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思考の檻に、星を飾る  作者: サバ味噌饅頭
第七章:灰色の空と、秒針の音

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前編 微風に揺れる葦

パスカル「人間は考える葦である」

空が濁った鉛色に染まり始めてから、もう三ヶ月が経つ。

観測史上最大、そして最後となるであろう小惑星「アポルオン」の衝突が確定したあの日から、世界はゆっくりと、だが確実に壊れていった。


物理学的な計算によれば、衝突まで残り七十二時間。

巨大な天体が大気を引き裂き、地表のすべてを灰にするその瞬間、人間という種は等しく塵へと帰る。金持ちも、貧者も、権力者も、そして私のような病んだ修理工も。


「……よし。これで動くはずだよ」


私はピンセットを置き、手元の懐中時計を見つめた。

カチ、カチ、カチ。

静まり返った店内に、精密な機械が刻む律動リズムが響く。外では暴徒の叫び声や、逃げ惑う車のクラクションが絶えないというのに、この真鍮の円盤の中だけは、冷徹なまでに正確な時が支配していた。


「直ったの?」


カウンターの向こうで、埃をかぶった椅子に座っていた少年が顔を上げた。名前はカイル。一週間前、店の前で倒れていた彼を拾った。両親はパニックの渦中で行方不明になったという。


「ええ。ゼンマイの焼き付きを直しただけだけどね。この時計はいいものだよ。持ち主がどれだけ絶望しても、自分に与えられた役割を忘れずに時を刻もうとしている」


私は乾いた咳をひとつして、胸の痛みをこらえた。私の肺は、数年前からゆっくりと機能を失いつつある。激しく動けば呼吸が止まる。宇宙が私を殺しに来る前に、私の肉体はすでに私を裏切り始めていた。


「ねえ、エナさん。なんでこんなことしてるの?」


カイルの瞳には、子供特有の鋭い虚無が宿っていた。


「あと三日で、この時計も、この店も、僕たちも全部なくなるんだよ。宇宙のゴミになるんだ。意味なんてないじゃないか。勉強も、仕事も、時計を直すことも」


私は少年の問いに、すぐには答えなかった。ただ、使い古したセーム革で時計の風防を磨いた。


パスカルという男が、かつてこう言った。

「人間は一本の葦にすぎない。自然のうちで最も弱いものである。だが、それは考える葦である」


宇宙が私たちを押しつぶすのは、あまりに容易なことだ。一滴の毒、一枚の破片、あるいは空から降る一つの岩石。それだけで、私たちの命という炎はあっけなく吹き消される。宇宙は自分が私たちを殺すことを知らない。だが、私たちは自分が死ぬことを知っている。


「カイル、外を見てごらん」


私は窓の外を指さした。

略奪され、割れたショーウインドウ。絶望して祈りを捧げる人々。あるいは、ただ本能のままに暴力を振るう者たち。彼らは今、思考を捨てて「現象」になろうとしている。恐怖という重力に引かれ、ただ落ちていく物質になろうとしている。


「宇宙は広くて、冷たくて、残酷だ。私たちはそれに比べれば、風に揺れる葦のようにか細い存在だよ。でもね、カイル。私たちが『自分は今、滅びようとしている』と理解し、その最期をどう迎えるかを選ぶとき、私たちはあの巨大なだけの岩石よりも、ずっと高貴な存在になれるんだ」


カイルは黙って、差し出された時計を受け取った。

小さな掌の中で、秒針がチクタクと音を立てる。


「僕は、怖くないって言ったら嘘になる。でも、ただ震えて死ぬのは嫌だ」


「なら、考え続けよう。最後まで、自分が何者であるかを」


その夜、私は店の奥にある小さなラジオをつけた。

放送局のほとんどは既に沈黙していたが、一つだけ、クラシック音楽を流し続けている周波数があった。流れてきたのはバッハの旋律。


人類が積み上げてきた知性、芸術、祈り。

それらは宇宙の規模から見れば、ほんの一瞬の火花に過ぎない。太陽系が誕生してから消滅するまでの悠久の時の中で、私たちの文明など、瞬きをするほどの時間さえ占めていない。


それでも。

私は思う。この美しい旋律を「美しい」と感じる心が、この瞬間に宇宙に存在しているという事実。それは、何も感じることのない無限の真空よりも、どれほど重いことだろうか。


私は持病の薬を飲み干した。もう薬の備蓄もわずかだが、そもそも飲み切る必要さえなくなった。

私の体は震えている。肺は喘ぎ、心臓は恐怖に早鐘を打つ。

私は弱い。あまりに弱い。


だが、私は今、自分が死に向かっていることを、言葉として、思想として、確かに把握している。

私は、ただ「死ぬ」のではない。

「死を、生きている」のだ。


「明日、最後のお客さんが来るかもしれない。お店を掃除しておこう」


私はゆっくりと立ち上がり、ほうきを手にした。

外では赤い彗星のような尾を引くアポルオンが、肉眼でもはっきりと見えるほどに大きく、美しく、不気味に輝いていた。


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