第17話 第四話・第一章『サトウは数字の意味を知る』ー静かな崩壊の始まり
第一章 静かな崩壊の始まり
中林が救急搬送された日の一月前、営業部は始業時から賑やかだった。
あと一月を切った大事なイベントを成功させるため、各部門の精鋭たちが集まり、美咲を中心に喧々諤々の声が飛び交っていた。
システム管理部の社員は、プレゼンテーション用の機材をリハーサル用にセットアップするため、美咲と機材の設置場所を相談している。
商品管理部は、イベント会場に陳列する製品を用意するため、搬送計画を美咲に確認している。
営業部の精鋭、ワン・バトウ課長代理と中林敦雄課長代理が、プレゼン資料の内容を加筆修正している。
三枝課長は、黒崎部長からプレゼンターに指名された由紀の演習に、嫌味を交えたダメ出しをしている。
美咲は、それら全てに関与し、テキパキと解決していった。
幹部会議から戻った黒川部長は、彼らに声をかけ、労いを終えると自室に戻った。
机に会議で配布されたレジメをおき、赤色で厳秘と朱印が押された一枚を取り出す。
部長専用の椅子を軋ませ腰を落ち着け、その文書を再読する。
先ほどの会議で報告された営業部社員のメンタル検査の結果だ。
黒川が優秀と評価する三人の課長代理の一人、中林敦雄のメンタル検査結果だ。
彼は、昨年と今年の二回、全社員に義務付けられたメンタルヘルス講習に参加していた。
昨年の講習で受けたメンタル検査で、中林は基準値に近いストレス反応を示していた。
その検査結果を知ったのは、黒川が三枝課長と険悪な状態になる原因となった、美咲をイベントの責任者に指名する前だった。
黒川は直属上司の三枝に、中林の標準的な見守りと面談を指示した。
そして、今回の検査結果だ。
それには、中林には基準値をはるかに超えるストレス反応があると示していた。
あとがき
この第17話に出ている言葉の説明を以下に記します。
参考にしてください。
■ ビジネス・社内管理関連
厳秘
解説:極めて厳重に秘密を守る必要がある情報の扱いのことです。
作中では、個人のプライバシーに深く関わる「中林のメンタル検査結果」の書類に、赤色でこの朱印が押されていました。
例:まだ発表前のテストの点数一覧や、先生同士しか知らない秘密の指導記録のように、特定の人以外には絶対に見せてはいけない書類のようなものです。
標準的な見守りと面談
解説:部下の様子に少しストレスの兆候が見られた際、直属の上司が日頃から気配りをし、定期的に対話を行って様子を確認する予防的なアプローチです。
黒川部長は中林の初期のストレスサインを受け、三枝課長にこの対応を指示していました。
例:風邪気味の友達に「体調どう?」と声をかけたり、様子がいつもと違えば保健室へ行くよう促したりする、日常のちょっとした優しい気遣いのことです。
■ メンタルヘルス・コンプライアンス関連
メンタル検査
解説:働く人々が自分のストレス状態に気づき、心の健康を守るために行うアンケート形式の検査です。
作中では全社員に受診が義務付けられており、中林が「基準値をはるかに超えるストレス」を抱えていることを示す決定的なデータとなりました。
例:体の異常を調べる「健康診断」の、心バージョンです。
安全配慮義務
解説:会社(組織)が、社員が心身の安全と健康を脅かされることなく働けるように、必要な措置や配慮を行う法的・社会的な義務のことです。
社員がうつ病になるほどの過酷な環境を放置することは、この義務を怠ったとみなされます。
例:学校の部活動で、顧問の先生が熱中症を防ぐためにこまめな水分補給を指示するなど、生徒の安全を第一に考えて行動しなければならないルールと同じです。




