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献身  作者: 北西みなみ
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それから、男は毎日のようにやってくるようになった。


時には昔のように色んなことを話し、時には赤子のように甘える男を抱きしめ眠る。私を求める手つきに性急さが消え、ゆっくりと何かを確認するように私を掻き抱くようになった頃。


私の妊娠が発覚した。いつもピルを服用していたのに、その日は少し熱っぽくて風邪薬を飲んでいた。医者が言うには、それで薬が効かなかったんだろう、とのこと。


さて、どうしようか。


相手は女を愛せない人間。女との間に子供が出来るのも望まないだろう。愛のない親に育てられる子供の悲劇を思えば、何も分からぬ塊の内に引導を渡すのが一番の道かとも思う。


けれどひょっとしたら、男も子供はほしいのかもしれない。恋する人は男性だから諦めているだけで、自分の子供を育てたいと思うかもしれない。


なら、ここで子供を産んで、身寄りのなくなった親戚の子とでもして男に託し、恋人と一緒に育てていくという選択肢もあるのではなかろうか。


そう思い、男の意向を聞いてみたのだが。


「結婚しよう」


全く予想していなかった言葉に頭が真っ白になった。


「どうか、私と結婚してください。……俺は亜美と幸せになりたい」


跪いて手に口付けをなんていう気障にも程があることを平然としてのけた男は、不思議なほど澄んだ笑顔で私を見つめた。そこには、愛しい誰かへの未練はどこにも見えなかった。



子供は女の子だった。


少しだけ、男が拒否反応を出すのではないかと心配したが、男はそんな心配が馬鹿らしくなるほど子煩悩になった。


暇さえあれば、可愛いよ、大好きだよという男。最初はその後に、私の次だけど、と続いていたため少し心配していたが、暫くすると世界で一番可愛いに変わったので、ほっと胸をなでおろす。


愛し合っていない両親の元に生まれた子供が情緒豊かに育つかどうかを密かに心配していた私だったが、あいも変わらず抱きつき魔な男と私は世間ではおしどり夫婦と呼ばれ、仲良しな両親に子供もいつもニコニコご機嫌だ。


自分が親となったことで何かが変わったのか、女への忌避感も少しずつ薄れている。少なくとも私の家族に対しては、女嫌いになる前の態度で接するようになったし、何かの弾みで女にぶつかってしまっても気持ち悪くなって戻してしまうようなことはなくなった。


ただ、少し残念なこともある。以前は男性アイドルを二人してあの人がいい、この人格好いいときゃいきゃい言っていたのに、父親がミーハーなのはおかしいと思ったのか、付き合ってくれなくなったのだ。それどころか、私があの人格好いい~、と言うだけで不機嫌になる始末。


毎回、一番好きなのも格好いいのも男だ、と言うだけで機嫌が戻るからいいが、女の褒め言葉で機嫌を直すとはずいぶんな変わりようである。


そして、心が不安定でなくなっても女を抱けるようになった。以前は、辛い気持ちを全て吐き出すように、何かを刻み付けるようだった営みも、今では抑えきれない愛を伝えるかのように優しく丁寧に触れてくる。それはまるで私が世界一愛されているかのような錯覚に陥るほど。


まさか男とこんな心穏やかな日々を過ごすことが出来るとは、人生とは分からないものだ。


今、私のお腹の中には新たな生命。世界一甘えんぼで淋しがりやな男のために沢山の家族をあげたくて。無条件に味方になれる存在を感じてほしくて男におねだりした。あまりない奥様からのおねだりに男が大変張り切ったのはご愛敬。結果、子供はお腹の中で順調に育っているというわけだ。


子供の性別はまだ聞いていない。生まれるまで聞かず、名前は両方考えればいいじゃない、ということになったので、必死に考えている。二種類考えるのがこんなに大変なら、もう性別聞いちゃったっていいんじゃない、と私が言うと、次の子の時に使えるかもしれないだろ、と返される。どうやら、まだまだ欲しいらしい。


なんとも気が早すぎる話だが、子供で野球チームが欲しいな、とか言っちゃう男に、なら次は三つ子くらいにしておこう、とリクエストする私も大概だ。


世間一般とは異なるのかもしれないが、私達はこうなって良かったのだろう。男は子供を持って幸せで、私は男が幸せになるのを見て満たされる。私達は恋愛を諦めた代わりにもっと確かな愛情を手に入れたのだ。


陽だまりのようなゆったりとした時の中、少し遠くから声が聞こえる。


「亜美、亜美。愛してるよ」


えぇ、私もよ。


「かあしゃん、しゅきー」


ありがとう。


「ねぇ、亜美。亜美、ご両親とお義姉さんも来てくれたんだよ。ねぇ、こっちを見て?」


今眠いから、ちょっと無理。


「ねぇ、亜美。おいていっちゃやだ、やだよ、亜美」


なぁに、久しぶりの駄々っ子ね。子供に笑われてしまうわ。うたたねぐらいで泣かないで?


「かあしゃ、おかーしゃん!」


あぁ、ごめんなさい。少しだけ眠らせて……。少し寝たら、すぐに抱きしめてあげる、から……。それまで、お父さんにお願い……して……。



私は、久しぶりに家族皆が集まっている幻を感じながら、全身を包む眠気に身を委ねた。

BL好きな友達がおりまして。

困ったことに、それを理解してくれ、と。言われてもごめんよ、私には無理。


そんな感じでその友達とはちょっと距離を置いていた訳ですが、いつも私に何か書けと言ってくる方の友人が、書けば理解できるんじゃない、という無茶振りをしてきまして。それ、多分反対よ。理解できるから書けるんだよ、理解できないと書けないよと言った訳ですが。


チャレンジせずに諦めるなと言われたので、チャレンジして諦めることに。


それがこれでございます。


……うん。BLって設定にしたけど、欠片も出てこなかった。これが私の限界だ。同性同士やら異種族同士の恋愛ってのは、生理的に無理。好きだという気持ちは否定しないけど、それを見させられるのは気持ち悪い。見てないところでお願いします。



という訳で友人よ、やっぱり無理だったよ。良さも分からないので、布教も無しでよろしく頼む。頑張っても「ふーん」以外言えないよ。本当にすまん!


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