「サラさんを……?」


「どうして、この村へ?」


サラは少し考えた。


「それは……」


「私にも、まだ全ては分からないわ」


「長く話しすぎてしまったわね」


「続きは、また今度話しましょう」


「それより葵ちゃん」


「今日のお昼から、お店を手伝ってくれるかしら?」


葵は笑顔で答えた。


「もちろんです!」


「ありがとうね」


□◆□◇◆


その時――


サラの心の中では、


12年前から続くアブラハの計画が、


少しずつ繋がり始めていた。


(間違いない……)


(預言者アブラハ様は、12年前から全てを見通していた)


(葵ちゃんの存在に……)


(この世界の未来を感じていたのね)


(救世主としての未来を……)


もし、この考えが正しいなら――


これから世界は大きな混乱の時代を迎える。


しかし同時に、


かつてない希望の時代も始まる。


サラの胸は、


大きな使命感で熱く震えていた。


□◆□◇◆


一方その頃――


ラックはメーラレン湖で釣りをしていた。


そして運良く、


エンゲルを3匹釣り上げることができた。


「あっ!」


「そうだ!」


「この魚、サラさんに届けよう!」


「それに……」


「葵ちゃんにも会えるかもしれない」


ラックは急いで舟を降り、


サラの店へ向かった。


「こんにちは!」


「サラさん、いますか?」


店の中へ顔を出した瞬間――


ラックの目に飛び込んできたのは、


可愛らしいレースのエプロン姿の葵だった。


「……葵ちゃん!?」


「何してるの!?」


ラックは驚きのあまり、


しばらく言葉が出なかった。


その姿は、


いつもの葵とは違っていた。


明るく、


そしてどこか幸せそうだった。


サラが笑顔で説明する。


「実はね」


「葵ちゃん、今日からこの店を手伝ってくれることになったの」


「えええええ!?」


ラックは驚きながらも、


胸の奥から喜びが込み上げてきた。


父ヨーデルや村長夫妻が、


葵の父ダンと話し合い、


しばらく葵がサラ夫妻と暮らすことになったことを聞いたラック。


「良かった……」


「本当に……良かった!」


思わずラックは葵の手を握った。


「ラック……」


「恥ずかしいよ……」


「手……離して」


「あっ……ご、ごめん!」


その様子を見ていたサラは、


楽しそうに笑った。


「ラック!」


「葵ちゃんをお嫁さんにもらうには、まだ10年早いわよ!」


「えっ!?」


「お、お嫁さんって!!」


ラックの顔は真っ赤になった。


「さあ、帰った帰った!」


「私も葵ちゃんも、お店の仕事が忙しいんだから!」


ラックは追い出されるように店を出た。


しかし――


その顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「まあ……いいか」


「サラさんのお店なら、いつでも来られる」


「これから毎日……」


「葵ちゃんに会えるんだから!」


ラックは、


これから始まる新しい日々に、


大きな期待を膨らませるのであった。

第20話では、葵が初めて「家族の温かさ」を感じる場面を描きました。


これまで父ダンとの苦しい生活の中で、葵は愛されることよりも、耐えることを覚えていました。


しかしサラやヨーデルとの出会いによって、葵の閉ざされていた心は少しずつ癒されていきます。


そして今回、重要なのは預言者アブラハの存在です。


12年前、葵が生まれた時から始まっていた計画。


なぜアブラハはダンを支えたのか。


なぜサラをリムラ村へ派遣したのか。


その答えは、まだ完全には明かされていません。


しかし、全ては「最後の巫女」である葵へ繋がっていたのです。


一方、ラックにとっても葵との距離が少しずつ近づく大切な回となりました。


幼い友情が、やがて世界を救う大きな絆へ成長していくことになります。


次回――


葵を中心に、運命に導かれた仲間達が集まり始める。


「5人の使徒」の物語が、いよいよ動き出します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ