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探偵ではありません。経理です。  作者: Silvertiger
第2章:受付突破と応接室の冷徹な査定

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第2話 第2章:受付突破と応接室の冷徹な査定

第2話 第2章:受付突破と応接室の冷徹な査定


サトウは金曜の定時まで伝票整理に忙しくしていた。フェイスの依頼については、着々と準備を進めていた。彼女の夫であるジェレミー医師とサラという看護師の写真も手に入れた。


 金曜の夕方5時半、オフィスでは同僚たちが週末の準備を始めている。フェイスが経理部を通りかかり、サトウのデスクに近づいてきた。


「そろそろ時間ね。準備は大丈夫?何か必要なものある?」


「はい、準備はできています。ところで、この書類にCFOのサインをお願いします。来週、精算する伝票分です」


 フェイスは書類を受け取り、素早く目を通してからサインした。

 そして小声で話す。

「わかったわ。じゃ、私は先に帰るから。6時過ぎに病院の正面玄関で待機して。何かあったら携帯に連絡ちょうだい」


 サトウは、ジェレミーの勤務する病院の受付に行く。ジェレミー医師は、この病院の外科部長だ。 サトウはあらかじめ、フェイスを通じて「CFOの代理人による重要書類の受渡」として病院事務局に正式な面会予約を入れておいた。 受付の女性看護師に身分証明書を見せる。


「私は、ドクターの奥様の部下です。奥様のご依頼でドクターにお届け物を持ってきました」


 看護師は確認し、待合室を指差した。

「わかりました。そちらでお待ちください。先生は手術中です」


 1時間後、白いコートを着た初老の医師が待合室に入って来た。その医師は手術帽を外しながら待合室を見回した。

 看護師が彼に耳打ちすると、視線がサトウの方へ向く。


「フォスターです。妻の部下とか。何の用件ですか?今ちょっと立て込んでいて、あまり時間がないんですが」


「サトウと申します。お忙しいところを申し訳ございません。実はドクターとフェイス様のプライベートなことで、フェイス様よりご指示がございました。30分ほどお時間を頂戴したいのですがいかがでしょう?」


 ジェレミーは眉をひそめ、腕時計をちらりと見た。

「プライベートな?…わかった、15分だけなら。応接室に行きましょう。で、届け物って何ですか?」


 サトウは一枚の用紙をジェレミーに差し出した。それは、フェイスから依頼された彼の身辺調査の指示書だった。


 ジェレミーは書類を受け取り、目を通すと表情が一瞬強張った。低い声で話す。

「…妻は何を考えているんだ。これは何の冗談ですか?私を疑ってるってこと?」


「はい、私は奥様の会社の経理担当です。数字には強いですが、この内容の様な調査は門外漢です。奥様も、十分私の能力をご存知の上で、このような指示を私に出したことの意味をお考えください」


 ジェレミーの顔が紅潮し、書類を握る手に力が入った。

「つまり妻は本気で私を疑っていて、会社の部下まで使って監視しようと?…馬鹿馬鹿しい。帰ってください。妻には心配しすぎだと伝えてもらえますか」


「先程申し上げた様に、私は経理担当で探偵ではありません。監視など、やり方も知りません。しかし、あなたのお言葉をそのまま報告するほど、単純でも無能でもありません」


 ジェレミーは苛立たしげに髪をかき上げ、壁の時計を睨んだ。

「じゃあ何をしに来たんですか?私を問い詰めに?それとも妻の言いなりで証拠を探しに?時間の無駄です」


「こちらの文書をご覧ください。この数ヶ月のあなたのクレジットカードの支払い明細です。そして、あなたと奥様の共有名義の銀行口座明細です。どちらも高額な使途不明の支払いが見受けられます。奥様との共有名義の資金や口座の不正操作、すなわち背任や横領の疑いがあります。これらについて、ご説明をお願いします」


 ジェレミーは書類を握りしめたまま、青ざめた。周囲を見回し、声を落とす。

「背任?何を言ってるんだ…これは個人的な問題で妻は関係ない。弁護士まで?妻はそこまで…くそ」


「問題は、あなたが奥様と共有の資金と口座を操作し、使途不明金に当てていることです。奥様は、まだ詳細はご存知ではありません。あなたの浮気を疑っているだけです」


 ジェレミーは壁に背を預け、深く息を吐いた。

「…わかった。話す。だがここじゃまずい。今夜8時、病院の裏口で会えるか?誰にも見られたくない」


「裏口ですか?それはお断りします。人の出入りのある屋根のある建物内で、お願いします。近くのホテルのロビーにしましょう」


 ジェレミーはサトウが持っている“口座記録”に強い危機感を覚えていた。

「…じゃあ病院の会議室だ。7時半。誰もいないはずだ。それ以上は譲れない。妻には何も言うな」


「誰もいない会議室ですか。困りましたね。私も自分の身の安全を確保する必要があります」


 ジェレミーが苛立たしげにサトウを睨みつけた。

「脅してるのはそっちだろう!何が安全だ。7時半、会議室B。監視カメラの死角だ。それで文句ないか?」


「私はお話を聞きたいだけです。あなたが拒否したと考えて帰ります」


 ジェレミーが慌てて腕を掴もうとしたが、すぐに手を引っ込めた。携帯を取り出し、時計を見る。

「待て!…わかった、7時半、会議室Aだ。カメラがある。それでいいだろう?だが妻にはまだ何も言うな!」


「私の言葉の意味を理解されていない様ですね。人のいない場所ではお会いできません」


 ジェレミーは歯を食いしばり、壁を拳で叩いた。

「じゃあどこがいいんだ!お前が決めろ!だが誰にも見られず、録音もなしだ!7時半までに場所を送れ!」


「近くのホテルのロビーです。8時迄お待ちしましょう」


 ジェレミーは苦々しい顔で頷いた。書類をサトウに突き返し、冷や汗を拭う。

「…ホテル・グランデのロビー。8時。だが誰にも喋るな。特に妻には。話が終われば全部破棄しろ、いいな?」


「それはお話をお聞きしてから決めます」


 ジェレミーは無言でコートを羽織った。去り際に振り返る。

「遅れるなよ。それと…この件で妻を巻き込むなよ。後悔するぞ」


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