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探偵ではありません。経理です。  作者: Silvertiger
第22話 第四話 第五章その2『サトウは数字の意味を知る』ー沈黙の告発

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第22話 第四話 第五章その2『サトウは数字の意味を知る』ー沈黙の告発

『サトウは数字の意味を知る』

 第五章その2 沈黙の告発


 数字が語る裏切り

 会議室の誰もが動かなかった。

 蛍光灯の白い光だけが、机の上の資料を照らしていた。

 サトウは、ゆっくりとワンに視線を戻した。


「……さて、ワンさん。

 あなたの話を少しだけ確認させてください」


 ワンは姿勢を正した。

 表情は変わらなかった。


 サトウは、黒川の前に置かれた資料を指で軽く叩いた。

「これは、営業部の決裁履歴です。

 あなたの決裁だけが、妙に“安全”なんです」

 ワンは眉をわずかに動かした。


 サトウは続けた。

「三枝課長の癒着が疑われている案件。

 あなたの担当分だけが、すべて予定通りに通っている。

 中林君の案件だけが、すべて遅延している」

 数字は嘘をつかなかった。

 会議室の空気が、さらに冷たく沈んだ。


 サトウは、ワンの目を見た。

「あなたは、三枝課長の妨害指示に“従わなかった”と言った。

 それは事実でしょう。

 あなたは資料を抜いていない。

 あなたは手を汚していない」


 ワンは静かに頷いた。

 サトウは、そこで一度だけ息を吐いた。


「だが――

 あなたは“知っていた。

 中林君が資料を抜いたことを」


 ワンの目がわずかに揺れた。

 美咲が息を呑んだ。


 サトウは淡々と続けた。

「あなたは、中林君が三枝の脅しに負けたことを知っていた。

 だから、初日の失敗を見た後、

 彼がどれほど追い詰められるかも、わかっていたはずだ」


 ワンはその目を細め、サトウを見た。


「そして、週休明け。

 営業部に噂が流れた。

 “三枝課長は懲戒免職になる”

 “協力した者も同罪だ”」


 サトウはワンを見た。

「あなたは、その噂を利用した。

 中林君に近づき、こう言った」


 サトウは、乾いた声で言葉を再現した。

「『僕は三枝課長の指示には従わなかった。

 君と僕はそんな恐れはないがね』」


 美咲が震えた。

 ワンは表情を動かさなかった。


 サトウは続けた。

「あなたは、自分が安全だと示した。

 そして、中林君だけが危険だと示した。

 彼が罪悪感で押しつぶされることを、

 あなたは知っていた」


 ワンは沈黙したままだ。

 その沈黙が、すべてを示していた。

 サトウは、最後の一言を静かに落とした。


「あなたは、手を汚していない。

 だが――

 あなたは中林君を、追い詰めたんです」


 会議室の空気が止まった。

 誰も動かなかった。

 ワンは、ただ前を見つめていた。

 その無表情が、犯人の告白より重かった。


 サトウは黒川に向き直った。

「以上です。

 これが、ワンさんが中林君を追い詰めた経緯です」


 黒川は目を閉じた。

 胸の奥が痛んだ。

 美咲は震える手で口を押さえた。

 スワン女史は静かに目を伏せた。


 会議室の空気は、サトウの説明で重苦しい。

 誰も動かなかった。

 蛍光灯の白い光だけが、机の上の資料を照らしていた。


 ワンが、静かに息を吐いた。

「……言いがかりだよ、サトウさん。

 僕が中林君を追い詰めた?

 そんな証拠はどこにもない」

吐き捨てるような声だった。


 サトウは、ワンを見たまま、淡々と口を開いた。

「証拠ならありますよ。

 ワンさん、あなたは中林君に話しかけた時、

 彼が自分の胸をトントンと三回叩いたのを見ましたね?」


 ワンの目がわずかに揺れた。

「……見たよ。

 それがどうした?」


 サトウは、ポケットからスマホを取り出した。

 黒い端末が、蛍光灯の光を鈍く反射した。


「中林君は、日頃から会議や顧客との会話を思い出せるように、

 スマホに録音していました。

 彼の癖です。胸を三回叩くと、録音が起動します」


 ワンの表情が、初めて固まった。

 サトウは、静かに続けた。

「あなたが中林君に“僕は三枝課長の指示には従わなかった”と言った時。

 “君と僕はそんな恐れはないがね”と言った時。

 その瞬間、録音はすでに始まっていました」


 会議室の空気が凍った。

 誰も呼吸をしていないようだった。

 サトウは、スマホを机の上に置いた。


「この中林君のスマホには――

 ワンさん、あなたとの会話がすべて録音されています。

 三枝課長の命令も。

 あなたが中林君を追い詰めた言葉も。

 全部です」


 ワンの顔から血の気が引いた。

 しかし、声だけは保とうとした。

「……そんなもの、証拠にならない」


 サトウは、淡々と首を振った。

「証拠になりますよ。

 あなたが“安全圏”から中林君を見下し、

 罪悪感を利用して追い詰めた事実が、

 ここに残っています」


 ワンはサトウを睨むが、声を出さない。


 人事課長の宣告

 サトウは、ゆっくりとスワン人事課長に視線を向けた。

「スワン課長。

 ここからは、あなたの領分です」


 スワン課長は、静かに頷いた。

 そして、ワンを見た。

 声は冷たく、揺れなかった。


「ワンさん。

 あなたの在留資格では、我が社での“営業活動”しか認められていません。

 ですが――

 あなたはお国の企業の、日本での現地責任者として行動している。

 これは不正行為です」


 ワンの肩が、わずかに震えた。


 スワンは続けた。

「あなたは、三枝課長の妨害工作を利用し、

 自分の立場を守り、

 中林さんを追い詰め、

 会社の信用を損なった。

 これは重大な背信行為です」


 ワンは言葉を失った。

 サトウは、静かにスマホを回収した。


「以上です。

 これが、ワンさんの行為の全容です」


 沈黙の退場

 黒川は目を閉じた。

 美咲は震える手で口を押さえた。

 主任たちは誰も動けなかった。

 ワンは、彼のコロンの香りを残して、会議室を出て行った。

 誰も、彼に声をかける者はいない。



 あとがき

 今回のエピソードに登場する決裁や不正行為、在留資格などの専門用語について、中学生にもわかる例えを交えて解説します。


 決裁履歴(けっさいりれき)

 解説: 会社で書類や計画、お金の使い道などを上司や責任者が承認した際のデータや記録(いつ、誰が、どの案件をOKしたか)のことです。

 中学生でもわかる例え: 「学校の部活で『どんな用具を買うか』について、顧問の先生がチェックしてハンコを押した許可証の提出記録」のようなものです。


 安全圏(あんぜんけん)

 解説: 自分自身には責任や被害が及ばない、絶対に安全な立ち位置や場所のことです。

 中学生でもわかる例え: 「クラスの揉め事の渦中に入らず、遠くから『自分は関係ないよ』と安全な場所から高みの見物を決め込むポジション」です。


 在留資格(ざいりゅうしかく)

 解説: 外国人が日本に滞在し、特定の活動(仕事や留学など)を行うために政府(出入国在留管理庁)から与えられる法的な許可(ビザの種類)のことです。許可された範囲以外の仕事をする事は法律で禁じられています。

 中学生でもわかる例え: 「『部活(サッカー)をするため』だけに他校から特別に参加を認められているのに、勝手にアルバイトを始めるなどルール外の行為をしてしまうこと」への制限ルールです。


 背信行為(はいしんこうい)

 解説: 自分を信頼して仕事や立場を任せてくれた相手や会社に対して、その信頼を裏切るような行為をすることです。

 中学生でもわかる例え: 「キャプテンとしてみんなから信頼されているのに、裏でライバルチームに自分のチームの作戦をこっそり漏らしてしまう裏切り行為」です。


 告発(こくはつ)

 解説: 隠されていた不正や悪事、ルール違反の事実を公の場や責任者に明らかにし、問題を訴え出ることです。

 中学生でもわかる例え: 「テストでカンニングをしていた同級生の不正の証拠を揃えて、先生へ報告して伝えること」です。


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