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探偵ではありません。経理です。  作者: Silvertiger
第19話 第四話・第三章『サトウは数字の意味を知る』ー中林とサトウの繋がり

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第19話 第四話・第三章『サトウは数字の意味を知る』ー中林とサトウの繋がり

 サトウは数字の意味を知る 第三章 中林とサトウの繋がり


 黒川部長の決裁承認を確認後、中林は契約手続きを進めるために準備済みの発注書と見積書のデータを発注画面に添付し送信した。

 経理担当に、処理を迅速に促すため、電話機に手をかけたが思い直して、経理部に向かった。


 中林が経理部のドアにあるインターフォンのボタンを押し、サトウの在席を確認した。

 インターフォンから、「どうぞ。お入り下さい」とサトウの声が答えた。

 そして、ドアのロックが外れる音がした。


 中林が、室内に入るとサトウがドアの内側に迎えにきていた。

 サトウに促され、経理部の机が並ぶ一画にある打ち合わせコーナーに入る。

 席に着くと、女性社員がすぐに冷たい麦茶が入ったカップを渡してくれた。


 女性社員に礼を言い一礼すると、にこやかな笑顔で戻って行った。

 サトウが中林に話しかけた。


「無事に黒川部長の決裁がおりましたね。お疲れ様でした」

 中林は、律儀にサトウに頭を下げた。

「サトウさんのおかげです。あなたのアドバイスがあったおかげで、三枝課長の代わりに黒川部長の代行決裁を認めていただきました。本当に助かりました。ありがとうございます」


 彼の目には涙が浮かんでいた。


 サトウは、明るく手を振りながら答えた。

「私は自分の仕事をしただけです。礼は入りませんよ。

 中林くん、君は真面目だから苦労が多いですね。

 決裁もおりたことだし、しばらくリフレッシュするために休暇をとるのもいいですよ」


「はい。そうですね。いつか旅行にでも行きたいと思います」


「それはいい。ぜひ、そうしなさい。温泉がいいですよ。淡路島にある温泉旅館をお勧めします。眺めもいいし、料理も美味しいですよ。春の鯛、冬の虎河豚。

 そうだ!蛸と玉ねぎ、牛肉も美味しいですよ」


 それを、聞いていた女性社員の一人が話に割り込む。

「サトウさん、食べ物の話になるとイキイキしていますよ。その調子で伝票を片付けてくださいね」


「めぐみ君、余計なお世話だ。定時までに君のディスプレイを伝票で埋め尽くしてやるぞ」


「いやあ、それは勘弁してください」黄色い悲鳴が聞こえた。


 それにつられて、経理部の中に明るい笑い声が響く。


 中林は、サトウとめぐみのやり取りに笑顔を浮かべ(いい職場だな)とつぶやいた。


「ですが、美咲君の大事なイベントの手伝いもありますし、当分は休みは取れそうもありません」


「そうですか。でも、気分転換や息抜きは必要ですよ。何か、やっていますか?」


「いえ、会社とアパートの往復の毎日です。去年、ジムに通っていましたが、今は時間がなくて」


「そうなんですか。じゃあ、簡単ですが職場でリラックスする方法を教えましょう。

 お節介かな?」


「とんでもない、ぜひお願いします。あ、その録音してもいいですか?この頃物忘れがひどくて、大事な折衝は録音することにしているんです」


「私の話はそんなに大袈裟なものではないですよ。でも、君の気が済むならどうぞ録音してください」


 中林は、スマホを取り出し、背面を三回タップしサトウに話を促した。

「リラックスする方法をお話しください」


 サトウは、興味深く中林の動作を見ていた。


「では、始めます。まず、ゆっくり鼻から息を吸います。一から五まで頭の中で数えてください。そして五秒間息を止めます。そしてゆっくり五秒間で全ての息を吐き出してください。息を吸う時は、お腹を膨らまします。吐き出すときはお腹を縮めます。腹式呼吸とも言います。これを最低三回繰り返してください」


「やってみてください」


 中林は、サトウの見守る前でゆっくりと呼吸をする。


 繰り返すうちに、少し心が落ち着き体の中が暖かくなったと感じた。


 その時、廊下でスースーと鼻息が聞こえた。

 中林が見上げると、経理部部長のラビットが立っていた。

 慌てて、中林が起立するところをラビットが手で制した。


「すまない。二人を邪魔するつもりはなかった。サトウ君の蘊蓄は役に立つから、つい私もその気になって呼吸をしていたんだ」


「部長、ウロウロしないで自席でやってください。部長の鼻息を職場に撒き散らさないでくださいね」

 めぐみの隣にいた女性社員が茶化す。


「はいはい、悪かったね。サトウ君、話の途中で悪いが、来週の管理者研修には必ず参加してくださいよ。君が早く昇進してくれないと、私の立場が危うくなる」


「なんですか?それは、意味がわかりません」


「この経理部の管理職は部長の私一人だ。前任者から引き継いだ時は、課長が一人いたが胃潰瘍で入院後、この三ヶ月後任が不在のままだ。

 社内規定では後任を任命しないといけない。そうでないと私のボーナス査定が低くなる」


「なんだ、部長ご自身のためですか。私には関係ありません」


 中林はラビット部長とサトウとの会話を聞いて、驚きを隠せない。

 他の経理部職員は、またいつもの漫才が始まったと、傍観している。


「サトウさん、部長が困っているんだから、貸しにしてあげたらどうですか?

 次期課長はサトウさんなら適任だと経理部全員が思っていますよ。

 だって、部長は今でもサトウさんがいないと仕事にならないんだから」


 めぐみが助け舟なのか、どうかはともかく、サトウは渋々研修参加に同意した。


 ラビットは一息つき、中林に「邪魔したな」と手を振り、自席に戻って行った。


「中林君、すまない。邪魔が入ったね。でも、少しはリラックスできたかな?」


 中林はスマホを片付け、立ち上がった。

「おかげさまで、久しぶりに笑わせていただきました。ありがとうございます。

 教わった呼吸法を試してみます」


 少しためらったが、言葉を続ける。


「あの、またサトウさん、話を聞いていただけますか?」


 サトウは、中林を優しく見つめ

「いいですよ。私で、よければいつでも声をかけてください。私用の電話でも構いません」


 二人は、電話番号とメールアドレスを交換しあった。


 中林は経理部の部屋を出る間際、めぐみや他の職員に

「お茶をごちそうさまでした。お仕事中お邪魔しました」と一礼した。

 めぐみが大きく手を振り、「いつでもいらっしゃい!」

 その声を背にうけて自分の職場に戻って行った。



あとがき


第19話に出た用語の解説です。

 用語解説一覧

 1. インターフォン

 解説: 部屋の入口などに設置されている、建物の内外や別の部屋と会話をするための連絡用電話(内線通話装置)。

 中学生でもわかる例: 家の玄関についている、ピンポーンと鳴らして「はーい、どちら様ですか?」と会話をするドアホンのことです。会社では、セキュリティーのために施錠された部屋へ入る時によく使われます。


 2. 腹式呼吸(ふくしきこきゅう)

 解説: 息を吸う時にお腹をくらませ、吐く時にお腹をへこませる呼吸法。副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる効果がある。

 中学生でもわかる例: 歌をうたう時や、あおむけで寝ている時の自然な息の仕方のことです。胸だけでなくお腹を動かして深呼吸することで、興奮した心や緊張した体を落ち着かせる効果があります。


 3. 折衝(せっしょう)

 解説: 仕事や取引などで、お互いが納得いく結論を出すために話し合いや交渉を行うこと。

 中学生でもわかる例: 文化祭の予算を決める時に、「うちは1万円ほしい」「いや、5千円にしてくれ」とお互いの希望を出し合い、お互いが納得できる条件(例えば7千円)を探して話し合うことです。


 4. 蘊蓄(うんちく)

 解説: ある特定の分野について、深い知識や専門的な雑学を蓄えていること。また、それを披露すること。

 中学生でもわかる例: アニメや歴史などにすごく詳しくて、「実はこのキャラクターの元ネタはね…」と頼まれてもいないのに詳しく教えてくれるような知識のことです。


 5. 管理者研修(かんりしゃけんしゅう)

 解説: 部下を持つ立場(課長や部長など)になる人や、すでにその立場にいる人が、部下の指導法や組織の管理方法を学ぶための研修。

 中学生でもわかる例: 部活動の「キャプテンや副キャプテンになるための勉強会」のようなものです。下級生をどうまとめるか、チームの目標をどう達成するかを学ぶ講座のことです。


 6. 査定(さてい)

 解説: 社員の仕事の成果や態度を評価し、給料やボーナスの金額、昇進の可否などを決めること。

 中学生でもわかる例: 学校でいう「通知表の成績づけ」のことです。テストの点数や授業の態度を見て、先生が「5・4・3…」と評価を下す仕組みと同じです。




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