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第18話 ルスタの妖精族の秘術

――心の闇に差し込む、妖精族の光――


人は、深い苦しみの中にいる時、

自分自身さえ見失ってしまうことがあります。


愛する者を失った悲しみ、

自分では抗えない運命、

そして誰にも理解されない孤独……。


ダンもまた、知らぬ間に悪しき力によって心を蝕まれ、

本来の優しい父親の姿を失いかけていました。


しかし、どれほど深い闇に包まれたとしても、

人の心の奥底にある「愛」まで消えることはありません。


妖精族の守護者ルスタは、

秘術によってダンの心の奥へ入り、

そこに残された小さな光を見つけます。


それは、葵を想う父親としての愛――。


果たして、悪根の呪いに支配されたダンの心は救われるのか。


そして、ルスタが見た「巫女にも匹敵する聖なる力」とは一体何なのか。


葵の運命は、少しずつ大きな歴史の流れへと導かれていきます。

翌朝――。


ガンメル村長と妻ルスタ。


そしてヨーデルの三人は、ダンの家へ向かうため馬車を走らせていた。


目的はただ一つ。


葵を守るため。


そして、父ダンを救うためだった。


ダンの家の前に到着すると――。


中から、悲痛な叫び声が響いていた。


「葵!!


どこだ!!


どこへ行ったんだ!!」


「いつになったら帰ってくるんだ!!」


「葵……葵……葵――!!」


その声は震えていた。


以前のダンを知るヨーデルには、その異常さがすぐに分かった。


心優しく、娘を誰よりも愛していた父親。


その姿は、もうそこにはなかった。


「ヨーデル……」


ルスタが静かに尋ねた。


「ダンさんは、もともとは心優しい父親だったのですよね?」


「はい……。


葵ちゃんを何より大切にしている人でした」


ヨーデルは苦しそうに答える。


するとルスタは、決意したように頷いた。


「それなら……」


「彼の心に、妖精族の秘術で語り掛けます」


「悪根の呪いを解く必要があります」


「私にできるかは分かりません……」


「ですが、葵ちゃんのためにも、彼には本来の自分を取り戻してもらう必要があります」


そしてルスタはヨーデルを見る。


「ダンさんを呼んできてください」


「ダン!入るぞ!」


ヨーデルが家の中へ入ると――。


そこには、荒れ果てた部屋が広がっていた。


床には酒瓶が転がり、家具は乱れ、足の踏み場もない。


「これは……」


ヨーデルは言葉を失った。


「ダン!」


「しっかりしろ!!」


「……誰だ?」


虚ろな目で振り返るダン。


「あ……ヨーデルさん……」


「ヨーデルさん!!」


突然、ダンはヨーデルの腕を掴んだ。


「聞いてください!」


「葵が……葵がいなくなってしまったんです!」


「どこへ行ったか知りませんか?」


「知っているなら教えてください!!」


「ダン!!落ち着け!」


ヨーデルは強く呼びかける。


「忘れたのか?」


「昨晩、伝えに来ただろう?」


「葵ちゃんは、サラさんの家に泊まることになったんだ」


「サラさんの……家?」


ダンは呆然と呟く。


「そんな話……」


「聞いたような……」


「いや……聞いていないような……」


その姿に、ヨーデルは胸を痛めた。


記憶は混乱している。


目は虚ろ。


心は常に不安に支配されている。


そして、その苦しみから逃れるために酒へ手を伸ばしていた。


「ダン!」


「まずは座るんだ!」


ヨーデルはダンを椅子へ座らせた。


そして井戸から冷たい水を汲み、渡した。


□◆□◇◆


「ダンさん」


ルスタが静かに声をかける。


「私の名はルスタ」


「妖精族の守護者です」


ダンはゆっくり顔を上げた。


「私はあなたを助けたい」


「だから……少しだけ心を開いてください」


「信じてください」


「あなたは昨年のリムラ村の事件で、悪根の呪術者達の陰謀に巻き込まれた被害者です」


「何があったのか……」


「教えていただけますか?」


しかしダンは首を横に振った。


「すみません……」


「何も……覚えていないのです……」


「そう……」


ルスタは優しく微笑んだ。


「無理に思い出さなくてもいいわ」


「少しだけ……あなたの手を握らせてください」


「もしかしたら、あなたを苦しめている原因が分かるかもしれません」


ルスタは静かに目を閉じた。


そして――。


妖精族に伝わる秘術を発動させ、ダンの手を握った。


□◆□◇◆


その瞬間――。


ルスタの意識に、凄まじい闇が流れ込んできた。


一年年前。


リムラ村を覆った、恐ろしい悪根の呪い。


人の心を蝕み、絶望へ導く暗黒の力。


その背後には――。


強大な悪の存在があった。


「……何なの……この呪いは……」


ルスタは驚愕した。


「これは……闇の世界を支配するほどの力を持つ者による術……」


「普通の人間なら……」


「一日も耐えられず、精神を破壊されてしまう……」


しかし――。


ルスタはさらに深い場所を見る。


そこにあったものは――。


「……え?」


「これは……」


信じられない光だった。


「ダン……あなたは……」


「悪根の呪いを受けている」


「でも……」


「あなたの心の奥底には、深い愛が残っている……」


そして、その光を守るように存在するもの。


「これは……妖精族の秘術……」


「しかも、非常に高度なもの……」


ルスタは震えた。


「これほど強い聖なる力を……私は見たことがない」


一瞬、ある存在が頭をよぎる。


「巫女様……?」


しかし、すぐに否定する。


「いえ……そんなはずはない」


「この世界では……」


「まだ巫女様は誕生されていないはず……」


□◆□◇◆


ルスタはゆっくりと目を開いた。


「ヨーデル……」


「ダンさんにかけられている呪いは……」


「古来から伝わる悪根の秘術に近いものでした」


「誰が……」


「誰がこのような恐ろしい術を……」


ヨーデルは拳を握り締める。


しかしルスタは首を振った。


「私にも分かりません」


「そして……」


「私の力では、彼の呪いを完全に解くことはできません」


ヨーデルは驚く。


「ルスタさんでも……?」


「ええ……」


だが、ルスタの表情に絶望はなかった。


「でも……希望はあります」


「彼の心の奥底には――」


「彼自身を守るための、妖精族の高度な秘術が施されていました」


「もしかすると……」


「昨晩話していた、葵ちゃんの母ソルナさんによるものかもしれません」


ヨーデルは息を飲む。


「では……」


「ええ」


ルスタは静かに告げた。


「ダンさんが、これほど苦しんでいる理由は……」


「呪いが少しずつ解け始めているからかもしれません」


しばしの沈黙が流れた。


そしてルスタは決断する。


「今の状態の彼の元へ、葵ちゃんを戻すことはできません」


「再び悪根の力に利用される危険があります」


「例の条件を提示しましょう」


「そして――」


「しばらく私達が、葵ちゃんを守ります」


ヨーデルは静かに頷いた。


運命の歯車は、また一つ動き始めていた。


葵を守るため。


そして迫り来る闇と戦うために――。

――失われた心を救うもの――


今回の第18話では、

「戦う力」ではなく「救う力」をテーマに描きました。


悪しき力によって心を奪われたダン。

しかし、彼の中に残っていたのは憎しみではなく、

娘を愛する父親としての想いでした。


ルスタが感じ取ったものは、

単なる魔法や秘術ではありません。


人の心の奥底に存在する、

決して消えることのない愛の力です。


そして、この章では新たな謎も浮かび上がります。


なぜダンの心には、強力な妖精族の守護が施されていたのか。

誰が、何のために彼を守っていたのか。


その答えは、葵の出生の秘密、

そして母ソルナの過去へと繋がっていきます。


「最後の巫女」として目覚め始めた葵。

彼女を守る者たち。

そして迫りくる闇の勢力。


物語はここから、

葵自身の使命だけではなく、

彼女を取り巻く人々の運命へと広がっていきます。


次回、葵を守るためにガンメル達が選ぶ決断とは――。


どうぞ第19話もお楽しみに。

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